21
彼女は、宣言どおり火曜日に商品を取りにやってきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
やっぱりどうしても、彼女と対面すると体が強張る。そんな私の態度を見てか、彼女はふっと笑った。
「この前は、言い過ぎました」
「え?」
「この前来たときは、さすがにいろいろ言い過ぎたなって、あのあと反省したんです」
今日の彼女は柔らかく笑っていた。唇の端が強張っていたから、装っているだけかもしれないけど。
「いえ」
言われたことは、間違っていなかったと思う。
まとめておいた在庫のダンボールと、先月の売り上げをまとめたものを彼女に差し出した。
彼女は黙ってダンボールの中身等を確認してから、
「はい、確かに」
頷いた。
ああ、これで、本当に、終わってしまうのか。
「今までありがとうございました」
素直にその言葉が出て来て、ゆっくりと頭をさげる。
「いえ、こちらこそ」
彼女もそう言ってくれた。
「……一つ、いいですか?」
「はい」
今度は何を言われるのだろう。びくびくしながら、それでもそれを必死に押し隠して彼女を見る。
「私、三島さんのことは好きでした、人として」
「……ありがとうございます」
過去形なことに少し胸が痛む。
「だから、言うんですけれども。気を悪くしないでほしいんですけれども。って、もう無理かもしれないけど」
そこで少し、彼女は笑った。おどけたように。
「三島さんがmine meの二人に、都合のいいように利用されているだけ、ってことはないんですか?」
「……え?」
言われた言葉が理解できなくて、間抜けな顔をしてしまった気がする。
「三島さんが優しいから、あの人達それにのっかっているだけなんじゃないのかな、って思ったんです。この前。わざとらしく、MIMIMIなんて名前つけて、三島さんもメンバーの一員だよ、みたいな顔をしていたけれども、結局三島さんがやっていたのは雑用でしょう?」
「それは、私がやるって言ったからで……」
「三島さんが自分でやるって言い出すことぐらい、私にだってわかります。私よりも深い付き合いをしている、あの二人がわからないわけがない。三島さんが自主的に言ったとしても、あの二人がそれを利用しなかった証拠にはならない」
ぺらぺらと立て板に水のごとく、話されることばに理解が追いつかない。
利用?
誰が、何を?
峯岸と美作さんが、私を?
「実際、mine meって三島さんが手をいれてくれて助かっている部分、多いじゃないですか。袋詰めとかもそうだけど。三島さんは、Insulo de Triのためだって言うかもしれないけど、でもその前にあの二人が直接利益を得ますよね、その行為で。あの二人は作家だけど、三島さんは違うし」
理解が追いつかないなかでも、その言葉は刺さった。
そうだ、私は、あの二人とは違うのだ。
あの二人は、作家だ。
目の前で話している、この人も作家だ。
私はただの、雑貨屋だ。
ただの、凡人だ。
「端から見ていると、三島さんがあの二人に、ただただ利用されているだけに見えるんです」
彼女ははっきりと、そう言い切った。
「勘違いだったらすみません」
そう付け足されたけれども、彼女は勘違いだなんて思っていないようだった。
そのまま挨拶をして、彼女は足早に去って行く。
その後ろ姿を見送りながらも、私はただ黙って言われたことを反芻していた。
利用されている? 私が? あの二人に?
あの二人にそんな度量がないことは、私がよく知っている。あの人よりも知っている。
本当に?
棚に視線を向ける。mine meが置いてある棚に。
だって私は、生み出す側じゃないのに。それなのに、生み出す側のあの二人のことが、わかるというの? あの二人の、一体何がわかるというの?
好意のただのり?
ああなんだか、もうよくわからない。
顔を覆って、ため息をついた。




