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柊きらりの日記より抜粋
4月 25日 当時に飛牛の月 火蜥蜴の日
ふぇぇぇ。きょーらぁんぉぅじがせめてぇくるンだぁテ。
ゃだゃだ、この村はぁ、ゥチの故郷だもン。
なンとかぁしなぃとぅ。
よぅしぃ。ゥチガンバるょ。
狂乱皇子ブランドン。
容赦の無い性格と圧倒的カリスマを持つ若き天才。
歯向かうものもそうでないものも、自分以外の何者の価値も認めない狂人。
その危険な魅力と熱狂は、兵たちを導く地獄への灯火と言われる。
彼の治めるイーストゴート領は、今やイーストゴート国といっても言いほどの規模にまで膨れ上がった。
皇帝亡きあと、軍備拡大に努めていたブランドン軍がついに進軍を開始した。
今は春。農耕を行わなければならない時期である。
ゆえに兵の大量動員は不可能。それが常識だ。
ブランドンはそれを承知で兵を徴収し、軍備を整えた。
足りない食料は奪えばいい。
田畑など目の前にいくらでもあるではないか。
保身なき狂気が兵を駆り立てる。
ブランドン軍は補給線の概念を持たない。
兵糧は略奪で補うのだ。
ゆえに進行型路上にある村は、歯向かう、歯向かわざるに関わらず、すべての食料を略奪される。
谷間の村の平和が終わろうとしていた。
「村を捨てて逃げよう、食料は最低限持っていけばいい」
「ダメだ、村に人がいなければ森を燃やし尽くしてでも探す
食料をどこかに隠していると考えるからだ」
「じゃあ、食料をおとなしく渡せば」
「ダメだ、まだどこかにあるのかと、村人を拷問し、家々を破壊する」
「どうすりゃええんじゃ!」
「どうしようもない……狂乱皇子をお収めできるのは今は亡き皇帝ダイラス閣下だけじゃ」
俺はキララに逃げることを提案した。
今のキララは誰もが羨む絶世の美女だ。
皇子が、どんな女の趣味をしているのかは知らないが、手に入れようとしないはずがない。
だがキララは首を横に振ると言った。
「ここゎ、ゥチの故郷だかぁら」
アイーダの両親はもうこの世にはいない。
兄妹たちはアイーダのことをアイーダさんと呼んだ。
その表情には残酷姫に対する侮蔑と恐怖がはっきりと現れていた。
だがそれでもアイーダにとってはここは故郷なのだ。
自らを皇帝に売るに足る価値のある故郷なのだ。
アイーダの記憶と経験は今はキララのものだ。
キララにとっても、依然としてここはアイーダの愛した故郷だったのだ。
だが最強の魔女と最高の騎士団の力が合っても、キララは1人である。
1人で戦争はできない。
それは流れる瀑布を、一本の棒でせき止めようとするかの如き行為だ。
それが例えどんなに頑丈な棒であっても、それが例えどんなに高価な棒であってもだ。
瀑布をせき止めるには大量の棒が必要なのだ。
馬に乗ったキララと俺はブランドンの軍を目指していた。
やがては先遣隊があらわれた。
「プロミネンス・ゲート!」
溢れる灼熱の輝きは先遣隊を吹き飛ばした。
立ち上がった炎に、にわかに当たりが騒がしくなった。
「大丈夫なのか?」
俺は不安を隠せずキララに聞いた。
「だぃじょぅブ!」
なにか考えがあるのか、キララは馬を走らせ真っ直ぐ進んでいった。
キララが目指したのは、ブランドンの元だった。
立ちふさがる敵を、剣と魔法でつぎつぎになぎ倒す。
世界最高の騎士団の技に導かれ、馬は飛び交う矢を軽々と躱し、疾走した。
1本の棒で瀑布をせき止めることはできないが、それでも棒は瀑布を2つに裂いたのだ。
やがてキララはブランドンの元へ到達した。
キララを前にしても皇子は臆すること無く、象のごとき馬の上から見下すように言った。
「下賤の輩が、朕に何用ぞ」
輝くような絶世の美女を前にしても、狂乱皇子のカリスマが陰ることはない。
この英傑は、追い詰められた今でさえ、自身の優位を一分足りとも疑っていなかった。
「血に飢えた皇子よ、傲慢な剣から産まれるは非業の死と知れ!
己の足元すら見えぬ皇子に、如何なる望みが果たせようか!
血を啜っても腹は膨れぬ、人の愛を知れブランドンよ!」
キララが叫んだ。
皇子はふんと鼻で笑うと答えた。
「朕に愛を説くか痴れ者め。さすれば貴様の愛を試してやろう
今から俺が貴様に槍を投げる、貴様は避けずにそれで死ね
さすれば今回は引き上げてやる」
キララは迷わず頷いた。
皇子は一瞬、驚いたような表情をしたが、嗜虐的な笑みを浮かべると、槍を構えた。
ぐいと腕を引き、皇子は力強く槍を投げた。
皇子の投げた槍は、常人には到底避けられない速度で、しかしぎりぎりキララを外す位置へと飛んだ。
だがキララは、刹那の間に槍が心臓の位置に当たるように動いた。
結果、槍はキララを貫いた。
キララはどぅっと落馬した。
兵たちがどよめいた。
これは皇子がよくやる遊びだったのだ。
わざと外して恐怖を煽ったあと、ついに堪え切れずに相手が逃げ出したら、そこで初めて槍を当てる。
そして後ろに控える者たちを皆殺しにするのだ。
だがこの女は。
絶世の美女であり、軍を引き裂く大魔法使いであり、人馬一体の武人であるこの女は!
その類まれなる武術の才能を用いて自ら命を差し出したのだ!
皇子の表情に驚愕が現れ、その後で笑みが浮かんだ。
「引き上げるぞ」
皇子は残された俺を捕まえると、馬車に乗せ、領地へと引き返した。
こっそりあとをつけ、遠くから見守っていた村の男は泣いていた。
残酷姫アイーダは。
いや聖女アイーダは、その生命に代えて、狂乱皇子と無敵の大軍に勝ったのだと。
贖罪の聖女アイーダの名は、こうして後世まで永く永く語り継がえる伝説となったのだった。
キララ 転生者レベル125 魔女レベル5200 騎士レベル3950 貴族レベル6846 妾レベル2054 英雄レベル8510
・自殺者の剃刀
・無限転生
・世界最強の魔女が持つすべての能力
・世界最高の騎士団の持つすべての能力
・世界を支配した帝国王族たちが持つすべての能力
・皇帝を虜にした愛妾が持つすべての能力
・いずれ歴史に名を残すはずだった英雄の持つすべての能力