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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
有権者
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派閥

「そろそろいいでしょうか? 本題に入りたいのですが。早くしないと時間がきてしまいます」

 静流の紙コップを近くの自動処理ゴミ箱に捨ててやる。

「そうだったな。本題に入ってもらおうか」

 携帯端末の時間を確認して時間があまり残っていないことを確認する。

 静流は頷きながら話を始める。


「はい、私と協力をしてもらいたいのです。それを説明するにはまず地人の勢力図を説明する必要があります。

 まず強硬派、この勢力が地人の全体の8割を占めていると言っていいでしょう。人間を滅ぼそうと活動している勢力です。

 次に共存派、私はこれに該当するでしょう。どうにか人間と共存していく道を探している勢力です。

 最後に傍観派もしくは自由派。ただ観察しているか自分の好きなように動く地人達です、あーちゃんはこちらに該当するでしょう」

 もしも地人の話が本当であればありそうな勢力図ではある。


「ということは人間を滅ぼす方向で現在は限りなく決定に近い情勢で推移しているということか」

「その通りです、都心区への地獣の出現は威力偵察の意味合いを含んでいます」

「都心区には地下に特殊合金を使った地獣対策がある、どうやって破った?」

「地人の手を借りればあの程度の壁は破れますし、少し壁を設置する場所が深すぎましたね。壁の上に地獣を生成することも可能です」

「そういうことか……人間が置かれている状況はわかった、それで何を協力すればいいんだ」


 静流は自然と拳を握り力が入る。

「私は人間を滅ぼすほどの生物だとは考えていません、この地上でのいくつかの出来事からもそれは確信へと変わりました。

 人間は色々な面を持ちます、時にはどの生物よりも残酷な面を見せ、時にはどんな生物よりも慈悲深い。

 赤の他人に情けをかけ助ける。そのような人間がいるというだけで助ける価値があると私は思っています。そこで強硬派の考えを変えたいのが私の望みです」

 静流の声は今までにない力強さを感じさせた。


「それで俺に協力して欲しいと? いろいろと疑問を消化していかないといけないな。まずなぜ俺に協力して欲しいんだ?」

 当然の疑問だ。なぜ一月に協力してほしいのか。政府や軍ではだめなのか。

「今朝の交差点の地獣の件、私も登校中に現場で見ていました。あーちゃんを見た一月の即座の対応。

 一月はわかりやすい脅威、地獣を無視してでもあーちゃんを警戒していましたね? あれが判断材料の一つ。

 二つ目にこれは私にははわからないのですが、あーちゃんが一月のことを相当評価していたこと。そして最後に一番の決め手、14区の地獣達から聞いたある人物の能力」

 14区の単語を聞いた一月は隠そうともせず苦虫を噛み潰したような顔をしながら言った。


「地獣は高度な知能を持っている……情報交換もできるわけか、迂闊だった。能力の情報は静流の中だけでの秘密にしてほしい、でなければ交渉決裂だ」

 一月の周りからチリチリと見えない何かが場を支配する。常人なら寒気を通り越し吐き気を催す威圧に静流は無表情を崩さない。

「最初からそのつもりです、一月の能力を暴露するメリットがありません」

「……そうか」

(この程度で動揺を見せるほど可愛くもないか)

 ふっと辺りが確かに軽くなった。


「今の異能域の質から見ても貴方は強硬派の威圧に絶大の効果を発揮していただけるかと、そもそもの事として貴方は地球を破壊することも可能なのでは? そうなれば貴方を敵に回すことは強硬派にとっては論外。地球を人間から守るという大義名分を失います」

「さて、どうだかな……」

 とぼけているが一月の目はとても冷たく黒く深い色をしていた。

 答えは一月にもわからないのだ。できるかどうか試していたら否定はできるがもし本当に地球を壊せてしまえる可能性を考慮すると試せるはずがない。


「その件は置いておきましょう、それで具体的な方法としては、まず強硬派の大攻勢の情報を収集する、これが最初で最後の難関でしょう。次に強硬派を統制している地人に一月の能力が漏洩しないような環境を設定して脅威を見せ付けるという手順になります」

 情報は地人のことを知っている者、恐らく地人から情報を引き出すしかないだろう。

 これが最初で最後の難関に思えた。


「方法としてはそうなるだろうが俺のメリットはどうなる?」

 一月は自分に利益が及ばない行為は基本的にはしない人種である。

「私から地球、地人、地獣の情報を一月に流しましょう」

「なるほど、だが俺は命を賭けるんだぞ、少し足らないとは思わないか?」

 一月の紛れもない本心である、当然命を落とすとは欠片も思っていないが。

「他に一月にとってメリットになるものですか……」

 暫し思案した後はっと顔を上げる。

「では、私を一月の所有物に」




 一月は疲れていた。静流の爆弾発言もそうだが、一月を探しにきたのか、深鈴が目を見開いて立っていたのも疲れを後押ししている。


「ちょっと一月君! その女の子誰!? そして今の発言はなんなのよぉおおおおお!」


 人ならざるものとの交渉は砂上深鈴の介入を受け、一時休止となる。


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