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ヘタレが戯言を仰った

初投稿です。

文章の粗さはご勘弁を。

主人公たちの外見は二話目で描写します。

神と魔と精霊と人と亜人が、混沌と仮初の平和を友人に共存する世界ヴィリエスタ。


そんなヴィリエスタにおいて、魔の代表、当代魔王陛下であらせられるリリア・ヴァンクロウゼン陛下はいまだ若輩である。と、言うより幼年である。ロリキャラといっても過言ではないだろう。いや、むしろロリキャラ以外の何者でもない。


そのためリリア陛下には職務上の補佐兼教育係が必要となるわけであり、そのポジションにはリリア陛下への忠誠心の高さのみならず、それなりの見識といざという時のための『力』が求められる。つまり、全魔族が欲してやまない要職というわけだ。


そんな要職に就いて一年になるのは、魔神序列第四位にして魔界八大将軍の一角を担う若き俊才ヒエン・ヒーエス――――端的にいえば俺のことである。


そして本日、より正確に言うと今現在、俺はリリア陛下の教育係就任以降最大のピンチを迎えていた。


何と、


いざ時来たらば、


八千万を超える魔界軍を、


陣頭にて指揮を取り、神と人を撃ち滅ぼすべきリリア陛下が、


――――引き篭もりになられてしまったのである。


                      ★



陛下お付きのメイドから俺の邸宅にその知らせが届けられてからの俺の行動は、我ながら迅速であったと思う。


リリア陛下のご体調優れず……


その報を関係各所に届け、陛下との面会は完全シャットアウト、お付きの者たちにも緘口令を敷き、自身は陛下の寝室へと駆けつける。この全工程を三十分で成し遂げたのだ。自分で自分を褒める技術に定評のある俺だったが、今日ばかりはその卓越した技術をもってしても自分を褒めきれないほどのグッジョブだ。


何せ俺より先に他の魔神がこの変事を耳にしていれば、当然魔王家の大スキャンダルで魔王国全体が大パニック。責任追及の矛先は当然教育係たるこの俺に……ガクガクブルブル。


「だが、本当の問題はここからか……」


王城から聳える四本の塔の一つ『阿鼻叫喚』の最上階に位置するリリア陛下の寝室前で、俺はただ立ち尽くすしかなかった。


何も、紳士たるもの淑女の寝室に足を踏み入れることまかりならん!何て古い慣習にこだわったいるわけではない。


来訪を知らせるために扉をノックしようとした瞬間に聞こえてきてしまったのだ。


今にも息絶えそうな、か細いリリア陛下お声が。


『うううっ……勇者は怖い……怖すぎるのじゃ……』


魔王として言ってはいけないセリフベスト3にランクインするであろうその発言に、俺は目の前が暗くなった。


「くっ、いかんいかん。こんなことで挫けてどうする俺!」


体の奥底にかすかにこびりついて残っていた気力を掻き集め、何とか四肢に力を入れ直し、扉を開け放つ。この際、多少の不作法は大目に見てもらう方向でいこう。


リリア陛下の寝室に足を踏み入れてまず目についたのは、大人十人が寝転んでも余りある巨大な天蓋付きベッドと、その中心にて蹲り小刻みに震え続けているシーツの塊であった。無論、シーツの塊の中身は想像するに難くない。


そして、一歩踏み出してとある物体がベッド傍の床に落ちていることに気付いた。


本である。


装丁に一工夫も二工夫もした、立派な見栄えの本だ。


その本のタイトルは、こうである。


『本当は怖い勇者物語』


グリムチックな童話的なあれですね、と俺は一人この事件の発生原因のその後の経過に関して、すべて理解した。しかし、俺が理解したからといって、どうなるでもなし、とにもかくにもここは教育係としてリリア陛下の勇者に対する恐怖心を払拭せねばなるまい。


「勇者怖い勇者怖い勇者怖い――」


「あの、陛下」


「――っ!」


精神崩壊を起こしかけている陛下に声をかけてみた結果、白いシーツの塊がボフンと勢いよく跳ねあがり、その着地に失敗してベッドから転がり落ちた。


ゴツンと鈍い音が響き渡る。どうやら頭蓋骨からダイブしたらしい。


「い、いたたなのじゃ……はっ! 誰じゃ! いったい誰が妾の寝室に無断で入り込んできたのじゃ! まさか勇者か!?」


「いえ、違います。貴女様の教育係ヒエンでございます。だいたい勇者などがこの魔王城に侵入できるはずございません」


「う、嘘じゃ! 妾は知っておるぞお主ら勇者は魔王城侵入の下準備として、本来自分たちが守るべき民草の家に無断で侵入するという非合法な訓練を積んでおるのであろう! おまけにそこで壺や箪笥を漁り、貧しき民が苦労して貯め込んだ僅かな金品や、もしも家族の身に何かあった時のためにと用意してある薬草や毒消しはおろか、サイズが合うかも分からぬ衣服すら奪い取っていくそうではないか!この鬼畜! 外道! 人でなし!」


歪んでいるのか、逆に核心を突いているのか判断に困る勇者観を披露する陛下に、俺はやれやれと首を振る。


さて、どうやって自分がヒエンであると証明すべきだろう?


ここで強引にシーツでも剥ぎ取れば、パニック状態の陛下がどんな行動に出るかわからない。最悪陛下が全力で何らかの攻撃魔法をぶっ飛ばしでもしたら、魔王城どころかその周辺一帯が地図から消え失せる。至近距離にいる俺など消し炭すら残らない。


最悪の未来予想図を脳内から消し去りつつ、俺は一つの決断を下す。


……ここはやはり、あれしかあるまい。


「陛下、私がヒエンであるという証明のために、私と陛下しか知らぬ秘密を口にしますが宜しいでしょうか?」


「む、むむむ構わんぞ。もっとも、それなりの秘密でなければ信じぬぞ! そう、国家機密級の――」


「陛下が最後にベッドに粗相をしたのは一昨日で、言い訳は確か、自分の部屋にだけ局所的な台風が」


「認める! お主は確かにヒエンじゃ! 故に超国家機密をそれ以上口にするでない!」


とりあえず、陛下をシーツから出すことには成功した。


だだし、陛下が顔を真っ赤に染め上げ、泣き出しそうだったことは言うまでもない。


                      ★


あれから半刻(一時間)後、何とか陛下は落ち着きを取り戻したが、寝室からは一歩たりとも出ようとはなさらなかった。


理由はこうである。


「迂闊に外に出てみろ。勇者とエンカウントしてしまうではないか」


意味は分かるが、分かりたくはなかった。


……やれやれ、困ったものだ。


俺は陛下にばれぬようこっそりため息をつく。


昔から感受性が強く、本の内容やメイド達の噂話を鵜呑みにし過ぎる傾向があったが、ここまでそれが顕著に表れたのは初めてである。そのため、対策案がなかなか思い浮かばない。だからといって、いつまでも放っておけば何処からかこの事を嗅ぎつけてくる輩が現れないとも限らない。


「陛下、勇者など気に留める必要はありません。有史以来奴らが魔王城に足を踏み込んだことはないのですから」


「ふん、過去になかったからといって、今後もないとは限らぬ」


正論である。


「もしこの魔王城に侵入されたとしても、陛下のお力をもってすれば一蹴できましょう」


「己の力に対する過度の慢心により滅んだ者たちは数知れぬ。妾にも同じ轍を踏めというのか」


正論だ。


「ならば、全兵力をもって勇者討伐を」


「藪をつつけば蛇が出よるわ」


正論。


「……」


悉く論破された俺が本日数度目の深いため息をついた時、それが視界に入った。


『本当は怖い勇者物語』


この騒ぎの元凶となった忌むべき存在である。


この世からその存在を消し去ってくれようかと、火の魔法を使おうとした俺だったがしかし、とある閃きが脳裏をが走ったため中断する。


「陛下」


「何じゃヒエンよ」


「日頃私が口を酸っぱくして言っている教えをよもやお忘れではありませんな」


「はて、教えとな?」


「あらゆる事象は複数の視点から観測して、初めて真実へと近づく……ということですよ」


「ああ、あれか、確かにその教えはもっともな事じゃが、今回の件と関わりがあるのか?」


「ええ、ありますとも」


俺は自信を持って頷き、普段よりもやや声を低め教師然とした態度で諭した。


「陛下は先ほどから魔王の視点から見た勇者の脅威しか語っておられません。ですから別の視点から勇者を観測するとどうなるかもお考えいただきたいのです。そう例えば、勇者当人やそれを支える人間たちの視点からです」


「勇者に、人間じゃと? どういう事じゃ?」


「つまりですね。勇者や民衆からすれば、勇者というのは大変貴重で替えのきき難い存在、希望の象徴なのです。そんな勇者を、いきなり魔族の本拠地に送り込むでしょうか?」


「な、なるほどのう。補給も届かぬ、支援も得られぬ敵地に放り込まれればいかな勇者であろうと苦戦は必至、命を落とす可能性も高い」


「ええ、ですから彼らはまず最低限の安全を確保すべく、人間と魔族の国境――最前線にあるこちらの基地やダンジョンを攻略しようとするはず。そしてそこが突破されることがあったとしたら、その報は必ずこの魔王城に届けられます。ゆえに、陛下が勇者の存在を恐れ警戒なされるのは、前線から一報が届いてからでも遅くありません」


「うううむ」


どうやら納得していただけたらしく、陛下の顔色は徐々に回復していった。


否。


むしろ、普段より血色が良くなり、興奮している様子が窺えた。


その意味を深く考えなかった自分を、俺は後々殺してやりたいほど憎むことになる。


「では陛下、問題が解決した所でそろそろ本日の政務と授業を――」


「のう、ヒエンよ」


割って入ってきた陛下の呼びかけ。


「妾たち魔族は勇者に対する理解度が足らぬと思わぬか?」


その問いに私の背中からブワリと嫌な汗が溢れ出す。


「え、ええまあそうかもしれませんね。今後は勇者に関する調査と報告を徹底――」


「それでは魔族の視点から見た情報しか集まらんではないか」


あ、駄目だ。


嫌な汗とともに、悪い予感が止まらない。


「で、では人に近しい姿の魔族を人間社会に潜入――」


「報告というまた聞きの情報では、なあ……」

 

なあって言われても困る。


魔族からの視点ではなく、ついでに他者からの情報でも駄目だとするとつまり、陛下がおっしゃりたいのは勇者たちの視点をもってしてご自分で情報を……っ!? 自分で!?


「陛下、まさか!?」


あり得る筈のない己の予想に唇を引きつらせる俺の眼前で、陛下はその一言を仰った。


いかにも重々しく。


魔王として威厳を込め。


誰もが見惚れてしまう笑顔とともに、言い放ったのだ。


禁断の一言。


魔王として言ってはいけないセリフ、百年連続堂々の一位に輝くその一言とは!!


「ちょっと妾、勇者になってみる」












一日に短い文章で一話か二話のペースであげていきたいとおもいます。

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