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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
司崎校
17/26

スパイ

 学生寮の3階廊下。

 自動ロックなので鍵を閉める必要はない。


「さてと、どこから探そうか。A組の奴らに聞ければ早そうなんだが」

 軽いストレッチをしながら背伸びをする。

「一月、梓とでんわばんごうというのを交換しませんでしたか」

 はっとした顔で一月は静流を見る。

 このときの静流はいつもの伏目の無表情だったがジト目という意味合いを含んでいるように見えた。

「人間ってのはな物忘れするときもあるのさ」

情けない言い訳をしながらポケットから薄い端末を出して梓に電話を掛ける。3コールくらいだったろうか。


「もしもーーし! おぉ! 一月じゃん! 何々?」

 思わず端末を耳から離してしまうほどうるさかった。

 仕方がないので音量を下げる。

「お前はいつでもハイテンションだな……色々と話したいから俺の部屋に来て欲しいんだが、今どこだ?」

「ん~? 今登録して自分の部屋の布団でもふもふしてるとこ! すんごい豪勢だよね!? ひゃほーい」

 テレビ電話を通して見える映像ではベッドでぼふぼふ跳ねている真紀梓がいた。語尾が『にゃ』になっていないようだがそこそこ楽しそうだ、相室である人物は見られない。


「あんまり跳ねるとベッドが壊れるぞ、で、来てくれるのか?」

「いくいく~! 何番?」

「3005だ」

「わかった~今からいくよ~」

 電話越しだがバタバタガッタンという音が聞こえる。

 相室の人物には申し訳ない気分だ。

「じゃあ、待ってるぞ」

 電話を切る。そしてついさっき通したカードキーを再び通す。

「シュってやるの楽しそうですね一月」

「…………」

 それを眺めていた静流の無邪気な一言。

 しかし一月にはそれが皮肉に聞こえた、悲しいことに。


 5分程待った後、ピンポーンとインターホンが鳴る。

「梓だよ~」

 画面を覗き込む。

「一人だろうな?」

「もちろん! 私が信用できないのかな~?」

 小首を傾げてニコニコと笑う梓。

 見た目に騙されてはいけないと心に深く誓わなければならないと一人胸に刻む。


「まだできそうにはないな……」

 鍵を開けてやる。

「ひど~い! お~ここが一月と静流の部屋なのね。私のとこと一緒!」

「そりゃあ差はつけないだろうな」

「予想通り静流と相部屋にしたんだね~」

「都合がいいからな」

「あ~ちゃんこんにちは」

「静流~」

 ぼふっと梓は静流に飛びつきベッドに押し倒す。

「んぎゅ」

 いきなり地人二人はベッドの上で絡み始めた。

 地人特有のスキンシップなのだろうか、甚だ疑問である。


「さて、時間はたんまりあるがまず確認しておきたいことがある。梓、お前は人間、具体的には俺に敵意を抱いてはいないな?」

「そうだね~今のところは人間を殺害したり一月を敵にまわす気はないかな~。ていうか静流の話、信用する気になったんだ?」

「……そうだな、俺も最初は地球や地人の話は疑って信用してなかったが、梓と静流の独特なオーラや俺に嘘をつく必要性がないことや辻褄がうまいこと合うことから信用してもいいと思えてきた」

「なるほどなるほど」

 梓はベッドで静流ともちゃくちゃと絡み合いながら話をする。一月は完全にスルーモードだ。

「で、敵に回す気がないのはなぜだ?」

 一月は食卓のテーブルについてる椅子に座る。

「今は学校生活が楽しくってさ~それを壊したくないんだよ。まあ飽きたらどうなるかわかんないけど。それに一月と静流は強硬派の面々に対抗するんでしょ~? 少し興味があるんだよね、おもしろそうで。でもあいつら強いよ~? 私ほどじゃないけど、数が多いし」

「それなんだが当面欲しいのは強硬派の情報なんだ、梓は地人の強硬派という組織の情報は持っていないのか?」

「ふふ~、私強いからさ~よく協力してくれっていう連絡がくるのよね~。だ、か、ら、情報は結構持ってるよ~ん」

 人差し指を立てて左右に振りながら言う。


「あ~ちゃん、私は初耳なのですが」

 梓にもみくちゃにされていた静流が乱れた髪をさらさらと左右に流しながらむくりと起き上がって言う。

「そりゃ~言ってないもの~。静流に情報流して無茶しちゃったら大変だし」

 一月は確かに……と心中で頷く。

 静流の実力は知らないが自分に協力を求めた時点で直接的な武力はないのだろうと一月は予測を立てていた。


「ならその情報が聞きたいんだが、どうだ? 対価も何かしら出すぞ」

「ん~そうだね、別に特にいらないかな~少人数で巨大な組織に対抗するのを見るのは楽しそうだしね。強いて言うなら静流をしっかりと守って欲しいかな、静流は戦闘タイプじゃないし。それにそういうのは男の子の仕事だしね?」

 梓は意味深ににやっと笑って視線を飛ばしてきた。

 動揺してみせるのも癪なので華麗に流す構えの一月。

 後半の言葉の意味がわからなかったのだろう静流は頭の上に?を浮かべていた。


「いいだろう、元々そのつもりだったしな。ならそれ以外の条件はないんだな? それに梓の立場はスパイと似通った状態になってしまうが大丈夫か? ばれたら何かしら被害を被りそうだが」

「タダでいいよ~。スパイ! いいじゃんいいじゃん、楽しそう! ばれたらばれたで向かってくる奴ら皆殺しにするから大丈夫だよ~」

 なんでもない少女の満面の笑みでとんでもないことを言う梓。

 少女の仮面をつけた凶悪な魔物なのではないだろうかと勘繰ってしまう、……半分事実なのだが。

「一月、あ~ちゃんに火をつけてしまいましたね」

「まあ俺らに降りかかる火の粉はなさそうだからよしとしよう」


 

 梓の愉悦心に火をつけて協力関係を築くことができた一月は冷蔵庫に入っていた炭酸茶という未知の飲料を口に含む。

 ただの薄い味の炭酸水じゃないかとは口には出さなかった。


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