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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
司崎校
18/26

動向


 時刻は15時、天候は薄暗い曇り、しかし対照的に生徒達は思い思いの場所で浮かれて過ごしていることだろう。

 そんな皆浮かれ気分の高揚している入学日、3005号室では何やら得体の知れない雰囲気を醸し出す会話がなされていた。



「じゃあ梓、地人に関しての動きを聞かせてくれるか」

 静流とじゃれ合うのをやめてベッドの上に座る梓と静流。かなり際どいじゃれ付き方をされたにも関わらず静流は無表情で乱れた衣服を整える。

 慣れているのだろうか、それとも差恥心がないのか疑問である。

「はいよ~。ん~とね、今のとこ地人の大きな動きは二つあるのよ~」

 びっ! と力強く一月の顔の前にピースマークをして見せる梓。


「1つめに強硬派による大攻勢の準備、日本ではまず東京が標的にされているみたい。人間が言ってるなんだっけ、外界っていうんだっけ? 東京近辺の外界に地人や地獣を集結させてる準備段階だってさ、今朝あった地獣の攻撃。あれも一環でしょ」

「事態はそこまで深刻なのか……その大攻勢とやらの日時はいつなんだ? 近いのか?」

「んにゃ~それはわかんない。ただ私はしょっちゅう攻勢に加わってくれって誘われる身だから決行日が近ければ言ってくると思うんだよね。その点はわかったら電話で一月に教えてあげるから安心しなよ」

「なるほど、まだ猶予はあるということか。安心はできないが決行日がわかるだけかなり助かる」

「でもすごいよね~そうなったら人間と地球で戦争になっちゃう! 楽しそうにゃ~! 人間の味方になっても楽しそうだし本来の地球側に立っても楽しそうだし、無差別に暴れても……くふふふふふふ」

「一月、あ~ちゃんが暴走してます」

 静流が肩を抑えているが、ばたばたばたと足を動かして枕を引きちぎりそうな力で抱き込む梓。

「おい、落ち着いてくれ梓」

 さすがの一月も動揺してしまう。

「ん~はいはい、大丈夫大丈夫。ちょっと危なかったけど」

 危ないのか……いつもいつも事態の収拾に当たる一月は相当な苦労人である、高校生活初日から凄まじい疲労を溜めていた。

 主に精神的に。



「それで2つめは?」

 一月は話を戻す。

「2つめの方が人間にとっては身近だね。人間、というか軍や政府と地人の癒着だよ」

 一月は今日一番の驚きの表情を見せる。

「どういうことだ」

「簡単な話だよ? 軍が地獣を討伐すると報酬が税金から出るでしょ? つまり軍にとっては地獣がいっぱい出現してくれたほうが利権を貪れる。そこで地人が結びつくとなると?」

「……確かに簡単な構図だな。地人に地獣を手配してもらう、か。となると、軍はもちろん黙視している政府も腐っているな」

「関わっているのがどこからどこまでって線引きはできないけどね。それに私は詳しく知らないけど、調子に乗って地獣を呼び寄せすぎて捨てられた街っていうのが元14区だったりするんだよね」

「…………そうだったのか」

「一月、どうしました?」

「いや、なんでもないさ。つまり多少の人間の犠牲は置いておき自分達は旨い汁を吸っているということだな」

 2076年の地獣の大襲撃で廃墟と化した14区。その犠牲者に一月の両親もいた。

 だが、一月は捨てられた身である。その事実が複雑な思いとなって表情に出てしまい静流に悟られたのだ。

「そうそう、その解釈であってるよ~」

「協力した地人にも分配金は行くんだろう? その金はどうするんだ」

「そりゃあ人間界で裕福に暮らすためだよ。快適な人間界の生活に裕福層として溶け込みたいんでしょう」

 当然じゃーんといった顔の梓。


「なるほどね。いつの時代でも人間の敵は人間……か」

「まあここまで知能が発達しちゃった生物なら仕方がないよね。人間の本質は歴史が物語ってるし。ただ、中には素敵な人間もいる、だよね? 静流」

「はい、私は今でもそう思ってます」

 静流は自分を助けてくれた男性、蛇のような地獣に飲み込まれた人を思い浮かべながら言った。

 その顔はいつもの無表情だがどこか悲しくて、どこか優しさに満ちた顔、のように一月には思えた。

「……静流、色々と疑って済まなかったな」

 一月が謝罪したのは初めて見せる静流の強く決意している表情に疑いを掛けていたことに後悔したためだ。

「あはは~良いパートナーを見つけたね静流」

「はい、私は一月の所有物ですから」

「ひゃい!?」

 梓は素っ頓狂な声を上げながら静流の方へ振り向く。

「静流、その表現はもうやめてくれ。パートナーという言葉でいい」

「そうですか? わかりました」

「も~なんなんだよ~びっくりするじゃん。さすが静流~すんごい言葉選びだね!」

 どんなことを妄想したのかわからないが梓の頬は少し赤かった。


「それで、話を戻すが地人と癒着して利権を貪っている軍や政府は特定できているのか?」

「そだね~地獣や地人に話しを聞いた限りだと4区の区軍統制している西城家っていうとこは確実みたいだよ。頭が悪いのか調子に乗って13区に地獣を手配させて大規模に4区から隊員を派遣してるから隠蔽なんてできてないって。あんまり興味沸かないからその他は特に聞いてないなぁ。やってることがつまんないから暇つぶし程度に潰そうかなとか思ったんだけどね」

「一月、西城家というと」

「ああ、あいつのとこだな」

 二人は視線を合わして頷きあう。

「おろ? 知り合い?」

「西条家の息子が昼前に噛み付いてきたんでな、処理しただけだ」

「もしかして演習棟の3号室がどうとか言ってたやつ?」

「そうだ、元々は静流が言い寄られたのが原因だと思うが」

「そっか~静流は綺麗だもんね~うりうり~」

 再びもつれ合い、梓が胸を揉み始めたので背を向ける一月。

「あ~ちゃん。くすぐったいのですが」

「よいではないか~」

「で、大まかな動きはその二つなんだな?」

 一月も慣れたものである。

「そうだよ~何かわかったりしたら電話したげるからさ」

「そうか、感謝する。その無意味なじゃれ合いをやめてくれればもっと感謝するんだが」

「だめだよ~これは私の楽しみなんだもん」

「んっあっあ~ちゃ、んんっ」

「…………」


 甘い声が聞こえてきたので一月は一階のホールへ無言で退散させられることになる。


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