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俺の許嫁が転生者で悪役令嬢らしい  作者: 天川ひつじ
オマケ(ホワイトデー)
7/8

きみのため 俺のため

※本編の補足の話ではありません。その後の小話。ホワイトデーVer.

「おやめください!」

「俺が良いと言っている。教えろ」

「しかし、次期ご当主ともあろう方が・・・奥様のお叱りを受けてしまいます!」

「良いから教えろ・・・」


いくら俺が優秀でも、この世にはままならないこともある。

例えば、今。厨房ちゅうぼうにて自ら作業をすることだ。


「なりません!」

左右背後合計5人に囲まれて騒がれて非常に鬱陶うっとうしい。皆が必死で止めて来る。

俺の眉間みけんしわがどんどん深くなる。

イライラしながら、俺はギッと左を睨んだ。

「1年に1度、それも数時間菓子作りをするだけだ、構うな!」


「なりません! 一体どうされたのですか!? まさか気が触れてしまわれたのですか!?」

「菓子作りでそこまで言われる筋合いはない!」

「お、お菓子ならば、なんなりとお申し付けください、ウラヌス様。精一杯、心を込めてお作りさせていただきますから・・・」

えぇい。どいつもこいつも。ため息をつきたくなるのを俺は堪えた。

「違う。ロティー、分かっている。いつもお前の料理は素晴らしい。満足している。本当だ。だが今日においては俺自らの作業が必要なんだ。分かってくれ」

「なりません!」

シェフのロティーより早く、執事のダニアンが横からがなり立てる。くそうるさい。

もうちょっと直接話せれば、シェフのロティーは分かってくれそうなのに。


ダニアンよ、お前は壁か。

身長は俺の方がぐんと高いんだが、なんだこの制止力。

声の大きさと小回りの良さ。知っていたがやはりこういう時に有能だよな。耐えがたい。


「あのな、1年に1度の気まぐれみたいなもんだ」

「気まぐれとは! ウラヌス様は料理人ではなく次期ご当主! この由緒正しく権威あるギードニウスの家を継いでいかれるあなた様が、」

「あのなぁ、狩猟しゅりょうで自ら獲物の腹をさばく男も大勢いる」

それこそ我が家の先々代がそうだったと聞くぞ。


「狩猟での自炊は男性としての能力の高さに繋がります! しかし今はお菓子作りというではありませんか! ウラヌス様にはご不要です、一時の迷いとしても、」

「あぁもう、」

きちんと理由を言わない俺も悪いんだが、うんざりする。


とはいえ、リュシアンナのチョコレートの返礼に、俺も菓子を贈るべきなんだと、どの口が言えようか。

言えねぇよ。

俺が恥ずかしいってだけだが。


しかも、理由を話しても止めてくると予想できる。効果ないなら打ち明ける必要もない。


***


俺には婚約者がいる。

リュシアンナという名で、同い年で、派手系の美人で気が強くて、少し俺には口が悪くて妄言が混じるのが心配でもあるんだが、どうしようもないことにとても可愛くて俺といるときに気が緩んだように笑ったのなんか見たらもう本当にぐっとくる、あんな性格で外見なのに俺には可憐ささえ見せてくれて、もう本当に良い女で、すまない、以下割愛。


とにかく、俺の婚約者のリュシアンナには、なぜかカレンダーに沿った勝手なイベントがある。

『俺にチョコレートを贈る日』という良く分からない日も。


今年、俺はリシュアンナに対する心を入れ替えた。まぁ今年から本気で惚れたと。


その結果、どうでも良いとあまり気にも留めなかった、『毎年来るチョコレート日』の理由と意味が改めて気になったのだ。


幼い時に確認した時には、「好きな人にあげる日だ」という回答だった。

そう覚えてもいるが、改めて確認したくなったのは、特別な意味があると俺が期待していたし、そういう言葉を、俺が欲しくなったからだろう。


改めて聞いてみた時、リュシアンナは少しキョトンとした。

それから、少しおかしそうに笑い、楽しげに答えようとしてから、俺の目を見て一瞬動きを止め、それから分かりやすくパァと赤面した。

とっさに扇で顔を隠してしまったが、もう見た。遅い。


ちなみにそんなリュシアンナを、耳元で囁いて陥落させた俺。

腕を抑えて扇の動きを封じたので、真っ赤になった顔が傍によく見えた。

「・・・好きな人に、その、告白の意味を込めて贈るのですわっ、チョコレート!」

白状の途中までは恥ずかしさから涙目にさえなったくせに、最後は負けん気が盛り返してきたようで、キッと強く睨まれた。

全く怖くない。

予想した通りの答えで、俺の頬が緩んでしまったのを見て取ったリュシアンナは、ふるふると震えて動揺した。

そして、彼女の性格ゆえに、俺になんとか反撃しようとしたらしい。


「ほ、本当はっ!」

「・・・うん?」

「も、もう! 甘い声を出すなんて、ウラヌス!」

リュシアンナは照れ隠しに俺を非難するのだが、彼女の行動は分かりやすいのでそれすら可愛く思える。俺もたいがい末期だ。


フン、と俺の手から自らの腕の自由を取り戻したリュシアンナは、また扇をバッと口元に広げ、俺を馬鹿にしたような顔で俺を見下そうとした。

「良い事!? 本当は、私に、お返しをくれるのが本物なんですからねっ!?」

「・・・ん?」


いつもの高飛車演技と余裕をもっていた俺は、初耳情報につい眉をしかめた。

なんだ? 『本物』? 『お返し』? 俺が何かするべきだったのか?


俺が真顔になったのに気づいて、リュシアンナはハッとしたらしい。

目を分かりやすく泳がせて、何かを考えた後、ニッコリと俺に笑って見せた。外面用の仮面の笑顔だ。

「嘘。嘘ですわ。ウラヌスがあんまり私をからかうから。私だって、少しあなたをからかってみたんですの」

「リュシアンナ」

俺もニッコリと笑った。


さぁ、どういう方法で本音を聞き出そう。

俺の笑顔も完璧だったはずなのだが、リュシアンナはサァッと口元を引きつらせ、慌てた。


「違う、違うんですのよ。口が滑っただけで、私が贈りたいだけで、だからそれで良いんです! 私が贈って、喜んで下さったらそれで私が満足なの!」

「リュシアンナ」


よし、口説き落とそう。


俺はリュシアンナが好む少し低い落ち着いた声を出して真面目な顔で囁いた。

「俺もきみに何か贈りたい。きみが好むルールがあるなら沿いたい。きみは毎年決まった時期にチョコレートをくれるだろう? 本当は俺もきみに何かを贈るべきだったのか。チョコレートの返礼として。頼む、教えてくれないか」

「うぅううう、うぅうううー」


真っ赤になって動揺して呻き始めているリュシアンナに、冷静に指摘してやる。

「リュシアンナ、きみは、俺のこういう願いに弱いんだ。素直に吐け」

「もう! どうしてそう性悪なのウラヌス!」


「性悪とは心外だ。それに演じるのも楽しんでいるが、言っている内容は本心からだ」

「うぅううううー」


「ほら、さっさと白状だ。言ったら楽になるぞ、リュシアンナ」

「楽しそうに自白を求めないでちょうだい!」


「そうだな」

と俺はニコリと本心から笑った。

「最近、きみとなら何を話していても楽しい」

知っていて欲しいと思ったので本人に真実を告げておく。

「うっ・・・」


あ。しまった。自白前に、感極まらせてしまった。

こうなるとマズイ。俺が。


リュシアンナが目を潤ませて俺を見つめる。

そして恥ずかしさを堪えながら、俺に言葉できちんと返してくれるのだ。

「ば、ばか・・・。私も、同じよ・・・」


俺の心臓の音が部屋中に聞こえるかと思うほど、動揺させられる。


***


冷静に考えるとただのバカップルのじゃれ合いになっているんだろうなと、気づいているがそうなってしまう。

とはいえ、互いに照れたり演技をしてみたりしながらも、最終的には俺はリュシアンナの不思議ルールを聞き出すことに成功した。


リュシアンナ的には、リュシアンナのチョコレート日の1か月後に、菓子をその返礼に贈るのが理想らしい。例えば、マカロンが良いそうだ。

好意を贈る意味が含まれるという。


まぁ、確かに照れと恥ずかしさを覚えるわけだが。

とはいえ、どうしてその理想を出し惜しみするんだ、リュシアンナ。

教えてくれたなら、こちらは喜んで沿う意思があるのに。


今までの俺の態度が悪かったせいもあるんだろうか。

今回はリュシアンナの勝手なルールだ、ということも大きいだろう。

だが、どうもリュシアンナは最終的なところは、俺に行動を期待していないというか、求めようとしていないというか。


もし俺が期待されていないのなら、それは、俺が辛くて悔しい。

ほら、返せるぞ、見ろ、と示したくなる。


なんだろうな。やっぱり、俺が今まで、リュシアンナからの好意を返して来なかったツケなんだろうか。


***


というわけで、俺はリュシアンナに聞き出した、俺に求められている不思議ルールに基づき行動したいのだ。

実現したい!


なのにままならない現実。

明日に、リュシアンナにマカロンを贈りたいんだ。が。


ちなみに菓子作りはやったことがない上に、クソ甘すぎるマカロンの何がうまいのかイマイチ俺には理解できないが、リュシアンナが希望するのならぜひマカロンを作りたい、この熱意と、各種方面で天才だと言われ器用さのある俺ならなんとかなりそうな予感がしている。

そもそも、我が家のデザートを担当しているシェフたちに教えを乞うつもりだし無謀むぼうでは無いはずだ。

それに、菓子作りが俺の手に負えないものならば、幼少時のリュシアンナのように、最後の飾りつけ的な何か、せめて俺が少し手を加えることができたら良い・・・。


が。

確かに、我が家を継ぐものとしては求められていない行動なのは分かっている。

俺の突拍子もない奇行を、周りは制止すべきと使命感すら燃やしている。

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