空港大炎上
ふと気付けば最近まで働いていたホテルに客としてロビーにいた
顔見知りの知っている従業員も見たがとっさに顔を下に向けたので相手は自分に気づいたかどうかはわからない
なぜなら自分は突然会社をトンズラして辞めてしまったので、いたたまれなくなったから…
気分転換に外に出るとそこは空港だった
いつのまにか古いホテルが真新しい空港に変わっていた
というより最初から空港内のロビーをホテルと勘違いしていたのかもしれない
「でも確かに最近まで働いていた赤レンガの古いホテルだったはずだけど…」
なのでとりあえず「ホテル空港と呼ぶことにしよう」
そう思いながらも辺りを見回すと ちょうど飛行機が着陸体勢で進入しながら飛んできた
同体の太いずんぐりとした白い旅客機
間近で見るととてつもなく大きい
真っ白な機体に緑色の文字で航空会社名が書かれていた
ネイティブが書くようなアルファベット文字なので読めなかった
その旅客機の着陸を見ようと眺めていると機体がいきなり180度回転しだした
と同時にそのままの体勢で滑るように墜落し大爆発した
ものすごい爆音と炎で辺り一面黒煙に包まれている
爆風は感じなかったので空港敷地内といえど距離があったのかもしれない
自分の他に何人か目撃者がいた
最初は何が起きているのか理解できなかった
最初はアクロバット飛行をしているのかと思ったが冷静に考えれば旅客機でアクロバットなどあり得るはずもなく と同時に 携帯を家に置いてきてしまっていたので今まさに目の前で起きている大惨事を動画に撮れない事を悔しげに嘆いていた
「あ〜あ、こんな決定的瞬間、せっかくテレビ局に売れたのに…」
そんな他人事の自分は、状況判断を読めず乗客の安否をよそに現実感のないその有り様をぼーっと眺めて見ていた
一、二分たった頃、消防車のサイレンが鳴り響いて周りがざわめきだってきた
建物の中からも人が出てきて状況を確認している
自分も回りの人達も墜落現場に行こうと思いモクモクと黒煙が炎上する場所をめがけて小走りに走り出した
自転車で追い抜き、走り去る人もいた
途中、ホテル空港の緊急事態関係従業員達が集まって上から指示を待っている状態だった
そこを横目に通りすぎだんだん近づくにつれて 墜落現場はどうやら空港の敷地外らしいということがわかってきた
地理的に徒歩でそれ以上は近付く事ができずに ある程度行った所でまたホテル空港に戻ってきた
戻る途中、対面に数名の女性達が歩いてきた
とっさに顔を下に向けて通り越した
だってホテル空港の従業員かもしれないから…
相変わらずホテル空港の外は消防車や救急車のサイレンで慌ただしいのに、建物の中に一歩入ってみると そこはいつもと変わらぬゆっくりとした穏やかな空気が流れていた
人々は飛行機が墜落したことなどまるで気づいていないようだった
ソファーに座って談笑する人
レストランで食事をたしなむ人
笑顔で客人を迎えるフロントマン
中と外のあまりのギャップに戸惑いながらも、自分はホテル空港の屋上で現場を確認したいと思い最上階目指して階段を駆け昇っていた
このホテル空港は詳しく覚えてないけど五、六階くらいだろうか?
途中途中の階の人々の表情を見たが やはりのほほんとしている
やっぱり気づいていないみたいだ
「なんでこんな間近で轟音も爆発も気づかないんだ?」
そう思いながら廊下を歩いていると椅子に座った初老の男性が話しかけてきた
初老「さっき何か凄い音が聞こえたけど何だい?」
自分「飛行機が墜落したんですよ、すぐ側で」
初老「へぇ、そうですか…」
そう言うとその初老の男性はトイレへと消えていった
「何だろう?このリアクションは…」
すぐ側で飛行機が墜落したというのに
想定外の反応に戸惑った私もとりあえず女子トイレの方へ入った
女子トイレには自分一人
電気を点けて鏡を見る
黒いマシュマロカットに白黒チュニックと黒いショートパンツ姿の自分…
焦げ茶色のショートブーツを履いた素っぴんの年齢不詳の自分…
深いため息一つ
周りからどう見られていたのだろう
個室に入ってしみじみ思う
現実的に考えて確率的にあり得ない墜落現場に遭遇し大惨事を目の当たりににして当初の目的があやふやになってしまった感は否めない
便器に腰を落とすのは衛生上、生理的に無理なので、床にしゃがみながら自分に言い聞かせ心を落ち着かせる
「警察も来てるし身分チェックされ面倒になる前にもうここから早く退散したほうがよさそうだ」
そっと静かにトイレのドアを開け、回りを見渡しながら階下を足早に降る
ついさっき初老の男性に話しかけられた時も、ホテル空港に戻る途中に会った女性達にも内心ドキドキしていた
もっと言えばなぜ私は最近まで勤めていたホテル空港へいたのか?
何の目的で足を運んだのか
バレるかも知れないというのに…
「バレる?」
バレるとは、かつてここで働いていたという事ではなく、そう、私は紛れもなく〇〇〇だから…
ふふふふふふふふふふ…
終り