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 さすがの神もキララと戦い、彼女を封印したことは重労働だったようだ。

 神はキララを封じた水晶を握りしめたまま、近くの島に腰掛け動かなくなった。


 キララに比べたら、俺は普通の高校生だ。

 なんの能力も持たない。

 魔法も使えない、馬にも乗れない、英雄でもない、火も吐けない、空も飛べない、絶対者でもない。


 だから俺は普通のことをする。

 誰だってやることをする。

 自分の彼女が奪われた。だったらどうする。


 「取り返しに行くに決まってるだろ、誰だってそうする」


 完成した機体に乗り込みながら俺は呟いた。


 零式艦上戦闘機。通称、ゼロ戦。

 有名だし、本でも何度も読んだ。

 半世紀も前の機体だ、情報も出回っている。

 兵装から寸法まで暗唱できたし、使用されている金星エンジンの知識に加えて、現代のエンジンの知識もある。


 このために一年前から準備してきた。

 近代的な製鉄所を作った。鋼を飛び越して合金を作れるようにした。

 ライン作業と規格化を導入した工場を作った。基準通りに同じものを作れるようにした。

 火薬を作った、弾丸を作った、機銃を作った。

 プロペラも作った、内燃機関もつくった、燃料の精製もやった。

 高度計を作った、プラスチックを作った、全部作った。

 実験場でなんども試作機を飛ばした。

 失敗する度に何度も理由を検討した。


 誰だってできるさ、キララの彼氏なら誰だって。

 キララは替りなんていない、俺にとってたった1人の彼女なんだから。

 取り返すためならなんだってする!


 「待ってろキララ! 今助けに行くからな!」


 俺は地下世界の発着場から地上への大穴目掛けて空へと飛んだ。

 エンジン音を響かせながら、ぐんぐんとゼロは上昇し、太陽の輝く地上へと出た。

 太陽がキラキラと海に反射した、地上がみるみるうちに遠ざかっていく。

 ゼロの翼が青い空に吹く風を受けて震えた、ゼロは相応しい空へと戻ってきた。


 神は五月蝿そうに腕を振った。

 巨大な竜をも吹き飛ばす嵐が吹き荒れる。


 「俺を舐めるなよファンタジー!」


 ゼロの翼は風を切って飛んだ。

 航空力学によって生まれた鳥は、神の起こした嵐を前に、ギシギシと悲鳴をあげることはあっても、屈することはなかった。

 嵐のせいで視界は最悪だ。だが光り輝く神の姿はどんな闇の中でもはっきりと目の映る。


 射程内に入ったことをレーダーが告げた。

 俺はエンジンの回転数を上げる。

 ゼロ、頼む。ほんの短い間でいい、照準を合わせる間、この揺れをこらえてくれ。


 俺は激しく揺れるマーカーに集中し、そしてスイッチを押して機銃を発射した。


 弾丸は神の被造物じゃない、俺の世界の知識で作られたものだ。

 だから神は、それが何をするものなのか分からなかった。

 ただ、それがどんなものであれ、神を傷つけることはできないと、それだけを確信していた。

 だから神は避けなかった。


 大量にばらまかれた真鍮しんちゅうの牙は、神の身体を貫いた。

 だが神に空いた無数の穴はすぐにふさがった。


 神は怒ったように、腰かけていた島を掴んだ。まるで、アリに指先を噛まれた子供が、アリに復讐しようとしたかのようだった。

 そして掴んだ島を砕いて、ゼロ戦に向かって投げつけた。

 大量の質量弾による弾幕。

 俺の操縦技術では回避のしようもなかった。

 ゼロ戦は、そのあまり頑丈ではない装甲を破壊され、あっという間に火を吹いた。

 折れた翼と共に地上へと落ちていく。


 「あ……ぐ……」


 俺は破けた腹を抑えた。

 貫通した石礫せきれきが俺の腹を貫いていた。

 すぐに服が赤く染まる。

 操縦桿を握る手から力が失われていくのが分かる。

 でも、もう少しだけ。


 ゼロはもう少しだけ応えてくれた。落下しながらも、神へと機首を向ける。

 俺は許す限りの機銃を撃ち続けた。


 そしてついに、銃弾は神のてのひらを貫いた。

 何かが砕けた音がした。

 同時にゼロのエンジンが力尽きて止まった。

 よく耐えてくれたものだ、ありがとうゼロ。


 海面が迫っている、頭が酷く重い。

 俺の意識は、やがて海の中に混じって消えた。

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