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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
司崎校
13/26

幼稚な悪意

「お前らな、面倒を起こすのはかまわないけど俺を巻き込まないでくれ。それにああいう奴に関わるとろくなことがないぞ。特に静流、ああいう場合絡まれたお前だけで処理しろ。俺に意見を求めるな、好きなようにしてくれ」

 司崎校の教室棟の2階の廊下で歩きながら一月は言い聞かせる。


 司崎校には数多くの施設がある。中央に現在いる教室棟は川の字のように分かれている。一つが各学年のホームルームがあり、他の二つは座学用だ。

 その間に中庭、噴水やベンチが置いてある。北には部室棟が広がっており、南には職員棟がある。

 北西は学生寮地帯、辺りにはカラオケ、娯楽施設なんてものもある、さらには小さなコンビニなんてものではない、数々の企業が参入している大型スーパーマーケットがあるくらいだ。まるで小さな街である。


 南東には演習棟の関連施設が所狭しと詰められている。様々な機械、さらには本物の地獣まで収容されているため雰囲気的にはかなり暗く見えてしまう。演習棟の裏からは地下自動鉄道で元、横浜方面の外界(街を捨てて今は人が住んでいない地域のこと)に繋がっているという、もちろん運用は司崎校が管理している。これは実際の対地獣戦の経験を積むためだ。



「なんだか冷たくないでしょうか、一月」

 無表情は相変わらずだが少し、いやかなり、女の子をいじめたという罪悪感は拭えない。

(こいつ、女の立ち回りを心得てきてないか?)

「好きな女の子はいじめたくなるもんだよ、な! 一月」

 ばんばんと背中を叩かれる、こういうアクションが強いところは直して欲しいと思う一月である。

「まあそれはいいとして、どこで時間を潰すかだが。何かリクエストはあるか?」

 言葉を発している途中によくありませんと静流が呟くがスルーした。

 どういう意図だったのかはわからなかったが拾うと話が進まないと判断したのだ。


「俺としては演習棟付近をぶらぶらしてえなぁ~。うずうずしちまうよ!」

 建彦は基本的に好戦的な性格らしい。好戦的といっても陰湿な気は一切感じられないが。

「私はかまいませんけど」

 静流は特に行きたいところもないようで無関心なようだ。

 もっとも無表情なので乗り気かどうかなどは推し量れないのだが。

「わかった、じゃあ演習棟付近をぶらぶら徘徊でもするか」



 演習棟についた一月達は特に見るものもないため、1階にあるトレーニング室が集まっている廊下をぶらぶらと歩いていた。

「俺はてっきり生の地獣を拝めると思ってきたんだがなー。なんだが拍子抜けだぜ」

 建彦は頭を両手に乗せて上を仰ぐ。

「そんな簡単に見れるとこに収容しないだろうな、どこかの堅牢な檻の中さ」

「私も少し見てみたかったですね」

 一月は一瞬ぴくっと肩が反応した。建彦は静流のことを何も知らない。

 何かまずいことをこぼすとしたら止めなければいけないためだ。が、さすがにそこまで何も考えてないということはないようだ。

「何回か見たことはあるんだが俺は3区の都心住みなせいで滅多に見れないんだよな~、っと二人はそういえば何区に住んでるんだ?」

 都心には滅多に地獣が侵入してこない。そため都心の住人は地獣を見てみたいという好奇心と地獣の恐ろしさを知らない場合が多い。

「俺は13区だ。14区に隣接してるから地獣はかなり見ているな」

 一月の言葉には嘘が含まれている。14区は現在外界扱いだ。

 そんなところに住んでいることを堂々と言うわけもない。

「へぇ~じゃあ一月は地獣には慣れているんだな、静流ちゃんは?」

 一月はまたもや懸念する、それは杞憂だったが。

「私は12区です」


 あの話が本当なら静流は地人だ。

 地人が普通に家を持ち生活してるかは定かではないが数々の爆弾発言をした静流を警戒してしまうのは仕方がない事と言えた。


「じゃあ二人とも下層地域出身か、おっと! 悪い意味は含んでいないぞ? すまん! つい口からでちまった」


 建彦は本当に申し訳なさそうに両手をパンっと合わせて頭を下げた。

「気にするな建彦。意味合い的には正しいし、他に呼びようもないしな」

 都心1~5区以外は下層と呼ばれている。都心1~5区は地獣対策をされているため土地や税金が高いのである。当然住んでいるのは裕福層だ。

 都心に住んでいる裕福層は6区から23区のことを見下した意味合いを込めて下層と呼ぶ。要するに貧乏人と言っているのだ。

「気にしていませんよ建彦、頭を上げてください」

 地人の静流が気にするわけもないのだが。


「ならいいんだがな! おっ対人演習場だぞ。やってるやってる」

 気付くと対人演習場まで歩を進めていたようだ。建彦はすぐに立ち直った。切り替えが早いのはこちらとしても楽なので大歓迎な一月である。

 対人演習場とはそのままで人と人との模擬戦をする場所である。地獣は脅威だが都心ともなると数は少ない。現在の社会では人の一番の脅威は人なのだ。

 特に司崎校に入学するほどの異能力を持っているとなると誘拐を警戒しないといけないレベルである。

 その誘拐者が武装をしていたり異能力者であったりは珍しくない。そのためにも対人戦闘は必須科目である。



「上級生の異能域試合だな」

 特殊な強化ガラス越しに試合を眺めながら呟く。対人演習場は強化ガラスに囲まれ円形状に広がっている。それにそって観戦する廊下はドーナツ状だ。相当に広く地面は土でできていた。

 異能域試合とは文字通り異能域のみで競い合う。実際に能力を発動させてしまうと色々とリスクが高まるため、安全性を求めて異能域での試合とするのが一般的だ。




「一月と言ったっけ? お前、下層出身だったんだな」

 突如背後から声がした。声がするほうに顔を向けると、女を3人連れせせら笑いながら西城明が歩いてきていた。

「はぁ……またお前か、その通りだがそれがどうした?」

 先ほどの会話を聞かれたのだろう。一月は深くため息をつくと明に向かって言った。

「はっはっは。下層出身の分際で僕の顔に泥を塗ったんだね? これは高くつくよ」

 完全に見下し挑発する発言。


(どの学校にもこういうわかりやすい奴はいるんだな……)


「泥を塗ったつもりはないんだがな。しかも下層だなんだと馬鹿にするのはいいがお前が口説こうとしていた静流も下層出身だぞ」

 一月は挑発には乗らず涼しい顔で軽く受け流す。

「…………」

 西城明は苦い顔で言葉につまる。

 この程度の切り返しで言葉に詰まる癖に挑発してくるのかと一月は表情に出して嘲笑う。

「で、用件はそれだけか?」

 心底めんどくさそうに問う。


「いいや、僕と試合をしろ。拒否権はないぞ」

 ニヤニヤと明を含めた取り巻きの女達は不適な笑みを浮かべる。

「結局こうなるのか……いいだろう、さっさと終わらせよう」

 シニカルに言い捨てつつ了承する。

「逃げないのか、はははっ静流さん見ていてくださいね」

 静流に目配せして空いている演習場の扉を空ける。

 静流は一月の背中に隠れて、なんなんでしょう? と首を傾げるだけだった。



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