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 柊きらりの日記には、もう何も書かれていない。


 神の降臨はそれから1年後のことだった。

 魔王の軍も人間の軍も、腕の一振りで巻き起こる暴風に叩きつけられ、倒れた。


 神は光の塊だった。眩しく金色に輝く光だった。

 光が蠢き、姿を様々な形に変えた。魚のヒレが現れたと思ったら鳥の翼が現れた。

 馬の足で歩いていたら、その足から人間の足が生えた。

 神々しくも恐ろしい、混沌とした姿だった。


 光から腕のようなものが伸びて、それを振り回すと、恐ろしいほどの嵐が生まれた。

 地面を叩くと、大地が揺れた。


 「ここゎ、ゥチらの世界だょ! 黙ってみまもってて!」


 戦えるのは、もはやキララしかいない。


 キララの手から稲妻が迸り、口から業火を吐き出した。

 振るった剣は大地を割り、唱えた魔法は天蓋を砕いた。


 神は嵐を起こして応戦し、大地を掴んで投げつける。

 足を踏み鳴らせば地面が揺れ、息を吐き出せば空が割れた。


 キララの剣が神の腕を斬り落とす。

 しかし無限の命を持つ神は、新しい腕を生やしてキララを殴りつけた。

 キララが神を掴んで海へと投げる。

 しかし無限の姿を持つ神は、翼を無数に生やして空を飛んだ。


 神がキララに稲妻を雷雲ごと投げつける。

 キララは爆勁ドラゴンブレスで、雷雲を蒸発させた。

 神がキララを掴み、握りつぶそうとする。

 キララは魔法で油を作り出しするりと抜けた、


 それは神話に謳われる、神々の戦いだった。

 人々は神の怒りを恐れながら、キララの背中に向かって祈るしかない。


 俺は……


 キララは世界最強の存在だ。

 それは疑いようもない。だけど。


 相手は神だ。限りある生命を持たない不死不滅の存在だ。

 キララの引き起こす力は段々と弱くなり、神の力はますます勢いをましている。


 「この世界を作ったのは間違いだった、滅ぼさなくてはならない」


 神はそう言った。世界中の人々がそれを聞いた。

 それは天上から聞こえるラッパのように、人々の頭のなかで鳴り響いた。


 「そんなことゎさせなぃ!」


 キララが叫んだ。世界中の人々がそれを聞いた。

 それは携帯電話の着メロのように、人々の頭のなかで鳴り響いた。


 どれだけ転生を重ねても、どれだけの経験を上書きされようとも、キララはどこまでもキララだった。

 どうすればそんなことができるのだろう。

 百回以上の人生を送って、その中では人間以外の生き方もしている。

 なぜキララという存在が薄められて消えてしまわないのだろう。


 無限転生エターナル・チャンピオンはチート能力なんかじゃない。

 普通の人間なら、とっくに本来の人格なんてもの消えてしまっているはずだ。

 数えきれない年月を経てなお、自分を見失わない強さが必要なのだ。

 そんな超人が存在するのだろうか。


 ついにキララは神の手に掴まれ、山へと投げつけられた。

 山が砕けて地形が変わる。

 ついにキララは立ち上がれなくなった。


 追い詰められたキララは右手にナイフを作り出す。

 神に転生できるかは疑問が残るが、他の生物に転生して、また挑むことができる。


 だが神はそれを待っていた。キララの攻撃が止まる瞬間を待っていたのだ。

 その強大な力を惜しみなく使い、キララの周りに青く輝く水晶を創りだした。

 そしてその水晶でキララを包み込み、指先1つ動かせないように拘束する。

 キララは強大な魔力でそれを押し破ろうとするが、神の力を得た水晶は魔力に耐えた。

 魔法は呪文を唱えなくてはいけない、剣は振りかざさなくてはいけない、爆勁ドラゴンブレスは息を吸わなくてはいけない。

 そして無限転生エターナル・チャンピオンは死ななければいけない。

 今のキララは手首を切る自由すら奪われている。

 目の醒めるような青い輝きを放つ水晶に封印されたキララは、もはや為す術無く無力化されてしまった。


 キララは敗北したのだ。

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