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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
有権者
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地人

「俺は霧宮一月だ、我々に対抗し得る、の意味と話を聞きたいとこだがここだと色々まずい、移動しようか」

 一月は移動するためにベンチから腰を上げる。

 尻尾付の少女と同じ気配がする女を前にして一月は一瞬たりとも気を緩めない。

 緩めれるわけがない。例え相手が絶世の美女だとしても。


「わかりました、ではどこがいいでしょうか?」

 言いながら静流は一月に腕を絡めてきた。

「なんのつもりだ?」

 当然問わずにはいられない。

「何がでしょう?」

 静流は本当に質問の意図がわからなさそうな顔で首を横に倒す。

「この腕のことだ、密着する必要はないだろう」

「人間の若い男女はこうするのが礼儀ではないのでしょうか? 街で見掛けましたが」

 腕を絡める行為が男女間の挨拶だと勘違いしているのだろうか。

 だとしたら相当な世間知らずだ。


「……お前は一体なんなんだ」

 お手上げといった心境の一月は腕のことを追求するのをやめてさっさと人目の少ない場所へ移動する。

 カップルうざいなという視線がうっとおしかったが仕方のないことだった。



「ここならいいだろう、さあ話してもらおうか」

 言いながら学内にあるすこし高そうな商品が並ぶカフェのテーブルにつく。

 今日は休業日なのかわからないが店員は見当たらない。


「お話する前に一つお願いがあります、人間の持っている常識というものを取り払っていただけますか。これからお話しすることに邪魔ですので」

 瀬々月静流と名乗る少女は椅子に座り白く綺麗な手をテーブルに置いて一月を正面から見つめる。

「……いいだろう。あり得ないという言葉は封じよう」


 了承の言葉を確認した静流は静かに、しかしニュースアナウンサーのようなしっかりとした滑舌で語り始める。


「ありがとうございます、まず大前提の一つ。地球は意識を持っています」


 いきなりこれだった。一月は文字通り言葉を失う。

 言ってることは理解できるのだが人間の持つ常識がそれを阻害する。


「そして地球は葛藤しています。人類を滅ぼすかどうかを」


 有無を言わさぬ追撃である、狂言だと言い捨てることは簡単だ。しかし今朝起きたことなどを鑑みるとあながちあり得ないとも言い切れないと思い始めた。

 もし本当ならばという考えを持ちながら一月の意識は少女の抑揚のない声に吸い込まれていく。


「順を追って説明しましょう。まず地球が人間を危険視する理由、それは人間という生命体がこの地球という惑星内で一番影響力が強いということがあげられます。人間にも身に覚えがあるでしょう、環境破壊や戦争、生態系の予測不可能な破壊。どれをとっても地球を大きく傷つける要因になります」静流は一息つき、「また、人間の武器が凶悪的になってきたのも地球を悩ませる要因の一つでしょう、何かが起きる前に手を打っておこうかというのが地球の思考だと考えられます」


 静流は無表情なまま一月の顔を伺い、一月が頷くのを見て続ける。


「次に地球が人間を滅ぼすと決定しきれない理由。それは大きく分けて3つあります」指を3本立てる。「第一に人間を滅ぼす過程で地球が大きな被害を受ける。人間の武力を考えると当然でしょう。第二に地球外的要因。例えば隕石、宇宙からの隕石が直撃しそうであれば当然人間は抗うでしょう。これは利害が一致しています、地球だけではどうあっても隕石から身を守れませんから。要するに宇宙からの何らかのアクション、人間がいなければ抗うことはできません。第三に人間を滅ぼしたことで地球にどのような影響を及ぼすのか予測がつかない。これは保守的な意見になりますね。予測が立たないのなら現状維持がいいということです」


 一月は集中して話を聞いており表情は真剣そのものだった。

 嘘か真かはとりあえず意識外に置いておく。

「なるほど、今のところ理解は追いついている。続けてくれ」

 静流が大丈夫ですか? とアイコンタクトで語りかけてきたので続きを促す。


「はい、では続いて私達のことをお話します。私達は地球に作られた対人間用インターフェースとでも言いましょうか、わかりやすく地人と呼んでいただければいいかと。役割は人間を滅ぼすかの意見調整、および地獣の統制です。そういえば日本は民主制でしたね、あれと同じで滅ぼすという票が強く多ければ地球と地人と地獣は猛威を振るい、共存するべきだという票が多ければ人間の歴史は何もなく過ぎていくでしょう。つまるところは私達地人は人間の生死を決める有権者という認識を持ってください」


「荒唐無稽でともてすぐには信じれる内容とは言い難いが筋は通っているな、地獣はお前達地人の下位個体という認識でいいか?」

「はい、基本的にはその認識で合っています。地獣や地人はなんらかの生物の意識を宿しています、地獣の場合それが顕著です。例えば豚の容姿をした地獣は数々の死んでいった豚の意識が宿っています。それが養豚所の豚かはわかりませんが生前の感情、つまりは人間から受けた仕打ちの記憶、憎悪を深く受け継いでおり人間には特に攻撃的な地獣になるでしょう。人間に憎悪がなくても、人間が滅べば繁栄できる種も同様です」


「今朝交差点で見た尻尾付の女、あれは地人か?」

 今朝見た光景を思い浮かべる。

「ああ、あの子は猫が入ってるのでしょうね。彼女は真紀梓まきあずさ私はあーちゃんと呼んでいます」

 話の腰が折れそうな名称だったが一月はなんとか堪えた。

「しかしあの尻尾じゃすぐに問題が起きそうだが、静流も見たところ異常はないよな」

「あれは隠すことが可能です、あーちゃんは興奮時に尻尾が出てしまうようなのです。私の場合は自分でも何が宿っているのかわかっていません」

「自分でもわからないのか? 人間が憎いなどの意識はないと?」


「地人の場合個人差もありますがかなり意識が薄まるようです、あーちゃんのように可視化してしまうのは非常に稀です。普通の地人では無意識、心の中の意識できない領域に宿っている程度でしかありません、ですので地人は例外を除いてほぼ、人間と同じです」


「身体の構造なども同じなのか? 司崎校に入学している時点で異能も使えることになるが」

「構造や構成物質も全て同じです。当然異能も使用可能ですが、地人は身体能力が異常に高く地獣より遥かに強い傾向があるようですね」


 もたらされた厳しい情報。もしこれが本当ならば人類の危機である。

 例え真偽がわからなくとも危惧は隠せない。

「意図して作られた人間だからな……ありそうな話だ」

「以上が基本的な説明です、本題に入ってもいいでしょうか」

 静流は疲れをまったく感じさせない無表情である。

「待て……少し休憩させてくれ」

 近くの販売機で飲み物を買ってきた一月は脳の整理を取るための時間を要求した。

 当然今の話だけで休憩がいるの? といった静流の視線攻撃はスルーだ。


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