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柊きらりの日記より抜粋
4月3日 飛牛の月 穴熊の日。
ぁしたゎ合コンだょ。
たのしみだょ、でもでもシュウにバレなぃょうにしなぃと。
ぉこったシュウもかっこぃぃけど。
だって、りゅーになってから、シュウとぁそべないンだもン。
しかたなぃょネ?
そーぃぇば、村のなまぇぉ、シュウに変ぇるンだぁて。
ゥチのカレシさまったらなにしちゃったの?
竜王イグソードが住むのは、遥か北の山岳地帯だ。
夏以外はいつも雪が残る。
白銀の鱗の下に炎の血が流れるキララはともかく、現代日本育ちの俺には少々つらい。
なので基本は、キララの翼で10分の人の住む集落で暮らしている。
ちなみに徒歩ではとてもたどり着けない。
この集落はもともと竜を信仰している集落で、定期的に生贄を差し出すことで、竜王の機嫌をとっていたようだ。
キララから直々に。
「これからは生贄は人でなくてよい、饅頭を差し出すのだ。」
と言わせて、生贄の風習を止めさせた。
さすがに竜王となったキララとの種族差は埋め難く、俺とキララは2日に1度しか会えなくなった。
寂しがってはいたが、生身で豪雪地域の空を飛ぶのは大変なのだ。
空を飛んでいて、雷に打たれたら俺は死んじゃう。
チートな彼女を持つ彼氏は辛い。
そんなある日、空をみあげていると、沢山の竜が空を飛んでいた。
珍しいこともあるもんだと見ていると、中心にいるのは竜王キララだと気がついた。
ふむふむ、2つのグループに分かれて飛んでいるな。
ふむふむ、何か石を取り合って、騒いでいるな。
ふむふむ、「1番と5番がキスをする。」
ふむふむ……王様ゲームか。
あのビッチめ、ドラゴン合コンしてんじゃねーよ!
「だぁて、シュウとぁぇなくて寂しかったっンだぁょ。」
「言い訳すんな! ドラゴンと合コンするとか、ファンタジー愛好家に謝れ!」
キララが隠し持っていた、各地のイケメンドラゴンの連絡先を、俺はハンマーで叩き割る。
「ぇぇん! シュウのぃじわる!」
「うるさい! キララのバカ!」
怒りに震える俺は、今日も自室に引きこもった。
暇つぶしに生成したワクチンと抗生物質の出来を確かめる。
この集落では何年かに一度、酷い流行病が起こる。
特に子供への影響がひどく、子供が発症した場合の致死率は100%に近い。
原因は真菌……つまりコケだ。
なぜ数年に一度なのか、これはこの病コケが普段は別のコケに抑制され、ほとんど繁殖できないからであった。
だが抑制コケは数年に一度、繁殖後に生命力が下がる性質があった。
その時に問題となる病コケが大発生し、胞子が体内に入った人が発病するのだった。
おそらくは、抑制コケが大繁殖することで、病ゴケが死滅するのを防ぐために、動物の体内で繁殖できるよう進化したのだろう。
原因が分かれば、対処は簡単だ。
抑制コケから、病ゴケを抑制する物質……つまり抗生物質を抽出し、それを特効薬とする。
次に抗生物質で十分に弱毒化した病ゴケを使ってワクチンを作る。
病に倒れた人には特効薬を、そして村人には定期的にワクチン接種を行う。
これも全部、地球では20世紀初頭に、偉い先生たちが開発した手法で、俺はそれを真似しているだけだ。
きっと高校生にもできる。
俺はキララに比べて、あまりに普通な自分に悲しくなった。
後世にて外界の人がこの国を訪れた時、人々はここは伝説に謳われた楽園だと呟いた。
活き活きと働く中年男性が、実は外界では老人といっても差し支えない年齢だったからだ。
今は医療大国として知られる、その楽園の名はシュウといった。