第二話 許嫁が悪評をたて、俺は夜会の誘いを受ける
リュシアンナが、やらかしたらしい。
俺の耳に、『リュシアンナ様がピューリさんを呼び出した』とか色々入ってくる。
アイツいったい何やってんだ、上位貴族として、そんな噂をたてる隙を与えるヤツじゃないのに。
最近、リュシアンナの悪評が激しい。
大丈夫か、アイツ。
『ウラヌス、お前がリュシアンナ嬢を構ってやらないから、彼女必死だぞ』なんて助言してくる友人もいるのだが、別にこちらは普段通りなのだが。
あと、なんか最近頻繁に俺のところに押しかけてくるが、丁度ミーティングがあったりなんだかんだでいつもタイミングが悪いんだよな。
そんな俺を、リュシアンナは涙目になって睨んでくる事がある。
マジ怖い。
いっそ来るなと思う。
***
一方で、なんだか妙にピューリ嬢と会う事が多い。
例えば、気分転換に中庭の一つに足を運ぶと、リスにエサをやっているピューリ嬢と出会う。
偶然なのに妙に会うよなぁ、俺たちは。などと内心思ってる。口には出さないが。
小動物が好きらしい。
ピューリ嬢は、ポケットにいつもビスケットとかいれちゃうんです、とか言って笑った。
だから廊下にポロポロとビスケットを落としている事もあるらしくて怒られることもあるらしい。
何してんだ、アンタ。
でもなんか楽しい。
とか思う。
傍にいるのが楽だ。
***
そんなある日、ガチ勝負! と言った雰囲気を引っ提げて、めちゃくちゃ気合入れたんだろうなぁ、という化粧と服装をして、リュシアンナが俺の前に現れた。
それなりにキレイなんだが、漂う悲壮感がハンパ無い。一体どうした。
「わ、私、決死の覚悟で参りました」
声が震えてる。
一体なんだ、早く言ってくれ。この空気重くていたたまれない。
こっちの顔も引きつるというものだ。
「あ、あの・・・・」
俺はため息をついた。
「どうした。速やかに用件を話してくれないか」
なぜか、リュシアンナは絶望したような顔をした。
なんでだ。
そんなにひどい事言ってないだろうが。正論を言ってるだろうが俺は。
「わ、私の事など、もう、どうでも宜しいのですね・・・!」
は?
俺は眉をしかめてリュシアンナを見る。
リュシアンナは震えている。
「や、夜会に・・・ 今度の夜会のパートナーを、お願い、したくて・・・でも、もう、あなたには私などどうでも良い、の、ね」
夜会。
俺はさらに顔をしかめた。
そんな予定あったっけ。
あ、あった。忘れてたな。
「あぁ、夜会か」
「パ、パートナーに、なって、いただけますか、ウラヌス様」
ギュっと何かをかみ殺して、俯いて、それでも眼だけは俺を睨むよう見るリュシアンナ。
なんで俺相手に、そんな風に話すんだ。
なんでそんな態度で、なんで声まで震えてる。
イラっと来て、言ってしまった。
「俺ではあなたの期待に応えられないようだ」
***
しまった…。
泣かせてしまった上に、走り去られてしまった。
追いかけて謝罪するべきだと分かっているが、できなかった。
自分のプライドの高さと性格の悪さが分かって打ちのめされる…。
やってしまった…。
***
「どうしたんですか、ウラヌスさん?」
「え?」
イライラした気分を引きずったまま、窓からじっと景色を睨んでいたら、ピューリ嬢に発見された。
キミ、よく俺がこんな気分の時に声かけてくるな。
「なにかありましたか?」
と俺の顔を覗き込むピューリ嬢。
俺は無理やりに笑った。
天使を暗い気分に引きずりこむわけにはいかない。
「いいや、何も問題ない」とか答えている俺。
いや、俺とリュシアンナ的には問題だが、アンタには問題ないよ、とか思うわけだから。
「そうですか?」
と小首を傾げて俺の顔を見上げるピューリ嬢。
可愛い人だな、と、素直に思う。
こんなしぐさ、ふつーにする人、今まで見たことないな。
例えばリシュアンナとかは、扇バッサーと開いて、ちょっと上から目線で鼻で笑うとかするしな。こういう場合の返事として。
そうなんだよな、アイツ、幼いころからの付き合いだから、俺が適当に発言すると分かっちゃうわけで、馬鹿にした態度をしてきやがる。
なのに、アイツは最近なんなんだ、何必死になってんだ、らしくねぇ、ほんと分かんねぇ。
またイラっと来た。
が、今はピューリ嬢の前だ、顔に出すことを控える。
「あ、あの、ウラヌスさん」
とピューリ嬢が声をかけてくる。
いかん、ちょっと思考を飛ばしていた。
俺が目線をピューリ嬢にやると、ちょっと戸惑いながら、目を泳がせているピューリ嬢がいた。
「・・・どうした、あなたらしくない」
とかまたポロっと口から出る俺。
自分で言って変だと思う。『あなたらしくない』とか、そもそもどんな人かよく知らんだろ。
まぁ言ってしまったし相手も気にしてなさそうだからいいだろう。
「あ、あの・・・こんなお願い、聞いていただけるかどうか」
なんでしょうか、天使。
とりあえず言ってみれば。
「俺にできることだろうか」
「あ、あの・・・」
ピューリ嬢は恥ずかしそうに言った。
「あの、今度の夜会、私、あの、出席するようにって言われたんですが…パートナーがいなくて…あの、ウラヌス、さん、もしあの、良かったら…」
俺は驚いて軽く目を見張った。
なんだ、女子の頭の中は今、夜会の事でいっぱいなのか?
君たち、その前にある試験の事を忘れてないか?
あ、そか、ピューリ嬢は頭いいんだっけ。