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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
司崎校
15/26

討伐班

 時刻は12時半。一月達は学生寮エリアにあるオープンカフェに座っていた。

 時間が時間なためか食べ終わって教室に戻っていく生徒が目立つ。


「入学早々波乱だったな~一月は、んぐっ」

 チーズをたんまり乗せているピザを食している建彦はそんなことを言う。

「他人事だな建彦よ、建彦も俺と一緒にいたんだ何かしらの報復を受ける可能性は十分にある」

 にやりと笑って見せて建彦に嫌悪感を与えようとした一月の的が外れる。


「それはそれで大歓迎だぜ! 何にせよ今の俺に足りないのは実戦経験だ、場数を踏めるのは願ったり叶ったりだ」

「そうだった、建彦はそういう人種だったな」

 的がはずれ尚且つ元気満々な建彦に当てられて一月は疲労感が増したような錯覚を覚える。

 ふと、頬杖をつきながら静流を眺める。なにやら未知の食べ物と格闘しているようだ。


「一月、この海鮮丼なるものについてきたこの緑色のものはなんでしょう」

「わさびの袋だ。好みで入れて食べてみろ」


「……んぎゅ! か、かりゃいです」


 静流は何を思ったか袋から出したわさびを直接に口に入れたのだ。涙目になりながら口を押さえる。

「静流、人の話を聞く気がないなら聞かないでくれ」

 白けた表情で聞き入れてくれないことをわかって言う一月。かなり悲しかった。


 すっと水の入ったコップを手渡してやる。それを一気にゴキュゴキュと飲み干し始めた。

「す、すごい食べ物ですね。口の中がひりひりしてます」

「当たり前だ」

 建彦は例によって腹を抱えてひっくり返りそうになりながら爆笑していた。

「笑ってる暇はないぞ、集合まで時間がない、早く食え」

 一月は静流と同じ海鮮丼をかきこむ。


 勿論わさびは適量だ。



 13時前、再びDクラスの席に着く。


「入学式の日くらいまったり過ごしたいもんだよな」

「大丈夫ですか、一月」

 静流がさすさすと背中を撫でてくれる。

「まあ何もない学園生活よりかは楽しいと思うぜ?」

 献身的な静流の行動は慣れたようだ。

 そうこう言ってるうちに担任の佐々木結奈が入ってきた。


「おーし揃っているな。入学早々うちのクラスで馬鹿騒ぎをした奴がいるそうだが程々にしておけよ。やるなとは言わんがな」

 佐々木は一瞬一月に目配せして笑ってみせる。

 これを居眠りをしているふりをして回避する、とはいっても佐々木先生にはばれているだろうが。


「さてと、予定通り順番に異能計測をしていく。実習室は全部で5部屋あるが1部屋修繕中だ。運がいいことにうちのクラスは4番目だ。待ち時間なしだな。では5番室に集合してくれ、はい移動~」

 てきぱきと簡潔明瞭に指示を飛ばしてくれるのがこの時一月にはとてもありがたかった。


「おいおい、3番室の窓ガラスひび入ってるじゃん」

「何かあったのぉ? うちのクラスがなんとか言ってたけど」


「はーいうるさい、10人ずつ入れ。残りは廊下で待機。普段発動するときの異能圧でいいからな、特段力む必要はない。廊下から中は見えるからそれを班などの参考にするもよし。もちろん他クラスを見てもいいぞ」

 がやがやとした廊下で一月はとりあえずベンチに腰を下ろす。

「一月、俺先に行ってくるぜ」

 早く終わらせたいのか建彦は1陣で演習室へ入っていった。


「おっ静流~いたいた」

 廊下の向こうから小柄な茶髪の女の子が歩いてくる。

 一月は得体の知れない何かを前にしたような悪寒を制して警戒度を上げる。

 薄く、しかし確実に雰囲気が重くなる。


「あ~ちゃん。確かAクラスでしたね」

「そうそう、で、そちらのお兄さんは久しぶりってとこかな。色々静流から聞いてるだろうけどよろしくねん。私は真紀梓。あずさでいいよ」

 一月は顔を上げて梓の顔を睨み付ける。

「霧宮一月だ、お前とは色々話したかった所だ」

「こわ~い、睨まないでよね~もう」

 梓はわざとらしい仕草で怖がる素振りをする。


「だったらその殺気を止めるんだな」


「あはは~冗談だよ冗談」

「色々話すにしてもここでは場所が悪い、班についてなんだが俺と静流と梓で組まないか? そのほうが色々と都合がいい」

「私はもちろんそのつもりです」

 当然といった静流。

 もしお前とは組まないと一月に言われたらどうなっていたのだろうか、なぜだか怖い気もする。

「いいよいいよいいよ~! 楽しそう! 入る入る~」

 ぴょんぴょんと跳ねて満面の笑顔を見せる梓。

 こうして見るとただの無邪気な小さい女の子だ、中身は程遠い存在だが。


「よし、詳細については後日連絡させてもらう。学内番号もしくは電話番号を教えてくれ」

 梓と番号交換をしていると袖をくいくいと引っ張られた。

 顔を向けると何やら期待に満ちた顔をしている静流が携帯端末を出していた。

「私も番号交換を」

「静流、お前はいつも一緒だから必要ないんだが」


 言われた静流は無表情な顔を俯ける。

 何か悪いこと言ったか? と本気で不思議そうにしながらも番号を交換する。

 梓は近くでその様子を眺めながら笑っていた。


「あははは~! このコンビは楽しそう! じゃあ楽しみにしてるね!」

 手を振りながらAクラスのほうへ去っていく。


「ところで静流」

「なんでしょう」

「あいつ街中では語尾に『にゃ』がついてたと思うんだが」

 去っていく後ろ姿を眺めながら言う。

「興奮している時にそうなるみたいですよ、本人が言ってました」

「なんなんだそれは……とりあえずは俺に敵意はないようだな」

「あ~ちゃんは楽しいと思えればなんでもする地人です、私の友人でもありますし敵意を向けてくることは今のところないかと。ですが気分屋なので私達を敵に回すのが楽しいと感じれば容赦なく手のひらを返すことはあるでしょう」

「扱いに困る奴だな」

 要は味方にもなり得るし、敵にもなり得るということだ。

 今は中立のようだが危険人物、いや、危険地人であることには違いなかった。


 この日に行われた測定結果は建彦A、静流A、一月S、梓SS測定不能、深鈴Sとなった。

 SSからCまでの5段階評価だ。


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