11
柊きらりの日記より抜粋
3月 28日 地下に空はない
シュウゎむっしぃ顔をして本を読んでぃるょ。
べんきょぅするすがたもかっこぃぃょ。
でもぃったぃ、なにぉょんでるンだろ。
シュウからゎたされた絵ゎ、順調にぃ進ンでるょ。
ゥチのことほめてくれるかな。ぇへへ。
なぜ魔王ヴァイリは地上を制圧しようとしたのか。
なぜ魔女ルーシアは暴虐の皇帝に協力したのか。
なぜ竜王イグソードは世界を焼き払うのか。
キララは彼女たちの記憶を持っているはずなのだが、奇妙なことにその部分に関してだけキララの記憶からに欠落している。
キララの能力は相手の持つすべての能力を得ること。
つまり魔王も魔女も竜王も、なにか彼女たち本人とは別の大きな流れの中にあったのではないだろうか。
残念なことに、俺、武藤柊二はキララのようなチート能力の無い普通の高校生だ。
歴代魔王が収集した、この図書館の本を読んで地道に調べるしか無い。
こんなこと、きっと誰だってできる。
4桁ほど読み終えたところで大体の状況を推測できた。
歴代魔王や、神話級の魔物、魔道を極めた魔女には共通の、本能的な概念を感じる。
それは世界が誤った方向に進んでいるという概念だ。
困ったことに正しい方向というのが分からない、その上どうもその正しい方向というのは、毛筋よりも細いものらしい。
だから世界を破壊して後ろに引き返させるのだ。
なんのために?
それについては二代目魔王の日記を解読する必要があった。
解読といったのは、この日記の後半が暗号のような意味を成さない文字の羅列になっているからだ。
とはいえ機械に頼らない素朴な暗号だ、他の日記での文体と暗号文を比較し、頻出する文字から暗号文を解読していくことができた。
頻度分析法も俺の世界では原始的な暗号解読法だ。
きっと、誰にだってできる。
分かったことを要約すると、どうやらこの世界を創造した神さまがいるらしい。
あまり性格の良い存在ではない。強い自我があるし、我が儘なエピソード豊富だ。
芸術家気取りのそいつは、世界が誤った方向に進みつつあるのが分かると破壊してしまうのだと。
その正しい方向とは100%減点法。
完璧でようやく及第点。1つでも間違ったところ――例えば村の配置が気に入らないとか――あれば最初からやり直しだ。
だから神に気が付かれる前に世界をある程度破壊し後退させる、それがこの世界の力あるものたちの義務なのだと。
二代目魔王は地上世界を破壊したあと自殺している。
この日記は誰かに読ませるためのものではなく、自分の生きてきた道の意味を残しておきたかったのだろう。
大魔女ルーシアは、青春を、人生を、その他すべてを賭けて極めた魔道を権力者のために使うことに苦痛はなかったのか?
竜王イグソードは、何者にも縛られないはずの翼を縛られることに苦痛はなかったのか?
魔王ヴァイリは、生涯を孤独な破壊者として生き方を強制されたことに苦痛はなかったのか?
キララは本質的にはこの世界の神に属していない。
だから、世界を破壊しなかった。
俺はそもそもこの世界の神に属していない。
だから、この世界に進歩をばらまいてきた。
戦いの時が来るかもしれない。
キララなら勝てる……と思う。
そう思うけど、俺はキララのことが心配だ。
どんなに無敵で、どんなに不死身で、どんなにチートであって、キララは俺の大切な、本当に大切な彼女なのだ。
俺は自室に篭って沢山の図面を描くことにした。
キララを通して、これらを住人たちに製作してもらうように依頼する。
誰だって、そう誰だって、できることをするために。




