第一話 俺の許嫁が、突然、謎な事を言ってきた。
俺の許嫁が、突然
「私は前世の記憶を持っております。ここは乙女ゲームの世界です。あなたは攻略対象で、私は主人公を邪魔する悪役令嬢なのです」
とか言ってきた。
この人は俺の何を推し量ろうとして来たのだろうか。
眉をひそめた俺に、彼女はさらに真剣な顔で言った。
「ウラヌス様は、ピューリさんの事をどう思っておられますか。あの天真爛漫、可愛く可憐な顔立ち、魅力ある体つき!」
どうもこうも。
「ピューリ? 誰の事だ」
俺の態度に、彼女…リュシアンナはため息をついた。
「そうですか…まだ進んでない…でもこれからだわ…」
ブツブツつぶやきだした彼女に、俺は不審な空気を見た。
***
俺は上位貴族の家の嫡男である。そんな俺には幼いころから許嫁が決められている。同じく上位貴族のリュシアンナだ。彼女とは幼少時からの交流が続いている。
家同士で決められたものだが、別に不満は無い。
心から愛しているかと言われればそういうわけでもない。
単純に、幼いころから知っていて、それでいいやというところである。
リュシアンナに、誰か好きな人はできていないのかと尋ねられたが、それも無い。
今更、他の誰かを許嫁にしたとして、単に手間だと思う。
リュシアンナなら、例えば誕生日にはどういうものを贈れば良いなど傾向と対策が分かっている、楽である。
しかしそれを正直にいうのはさすがに良くない気がするので基本黙っている俺に、リュシアンナは宣言した。
「私は、ずっとウラヌス様をお慕いしているのです。どうか御心変わりなどされないでくださいませ!」
一体なにをそんなに必死になっているのか。
自分に全く心当たりがない。
「大丈夫だ。婚約破棄などするつもりなどない」
と答えれば、リュシアンナはほっと息を吐き、落ち着きを取り戻したようだった。
***
しかし。
皮肉なことに、リュシアンナの訴えがあって気になった。
ピューリって一体誰の事だ。
調べてみれば、庶民の家から特待生として学校に通っている女学生の事であった。
同学年であったか。
全く面識ない。リュシアンナは一体何を聞いて何を心配したのか。
そう思ってついピューリという名の女学生を観察していると、ふと目があってしまった。
しまった、不躾な事をしていた、と内心焦る俺に構わず、彼女はニコリと会釈した。
驚いた。
印象が良い。可愛いし。
***
ピューリは、特待生だけあって頭が良いようで、試験には常に上位に入っていると分かった。
自分がだいたい試験は首位なもので、まぁ大体3位ぐらいのメンバーは見るのだが、それ以下となると基本的に気にしたことがなかったのだが。
庶民の出のピューリ嬢は、貴族が多く通う学園においては馴染めない事も多いようだが、持ち前の明るいほがらかな性格で楽しくやっているようだ。
俺と同じく上位貴族、学友のハイデアント…俺よりも剣術に秀でている…ともピューリ嬢は仲が良いらしい。
授業の一環で、ハイデアントと公開決戦を行った。
惜しくも俺はハイデアントに敗れてしまった。
その際、ハイデアントの傍にはこのピューリ嬢がいて、頬を染めて喜びハイデアントに祝いの言葉を贈っていた。
ちょっと羨ましく見てしまった。勝負ひっくるめて何か負けた気分だ。
***
そんな決戦後、移動中の廊下の人気のないところで硬い顔したリュシアンナが現れた。
なぜそんなにコソコソ現れるんだ?
リュシアンナは、「あ、あの・・・惜しかった、ですわね」とか言ってきた。
暗くてオドオドと言ったものだから俺は負け犬気分をグッサリと味わい、眉をひそめた。
そんなコメント要らねぇ。
むしろ俺は頑張った、2位を褒め称えろ。
俺の態度が悪いので、リュシアンナは動揺したらしい。
辛気臭い。
俺は眉をしかめたまま、フィとその場を去った。
「あ・・・・! あの・・・ウラヌス様!」
リュシアンナが後ろから動揺したように呼び止めるが、無視した。
我ながら大人げない。
***
イライラしながら教室に戻る際、ドアを開けて急に飛び出してきたヤツとぶつかった。
「きゃ! ご、ごめんなさい…あ、ウラヌスさん!」
「え? あぁ・・・」
見ると、ピューリ嬢である。
彼女は俺を見て、ぶつかった事について恥ずかしく思ったのだろう、頬を染めた。
あれなんだこの可愛さ。
「あの、公開試合見てました! 二位って、ウラヌスさん強いんですね!」
とかちょっとはにかんだように笑って言ってくれる。
うわなんだこの天使発言。
癒される。
「ありがとう。見てもらえたとは光栄だな」
とか口からポロリと言ってしまう俺。
ピューリ嬢は、基本愛想のない俺がそんな事言ったからだろうか、目を丸くして驚いてからまた笑い、「ウラヌスさんって、話すと雰囲気が変わるんですね」
とはにかみながら言った。
なにそれ。
俺は苦笑した。
何、この子。変わった子だな。
当然か。庶民だからな。貴族ではそんな物言いする者は無い。
「えへへ」
とか笑う。
何、この子、新鮮だ。
そんな俺たちの会話を、後ろからリュシアンナが茫然と見ていたとは、俺は知らなかった。