小休憩
「一月、それは何を飲んでいるのですか?」
ここまで無表情な静流が心なしか興味を引かれているているように見える。
「なんだ、知らないのか? これはブラックコーヒーだ」
「コーヒーという飲料は知っていますが、何がブラックなのでしょう?」
興味深そうにブラックを覗き込む。
「砂糖やミルクなど何も加えずにそのまま飲むのがブラックコーヒーだ」
「そうなのですか、人間は苦味を嫌う傾向にあるという情報があるのですがそれを飲むのですか?」
静流は地球に作られたときに基本知識として入れられているのだろう情報を照らし合わせる。
「そうだなぁ、苦味が好きな人間もいるし、俺の場合は頭をスッキリさせるとか眠気を覚ます意味合いで飲むことが多いな。まあ効能については気持ち程度なもんだが。
「なるほど……」
静流は獲物を狙う前の動物のようにコーヒーカップを凝視していた。
「なんだ、飲みたいのか? 買ってやろうか?」
「いいのですか?」
早かった、何が早いかというと返事がである。無表情は変わらないが。
「わ、わかった。待ってろ」
いきなりの勢いに少したじろぎながら一月は百円のブラックコーヒーを買ってやる。
「ほら、熱いから気をつけろよ」
紙コップの暖かさを感じながら渡してやる。
少し香りを嗅いだあとゆっくりと口に含む静流。
「ありがとうございます、んっ……苦い」
静流は少し眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔を作った。
ジト目と相まって一部の趣向の人にはとても可愛い表情だったのは別の話。
「苦いと言ったろ。地人っていうのは味覚もあるんだな、人間と構造は一緒、だったら当然か」
「そうですね、私達は栄養摂取をしなくてもいいので食事に対して疎い場合が多いです。ただ、やはり食事には魅力を感じざるを得ませんね」
「まあそこは人間と一緒さ。ところで、さっきの苦そうな表情を見て思ったんだが静流は感情表現は苦手なのか? ほとんど無表情だが」
言われて静流はぺたぺたと自分の手で顔を触る。
「苦そうな表情……できていましたか? 脳には感情というデータはあります。ありますが、馴染んでないと言いましょうか、インストールできてないといいましょうか。まだうまく表現できないのです。苦そうな表情を一月が知覚したのなら進歩と言えましょう」
「そういうことか、ふと思ったんだが静流の容姿は意図的に作ったのか? 人目を引いてしまうと思うが」
一月は空になった紙コップを捨てながら聞く。
「勿論です、意図的に作ってもらいました、私の容姿は綺麗でしょうか? 人間界では綺麗な女性はあらゆる面で有利と聞きましたので」
その情報は正しい、容姿が悪いよりかは容姿が整っているほうがメリットが多いからだ。しかし良いことだけではないのだが。
すると静流は服の上からでもわかる綺麗なラインを描く乳房を下から持ち上げて見せた。何の躊躇いもなく、まるで物であるかのように。
制服が一緒に持ち上がってしまい白いお腹とおへそも見えてしまう。恥じらいの様子は一切ない。
「……静流、お前はさっきの腕組といい人間の一般常識や貞操観念というものが欠けてはいないか?」
一月は目線を外しながら溜息交じりに言った。
「それはなんでしょう? わかりませんので一月に教えていただきたいです」
乳房をもみしだき始めたので無言で真面目に止めに入る。
「俺が? なんで俺なんだ」
知り合いの地人に教えてもらえばいいのにと思ったための発言。
「ここまで深く交流した『人間』は一月だけだからです」
「そうか、そうだよな……」
一月は諦めの境地である。
こいつは放っておいたら何をしでかすかわからないしめんどうを見ないと大変なことになりそうだ。
「よろしくお願いします」
強引だった。
ぺこりと丁寧にお辞儀をする静流、不味いと感じただろうコーヒーの入った紙コップは律儀にも空だった。