13
さすがの神もキララと戦い、彼女を封印したことは重労働だったようだ。
神はキララを封じた水晶を握りしめたまま、近くの島に腰掛け動かなくなった。
キララに比べたら、俺は普通の高校生だ。
なんの能力も持たない。
魔法も使えない、馬にも乗れない、英雄でもない、火も吐けない、空も飛べない、絶対者でもない。
だから俺は普通のことをする。
誰だってやることをする。
自分の彼女が奪われた。だったらどうする。
「取り返しに行くに決まってるだろ、誰だってそうする」
完成した機体に乗り込みながら俺は呟いた。
零式艦上戦闘機。通称、ゼロ戦。
有名だし、本でも何度も読んだ。
半世紀も前の機体だ、情報も出回っている。
兵装から寸法まで暗唱できたし、使用されている金星エンジンの知識に加えて、現代のエンジンの知識もある。
このために一年前から準備してきた。
近代的な製鉄所を作った。鋼を飛び越して合金を作れるようにした。
ライン作業と規格化を導入した工場を作った。基準通りに同じものを作れるようにした。
火薬を作った、弾丸を作った、機銃を作った。
プロペラも作った、内燃機関もつくった、燃料の精製もやった。
高度計を作った、プラスチックを作った、全部作った。
実験場でなんども試作機を飛ばした。
失敗する度に何度も理由を検討した。
誰だってできるさ、キララの彼氏なら誰だって。
キララは替りなんていない、俺にとってたった1人の彼女なんだから。
取り返すためならなんだってする!
「待ってろキララ! 今助けに行くからな!」
俺は地下世界の発着場から地上への大穴目掛けて空へと飛んだ。
エンジン音を響かせながら、ぐんぐんとゼロは上昇し、太陽の輝く地上へと出た。
太陽がキラキラと海に反射した、地上がみるみるうちに遠ざかっていく。
ゼロの翼が青い空に吹く風を受けて震えた、ゼロは相応しい空へと戻ってきた。
神は五月蝿そうに腕を振った。
巨大な竜をも吹き飛ばす嵐が吹き荒れる。
「俺を舐めるなよファンタジー!」
ゼロの翼は風を切って飛んだ。
航空力学によって生まれた鳥は、神の起こした嵐を前に、ギシギシと悲鳴をあげることはあっても、屈することはなかった。
嵐のせいで視界は最悪だ。だが光り輝く神の姿はどんな闇の中でもはっきりと目の映る。
射程内に入ったことをレーダーが告げた。
俺はエンジンの回転数を上げる。
ゼロ、頼む。ほんの短い間でいい、照準を合わせる間、この揺れをこらえてくれ。
俺は激しく揺れるマーカーに集中し、そしてスイッチを押して機銃を発射した。
弾丸は神の被造物じゃない、俺の世界の知識で作られたものだ。
だから神は、それが何をするものなのか分からなかった。
ただ、それがどんなものであれ、神を傷つけることはできないと、それだけを確信していた。
だから神は避けなかった。
大量にばらまかれた真鍮の牙は、神の身体を貫いた。
だが神に空いた無数の穴はすぐにふさがった。
神は怒ったように、腰かけていた島を掴んだ。まるで、アリに指先を噛まれた子供が、アリに復讐しようとしたかのようだった。
そして掴んだ島を砕いて、ゼロ戦に向かって投げつけた。
大量の質量弾による弾幕。
俺の操縦技術では回避のしようもなかった。
ゼロ戦は、そのあまり頑丈ではない装甲を破壊され、あっという間に火を吹いた。
折れた翼と共に地上へと落ちていく。
「あ……ぐ……」
俺は破けた腹を抑えた。
貫通した石礫が俺の腹を貫いていた。
すぐに服が赤く染まる。
操縦桿を握る手から力が失われていくのが分かる。
でも、もう少しだけ。
ゼロはもう少しだけ応えてくれた。落下しながらも、神へと機首を向ける。
俺は許す限りの機銃を撃ち続けた。
そしてついに、銃弾は神の掌を貫いた。
何かが砕けた音がした。
同時にゼロのエンジンが力尽きて止まった。
よく耐えてくれたものだ、ありがとうゼロ。
海面が迫っている、頭が酷く重い。
俺の意識は、やがて海の中に混じって消えた。




