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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
血の予感
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仮面

 四月の中旬、午前2時の深夜。

 13区の外縁部、14区に隣接した場所にテントを張ってコーヒーを飲んでいる二人の男性がいた。



「はーこんな夜中に待機命令だなんてついてないよなー俺らも」

「まあそういうな。雄介様が地獣が出現するかもしれないって言ってんだ、狩ればボーナスだぞ」

 辺りには人は見当たらない。

 午前2時といえどここは東京、人通りくらいあってもいいものだと思うかもしれない。

 が、ここは外縁部、そもそも人が余り住んでいないのだ。

 さらに13区は地獣の異常発生により特別警戒区となっているのも一つの要因だろう。

 真夜中に人々がふらつかない程度には危ない区域だと認識されているのだ。



「聞いた聞いた。この前三番隊が弱個体を3体倒しただけなのに一人百万ほど貰ったって騒いでたな」

「羨ましい話だよなぁ、ここ最近西城家は潤ってるみたいだな、仕えてる甲斐があるってもんだ」

「しっかし雄介様はどうやって地獣の出現ポイントを割り出してるんだろうな?」

「……それなんだが、誰にも言うなよ?」辺りをキョロキョロ見渡して小声で話す、「どうやら雄介様には地獣の出現する場所がわかる協力者がいるらしいんだ」

「へぇ……能力者か? だとしたら相当重宝する能力だな」

「うむ、名前も容姿も性別さえも判別してないため我々の間で『黒』という通称で呼ばれている」


 風がなびく。街路樹の葉が擦れ合う音と男二人の会話だけが夜の街に刺激を与える。


「黒ねぇ」男はぎぃっとパイプ椅子を軋ませる、「……ちょっと待てよおかしくないか? その噂はどこから流れるんだよ」

「うむ。それについては一番隊の奴がテレビ電話でそいつから直接指示を受けたらしい、雄介様も同行していたそうだ。西城家に雇われたかはわからんが味方なのは確定だろうな」

「一番隊は口が軽いな……にしても雄介様もさすがだな。そんな貴重な能力者を抱きこんでいるのか」

「最近給与や報酬が大幅に上がったのもそのおかげだと言われている」

「まあ単純に無法地帯の13区で地獣を狩りまくれば稼げるだろうしな」


「まあ俺らは美味い話だから乗らせてもらおうや」男は言いながら背後にある全自動コーヒポットを手に取ろうと振り向く。


「うわぁッ!」


 ガンっとコーヒーポッドを床に落としながらパイプ椅子に照準を合わせられずに尻を地面に激突させてしまう。

「ど、どうしたッ…………何者だ」

 

 おかしい、絶対におかしい。背後に置いておいたパイプ椅子には先ほどまで誰も座っていなかったし人の気配など微塵も感じなかった。

 なのに。


 男が視線を向けた先、テントの後方に置いておいたパイプ椅子に人間が一人座っていた。

 顔には狐の仮面、服装は黒のマントで覆い隠されており正体はわからない。


「これは失礼致しました、驚かせてしまったようですわね」変声機を使っているのか声は機械音声のようだ、「先ほどの会話は全て聞かせていただきました。差し支えなければ『黒』という人物の情報が欲しいのですが話して頂けますか? 素直に従っていただければ危害は加えませんわ」

 語調は丁寧だが完全に上からの提案。

 当然不気味でないはずがない、恐怖を覚える二人。


 男性の一人が腰から銃を引き抜き躊躇なく引き金を引いた。

 癇癪玉が破裂した時のような音、弾には電流が流れていた。

 これはテイザーと呼ばれるスタンガンの一種。命中した対象に電流を流し込み無力化する銃だ。

 殺傷能力はないため男は躊躇なく引き金を引いたのだ。


 しかし、弾は狐仮面の人物をすり抜けた。まるで浮遊映像に弾が通過したように。

「どういうことだ!? 実体がない? 能力者か!」


「まあこうなるだろうと思ってましたけど。警告はしましたわよ」

 背後からの声。はっと二人して振り向く。が、暗闇から歩いてくる狐仮面の人物を視界に納めたのを最後に意識を刈り取られた。


「兎、援軍は?」

 パイプ椅子に座りながら狐仮面は携帯端末で電話する。

「ん~二方向から10人ずつきてます~」

 兎と呼ばれたこれまた兎の仮面に黒いマントをしている人物は近くの高層ビルから狐と電話していた。

「まあ当然よね……はぁ深夜にお仕事なんてお母様も人使いが荒いこと。お肌が荒れちゃいますわ」

「お母様だって本意じゃないと思うよ~? お兄様が巻き込まれてることだし少しでも助けにならなくちゃ」

「それもそうですわね、さっさと情報引き抜いて帰るとしましょうか。わかってると思うけど兎の役目は帰りの足だけよ」

「ふぇえ!? 本当のことだとしてもひどいよっお姉さま!」プツ、「あぁぁぁぁああ!? 切ったあああああ」

 兎は屋上で一人地団駄を踏む。


「さてっと」

 目の前には先ほどの意識を刈り取った男二人、パイプ椅子に座らせている。

「地獣の位置がわかるという通称『黒』について簡潔にわかりやすく話しなさい」

 命令を下すと男性の内一人が虚ろな目で口を開く。

「う、雄介様の協力者もしくは身内、地獣の襲撃位置がわかる。黒が西城家内に存在を見せ始めたのは13区に地獣が異常発生しだした時と同じだ」

 精神操作系。幻影を見せたり相手の精神をかき乱し混乱させたり操り人形などにすることが可能だ。

 特徴として針に穴を通すほどの集中力が必要なこと、相手の異能圧を超えてなければ能力に掛からないこと、脳を酷使するということが上げられる。

 とりわけ対人間では最強と言われる能力の一つである。


「他には?」

「…………」

 二人して口を開かない、これは知らないためだ。

(なるほどね、その黒っていうのが地人で地獣を手引きしているのは間違いないですわね、どう尻尾を掴むか……)


「では最後に、霧宮一月に対しての方針はどうなっているの」


 今度は二人して口を開こうとするので片方のスイッチを切る。


「う、都心外に外出し、都合がいい場所に行った場合近くの隊員が仕掛けて拘束する」

「ま、そんなとこでしょうね、捻りがなくてつまらないくらいですわ。こんなとこでしょうか」

 男性はプツンと電源が落ちたように意識がなくなる。


「あら、ほんとに地獣が来ましたわね」

 道路の中心からとんでもなく大きい芋虫のような生き物がもぞもぞと地中から這いずり出ていた。

「これでさらに黒という人物が地人であることが濃厚になりましたわ」

 狐は気楽に地獣の横を歩いていきその先にある高層ビルの屋上まで飛び上がった、というより浮き上がった。


「~~~~~~~~~~~ッ!」

 狐は声にもならない声を出しながら高層ビルの屋上の床に足をつける。


「お帰りなさい~お姉さま」

 少しサディスティックな声色だった。

「麗華……貴女ね、はぁはぁ……私が高所恐怖症だって知ってるでしょう?」

「さっきのお返し!」

 どうやら霧宮麗華は意外にも根に持つタイプらしい。

「貴女ねぇ! 帰ったらくすぐりの刑よ!」

 狐の仮面を外して憤る霧宮夜宵は顔が真っ赤だった。

 ものすごい怖いらしい。

「あ~いいのかな~そんなこと言っちゃって。帰りのフライトの旅も私の気分次第だよ~?」

 兎の仮面を外した麗華はニコニコととても楽しそうにしていたが怖い、主に笑顔が。

 普段から恨みというか立場が逆なので何かのスイッチが入ったのかもしれない。


 麗華は夜宵の右手を持つと何の躊躇いもなくフェンスを越えるように飛び上がる。


「ひッ! ちょっと麗華!? ご、ごめんなさいッ謝るからっ謝るからああああああゆっくりぃいいいいいいいいいい!」

「あははははは~お姉さま涙目ぇ! 可愛いよぉ~~~」


 二人は真夜中のビルの間を優雅に、しかし猛スピードで飛んでいく。


 下方で爆発音。先ほどの高層ビルの下で芋虫の地獣と西城家の援軍が戦闘していることだろう。

 が、霧宮夜宵にはそんなことどうでもよかった。今は自分のことで精一杯だ。


 帰ったらあんなことやこんなことしてやる……と妄想を広げて誤魔化す、そんなもの無駄だとわかっていても。


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