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柊きらりの日記より抜粋
8月13日 大魚の月、妖鳥の日
ぅふふだょ。久しぶりにシュウとI-Iしたょ。
LOVELOVEだよ。シュウったら。こぇもかぁいいの。
ゥチ、ぉとこノ子にも生まれてょかったなぁ。
でも、ぁんなにもりあがったのに、シュウったら今日ゎ
口きぃてくれなぃの。
ひどぃょシュウ!
そぅぃえば、ぁたらしぃきゅーでんができるンだって。
ギジドーってぃうだけど、そこにシュウの名前がつけられるの!
すごいょシュウ!さすがゥチのカレシだよ!フフン!
狂乱王子が正気に戻った。
人々は、驚愕と疑いを持ちながら、そう噂した。
遠征から戻ったブランドンはこれまでおざなりにしていた、領内の整備に力を入れ始めた。
兵たちは大半が村々へと戻り、自国の防衛や、反乱に対する備えに十分な程度の兵力のみを残した。
ブランドンが穏便派になった今こそ勝機と、反乱を起こす者たちもいた。
だがそれらに対しては、苛烈に、そして前以上の軍略を思って鎮圧した。
やがて正気に戻ってもなお、ブランドンは無敵の皇子であることが知らしめられた。
今やブランドンは光皇子ブランドンと呼ばれるようになったのだ。
俺の名前は武藤柊二。
キララとの出会いは、中学3年のときだった。
たまたま同じクラスになった俺とキララ。
声をかけてきたのはキララの方だった。
「柊二ってひぃらぎぃ?」
意味がわからない。
「ゥチもひぃらぎぃ」
そう言って、何が楽しいか満面の笑みを浮かべて、自分の名前を書いた紙を見せた。
柊きらり。
なるほど、柊の字が一緒か。
「ょろしくネ、シュウくん」
いきなりアダ名で呼ばれ、思わず笑ってしまった。
それがキララとの最初の出会いだった。
狂乱皇子ブランドンは燃えるような赤髪をした、筋骨隆々の美丈夫だ。
そのブランドンが。
「シュウ、っかれたぁ。ダッコして」
とやってくるのは、いくら俺でも、なんとも形容しがたい感情が沸き立つのを抑えることができない。
まあ中身はキララなので、抱っこするのだけど。
一応、キララはブランドンの能力も経験も知識もすべて自分のものにしている。
なので領内の統治は問題ない。
つまり俺は暇なのだ。
仕方がないので自室で法を整備した。
法の細分化も行い、憲法の草案も作った。
なんのことはない、六法に分ける現代法のパクリだ。
貴族院と大衆院の2つの立法議会を作り、政治をする王とは一線を引いた。
票数は貴族院3に対して大衆院1。
これは現在の政治状況では仕方のないことだ。
大衆院に参加する、村々の代表者は法に関する知識がないのだ。
これから教育機関が整備されていく中で、いつか対等な票数になることもあるだろう。
書類もフォーマット化して作業効率を上げた。
領内の生産高を正確に記録して、無理なく効率的な税務ができるようにした。
ついでに活版印刷機を作った。
ハンコのようにな字を彫った印を組み合わせて、書類を大量に印刷するためのものだ。
教科書の量産は、きっと教育水準を高めてくれることだろう。
これらは俺の世界の二番煎じだ。
きっと中学生でもできる。
キララに比べたら俺は普通の高校生だ。
俺が廊下を歩いていると、反対側からキララと、お供の侍従たちが楽しそうに歩いていきた。
まさか手を出したりしていないだろうな?
俺は思わず声をかけた。
「お疲れ様です、閣下。今日はどちらへ」
キララは少し慌てたような顔をしたが、侍従が口を滑らした。
「ふひひ、シュウ様も誘えば良かったですね。良い女の子がいましたよ」
おいこのビッチ!
男では飽きたらず、女にまで手を出したのか。
俺の表情が変わったのをが分かったのか、キララは焦ったように侍従を下がらせると、俺を部屋に呼んだ。
「シュウごめン! だってぇ、せっかくぉとこになれたぁンだから、きょーみぁって」
「だ、だ、だからって女に手を出すことはないだろ! お前は女なんだから!」
「ぃまは、ぉとこだょ。そうだ、シュウも試してみょーょ」
試す何を?
キララがギラついた目で俺を見ている。
ああこの目はキララの目だ、一緒にベッドに入る時にする目だ。
「待て、俺にそういう趣味は……」
「ぉとこはどきょーだょ。なンでもぉためしてみるもンだょ」
アーッ!!
その日、俺は新しい世界を垣間見た気がした。
あと、俺はホモだと宮廷中の人間から噂された。