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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
霧宮家
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姉妹


 仮眠から覚めると辺りは一変していた。

 東京都心2区。特徴としては学校と住宅が大半を占める地域だ。

 都心に当たる1区から5区までは地中に特殊な合金を入れて地下を補強している。そのため地獣のリスクは極めて低い。

 事実、ここ5年間での地獣襲撃は5件で、4件は他区からの進入にあった。地中からの突然の襲撃は1件だけなのである。

 そのため、人々が平和ボケ気味になってしまっている感は否めない。

 一月は車を降りてボタンを押した。車はすぐさま動き始める、レンタル店に自動で戻っていくのだ。


 時刻は10時半、少しだけ歩いて普通の一戸建ての家に入り、あらかじめ持っている合鍵で扉をあける。

 靴を脱いでリビングの扉の取っ手を持つ。

 直後に一月は凄まじい後悔の念に襲われる。


「きゃあ! ちょ、ちょっと何するんですかっあんっお姉様ぁ……」

「また大きくなったんじゃないの? 可愛いわよ麗華」

「お姉様のほうが大きいっですぅ」

 あまりにも甘い声の響きに霧宮一月は確実に一瞬凍りついた。しかし、手は止まってはくれずその光景を目に焼き付けることになる。

 そこには軽く衣服を乱して絡み合ってる二人の少女の姿があった。


「…………」


「お、お兄様……」


 二人はささっと衣服を正して素早くソファに姿勢良く座った。

「お兄様! お久しぶりです、私も麗華も会いたくて会いたくて仕方がありませんでしたわ! ささっどうぞこちらへ!」

 なかったことにするつもりらしい。

 しかし、二人の頬はほんのり赤く染まっており衣服はまだ乱れている所があった。少し、いや、かなり無理があった。

 一月は二人の正面のソファに腰を下ろす。

「二人とも久しぶり、元気そうで何よりだ。しかし、そういう仲だったというのは知らなかった。すまんな、邪魔して」

「ちがっ、あれはお姉さまがっ……」

「わ、私のせいにするつもり!? ま、まあいいですわ、ただの姉妹のささやかなじゃれ合いですもの!」

 姉妹はカーッと顔を真っ赤にして手をあたふたと振りながら言った。

 夜宵、虚勢は張らなくていいぞ、と一月は思ったが言葉にはしない。


 二人は霧宮家の双子だ。夜宵が姉で、麗華は妹である。

 高い異能適正を持つ椿の実娘なので異能方面でも優秀だ。

「まあ、仲が良いのはいいことだ。それで、椿さんから聞いていると思うが今日一日泊まらせてもらうぞ、部屋もあるんだろ?」

「はい、二階の一番奥の部屋を使ってくださいませ。それより久々の……お兄様の体温、暖かいですわ」

 突然、夜宵が隣に座って擦り寄ってくる。

「あっお姉さまずるいっ! 私もっ!」

 二人から同じシャンプーの匂いを感じながら一月はこう思った。

 さっきのが恥ずかしくて今やってるこれは恥ずかしくない基準がわからん、と。

 そう、霧宮家の姉妹は重度のシスコンであり、またブラコンでもある特殊なご家庭だったのだ。


「ちょっと離れようか……あのな、ここまで慕ってくれるのは嬉しいが俺達は血の繋がってない兄妹だぞ? そうじゃないにしてもこのスキンシップは少しやり過ぎだと俺は主張したい」

「そうでしょうか? ねぇ麗華?」

 首をかしげて言う。

「別にこれくらい普通では? ねぇお姉さま」

 二人とも涼しい顔である。

「わかった、もういい」

 一月はソファの背もたれに身体を預けて姉妹の過剰な愛情という激流に身を任せた。



「さて、気を取り直して。椿さんからよろしくと言われたんだが、ここ最近何かあったか?」

 ひとしきり一月を堪能した姉妹がのほほんとした雰囲気を醸し出し始めたので一月は話の修正を図る。

「いえ、特には。13区で地獣が発生して死傷者が一名出たことくらいしか、麗華も何もなかったでしょう?」

 先日発生した13区の事件はニュースでも報道されていた。

「わ、私は……クラスの男の子からこ、告白された事くらいしか」

 顔をりんごのように染めながら消え入りそうな声でそう言った。

「ちょっと麗華! それはどういうこと!? 今すぐ説明しなさい!」

 ガタっと立ち上がった夜宵は麗華の肩を持ちがっくんがっくんと前後に振り始めた。

「お、お姉様だってしょっちゅう告白されたり男の子に囲まれてるじゃん!」

 妹の精一杯の反撃は急所に当たったらしく「ぐっ」と呻き声を漏らす夜宵。

 気を取り直した直後に話の腰を折られた一月は話を戻すことなど諦め一人呟いた。

「俺特製のカレーでも作るか」


 ファンクラブがどうとか聞こえるキャットファイトは特製の激辛カレーで姉妹の舌を焼くまで続いた。



「お兄様、今日は色々なお話ができて楽しかったですわ。ですが明日入学なさる司崎高は寮での生活が必須とのこと、ここには帰ってこれないのでしょうか」

 昼飯や晩飯を食べ、世間話や恋話などを黙って聞いていたらいつの間にか夜である。

 一月は疲労困憊といった様子だ。

「お兄様! それは本当でしょうか? 麗華、寂しくて倒れてしまいそうです」

 二人とも涙を溜めて上目遣いで見つめてくる。

 あざとい、実にあざとい。狙ってやってるのではないかと疑わざるを得ない。


「大げさだぞ二人とも、確かに寮生活は必須だ。だが週に二日帰宅を許されている、週に二日は帰宅すると思ってくれて良いよ」

 二人の顔が見る見るパァっと明るくなった。

 その笑顔を見ていると、ここまで嬉しそうにしてくれるならそれもいいか……と思い始めてしまう。

「学校での出来事など色々聞かせてくださいね!」

「麗華は毎週楽しみにしております」

 ズイズイっと必要以上に寄ってくる姉妹に軽い恐怖を覚えながらも切り上げようとする一月。

「わかった、約束するよ。さてもう0時前だ、明日に向けて寝ておきたいからもう寝るよ。二人も今日は少し夜更かしだろ?」

「お兄様がきたからつい……興奮して眠れないかもしれませんわ」

「麗華もです……お兄様」

 これは危ない兆候だなと感じた一月は話を切り上げた。

「二人ともお休み」

「おやすみなさいませ」

「おやすみです、お兄様」

 部屋に入りベッドに潜った一月は布団を深くかける。3月の終わりの夜はまだ少し寒い。


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