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 柊きらりの日記より抜粋


10月 11日

 明日は、シュウとデェトだょ。

 ちょーうれしぃ。

 シュウってゃさしくて、かっこょくてさぁ。

 ゥチにゎもったぃなぃよね。

 でもLOVEだから、しかたなぃょ。

 別れるってぃゎれたらどーしょ。

 もうマジ無理。そうなったらリスカしょ。



 転生者。

 異世界からこの世界に転生法リインカーネイテッド・ソウルで召喚された者を指す。

 召喚の際に一度、対象を殺傷することで、強力な転生技能に目覚めさせる外法げほうだ。


 その日は休日だった。

 俺とキララは映画を見に行くために街を歩いていた。

 車がひっきりなしに通る道で、人通りも多い。

 だというのに、キララは恥ずかしがる様子ものなく俺の左手に腕を絡めていた。


 「キュアキュアとカゝ、マジ無理、涙でる」


 目的は女児向けアニメ映画なのだが、キララはこういうのが好きだ。

 涙でメイクが溶け、目の周りを真っ黒にしながら映画を鑑賞する姿は、子供たちをギョッとさせるのに十分な破壊力を持っている。

 でも。


 「チョー面白かったネ!」


 そう言って無邪気に笑う声を聞けば、子供たちも自然に笑顔になるのだった。


 キララはトイレでメイクを直し、俺たちは映画館の隣にあるファーストフード店で食事を済ませた。

 映画を見た後は、ここでハンバーガーを食べる。

 キララは美味しそうにハンバーガーを頬張りながら、今日見た映画の感想を楽しそうに話している。

 俺はそれに相槌を打ちながら話を聞いた。

 俺たちの映画館デート定番の流れだ。


 異変が起きたのは店を出た直後だった。

 クンッと俺の左手が引っ張られた。

 左手にはキララの手がある。

 つまりキララが引っ張ったのだ。


 「どうした?」


 俺は振り返って、我が目を疑った。

 キララの身体が光り輝く鏡のようなものに、飲み込まれていた。

 腕を引っ張ったのは、顔も半分飲み込まれ、言葉も発することのできなくなったキララの精一杯の意思表示だった。


 「キララ!」


 俺はキララの身体を引いた。

 びくともしない。

 俺が力いっぱい引っ張っても、ズルズルとキララの身体が鏡の中へと飲み込まれていった。

 キララの表情に苦悶が浮かぶ。

 俺は迷わず鏡の中に自分の腕を突っ込み、キララの身体を抱きかかえた。

 鏡の中はゾッとするほど冷たい。

 この中に半身を飲み込まれているキララに、どれほどの苦痛がかかっているのか。

 踏みとどまろうと俺は力を込めた。

 必死に足を踏ん張った。

 だが、まるで効果が無い。

 俺の身体もキララの身体と共に、鏡の中に飲み込まれていった。


 トンと胸を叩かれた。

 キララが残った左手で俺を鏡の外に押し出そうとしていた。

 キララは普段はおバカだけど、こういう時は頭がいい。

 たしかに俺の行為は鏡に対して何の効果もない。

 俺はここから逃げた方がいいのだろう。

 俺よりずっと頭のいい大人たちに助けを求めるのが一番なのだろう。

 でも俺はキララをより強く抱きしめた。

 できの悪い彼氏でごめんな。


 鏡に飲み込まれる瞬間、キララが悲鳴を上げた。

 俺はただキララを抱きしめ、鏡の世界の冷たさから少しでも守ろうと虚しい努力を続けていた。


 俺は冷たい水をかけられ、強制的に覚醒させられた。

 ガンガンと痛む頭を抑えながら周囲を見渡すと、レンガ造りの豪華な部屋にいた。

 隣には俺と同じように服を濡らして、辛そうな表情を浮かべたキララがいた。

 俺はキララを抱き寄せ、周囲に視線を向けた。


 「2人?どういうことだ?」


 言葉を発したのは、でっぷり太った男だった。

 男は、「世界一の大国、ダイラス帝国の皇帝ダイラス3世。」と名乗った。

 ここは異世界、剣と魔法の支配するファンタジー世界。

 俺たちは強い力を持った転生者としてこの世界に召喚されたらしい。

 その目的は、侵略戦争の道具。

 滅ぼした国に、魔王があらわれた時、転生者を召喚するという秘術が伝えられていたので試してみたそうだ。

 使えるようなら兵器として使い、使えないようならその場で殺す。


 「やはり転生者は1人のはずだのう。

  どちらかは勝手に紛れ込んだゴミか。

  おい、お前たち、どっちが転生者なのかえ?

  転生者は生かしておいてやる、違う方を殺せ」


 俺は怒りに震えた。

 少なくとも俺は転生者ではない。

 鏡に飲み込まれたのはキララだったし、俺には今も何の力もない。

 だがキララを兵器として使うだなんて許せない。

 キララは本当は心優しい少女なのだ。


 「転生者は、こッちだょ」


 キララは俺を指さした。


 「キララ?」


 「ふん、なら男、そこな蛮族の女を殺せ。

  せっかくだ、転生者の力とやらを見せてみい」


 できるわけがない。

 俺が転生者か、そうでないかなんて関係ない。

 俺がキララを傷つけることなんてありえないのだ。

 同時にキララが俺を傷つけることはないだろう。

 だからキララはこうするしか無かった。


 「自分でャるょ」


 どこから取り出したのか、キララはナイフを右手に持ち。


 「やめろ!!」


 俺が止める間もなく、躊躇することもなく、キララはナイフで自分の手首を切った。




 キララ 転生者レベル1

自殺者の剃刀クリエイト・リストカッター

無限転生エターナル・チャンピオン


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