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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
霧宮家
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出門

 外に出た一月は空を仰ぎ見る、雲ひとつない快晴だった。

 しかし、辺りの風景は悲惨の一言に尽きた。

 地獣の大攻勢によって守りきれないと判断され捨てられた街、14区。現在は14区ではなく外界(人が住んでいない世界)と呼ばれている。

 完璧に潰れている民家、雑居ビルに残された爪痕、中央からバッサリ折れたのか切れたのかわからない高層ビル。

 どのような規模で戦闘があったのかは容易に想像できる。

 見回した程度では見つけることができないが、地中や物陰には地獣が潜んでいることだろう。


 ここで一つ疑問が浮かぶ。なぜこんな敵地の真ん中に居を構えたのか。

 それについてはある程度予測がつくものの聞いたことがあった。

「人はね、すぐ危機感がなくなるの。油断が一番怖い、危機感を保つためにも近くに地獣を置く必要がある。それに地獣が近いということは常に地獣の様子を観察できる、つまり私達は地獣の情報を常に更新していけるというわけ。ま、例外はあるでしょうけどね」

 とは椿の言。無論、地獣を退ける武力は必要だ。

 霧宮家は代々異能適正が高く、それに満足することなく貪欲に力を求める家系だ。地獣との戦闘訓練も積めて一石三鳥というわけである。


 一月は目線を左に向ける、およそ100m先にカマキリ型の地獣を見つけたからだ。地獣は一月の存在に気付いている、気付いているが顔を背けると地中に潜っていった。

 一月は何事もなかったかのように歩を進める。

 地獣が人間を発見したにも関わらず襲い掛からなかった。普通ではあり得ない光景である。

 なぜか、理由は簡単だった。


 挑んでも勝てないことを知っているからだ。


 地獣は高い知能を持っていた、ゆえに学習するのである。これは人間にとって最悪の情報だった。

 とはいえ、この情報を持っているのは恐らく霧宮家と数少ない人間だけだろう。

 なぜならあいつは強い人間だと地獣が学習するまで襲撃を圧倒的力で迎撃しないといけないからである。

 それほどまでに強い人間は少ないのが日本の現状だ。

 そのため、霧宮家の邸宅は逆らえない証として14区付近の地獣の意識に焼きついている。


 邸宅は13区に近い場所に位置しているため二十分ほど歩けば13区にさしかかる。

 差し掛かるところで一月は不振な音を聞き振り向いた。

 ザガザガと奇妙な音を立てながら猛烈な勢いで走ってくるダンゴムシのような地獣がそこにはいた。


「新人、いや新獣か? やめてくれと言っても止まらないだろうな……はぁ、いいことはないぞ?」

 猛スピードで迫ってくる地獣を見ても一月は構えない、逃げようともしない。それを見ているだけである。

 地獣との距離が縮まる、五十m程の地点で異変が起きる。

 あるラインを超えると頭から後ろまで順番に潰れ、肉片を飛び散らせたのだ。

 正体は一月の異能力、質量操作。異能域内での質量を変える力を持っており、今の現象は地獣の質量を極端に増加させたのだ。

 

 うわーぐちょぐちょだなと一人呟きながら一月は飛び散った肉片を避けながら歩いていく。

 

 13区に入る。

 13区に入ったといってもここは14区に隣接した外縁部、一変することもないが、ちらほらと人の姿を見ることはできる。

 目立った建築物は見当たらず一目で廃れているのが確認できる。

 14区に近いため地獣がよく発生し、人が住み着こうとしないためだ。

 しかし、そのおかげで土地はかなり安く貧困層には有り難い物件が並んでいる。


 そんな中、一月は近くのレンタカーショップで車を一台借りるとそれに乗り込んで目的地を言った。

「都心2区、住宅街」

 車内にはハンドルもアクセル、ブレーキもなかった。

 日本の自動車は西暦2070年には完全に自動化されていた。

 現在では目的地を指定するだけでそこまで自動で運んでくれる、人間に必要なのは緊急時の対応だけだ。

 勿論免許証は不要である。

 自動車の自動化により大量の失業者を出したのも記憶に新しく、日本の貧富の差はさらなる広がりを見せる。


 やることのなくなった一月は、とりあえず目的地に着くまで仮眠することにした。


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