第九話
僕の掌は誰かに握りしめられている。眩しくて明るいほうに僕を導いてくれようとでもするかのように。きつくかたく、温かく。眩しい日差しが瞼に差して僕は目覚める。ここは無機質な白いベッドの上だ。包帯の巻かれた足がぶら下げられている。ぱちぱちと瞬くと、ぼやけた視界に、セデュの顔が映る。僕の掌を握りしめて、枕辺で、潤んだ瞳をしたセデュがいる。
…また失敗しちゃった。今度こそ、消え去れるかと思ったのに。
生きるのがうまくできない僕は、死ぬことも上手にできない。
声を出そうとして咽る。蹲るように丸くなる僕の背をセデュが撫でる。何度も何度も、優しく労わるようにされて、それで僕はますます小さくなる。
こんなふうに扱われる価値なんてないんだって、思い出しちゃったから。
「…だめなんだ、ぼく、きみのそばでいきていられない」
「…どうして」
「父さんも、母さんも、みんな、…ぼくが殺したんだ。ぼくが、バカだったせいで、がまんができない、クズだったせいで、みんな、いなくなっちゃった、んだ。…ぼくはじぶんを許せない。きみのとなりで、へーきな顔して、し、幸せになるなんて、許されない…」
「…」
「ぜんぶ忘れて、コドモのままで、きみのそばにいられたらって、…ぼくは逃げてたんだ、ずっと、ぼくの罪から逃げてた。でも、もう、そんなの、むりなんだよ。ぼくは、きみのそばにいるには、…汚れすぎてしまった、から」
「…ルー、」
「もどれないんだ。ぜんぶ無駄なんだ、ぼくはもう、消え去るしか方法が分かんない…」
「私はそれでも、お前が戻ってきてくれて、うれしいよ」
セデュが僕の掌を握りしめたままで言う。何かを確信しているひとみたいな、強い力のこもったまなざしで、僕を見る。
ぐちゃぐちゃでボロボロの、包帯塗れの、亡霊みたいな僕を見る。
「お前が苦しんでいても、――死にたくなるほどに辛い思いを抱えていたとしても、私はお前に生きてほしい。全部私のせいにしてくれ、傲慢な、身勝手な男に縋られたからだと、そう思ってくれていい」
「…」
「愛しているよ、ルー。誰に許されなくても、世間から後ろ指差されても、…神に背いても、私はお前を離さない」
誓うみたいにそう言って、セデュは僕の指に口づける。
聖なるものに触れるように恭しく、僕の汚れた指に唇をふれる。
――僕はどうしたって、きみのことが好きだから、好きで好きでたまらないから、その手を捥ぎ離すことなんて、できないんだ。
セデュは毎日病室の、僕の傍にいる。
僕がまた自棄になって、手首を切ったり窓から飛び降りたりしないか、心配なのかもしれない。
リハビリにまでついてきて手を貸してくれるセデュに、仕事はどうしたのか聞いたら、僕が退院するまでは休止中だなんて言う。
「…それ、だいじょうぶなの。…きみの今後の仕事に差し障らないかい…」
「私にとっては、お前の方が大事だから」
なんでもないみたいに言って、ひと月も寝たきりでぎくしゃく油の切れたロボットみたいに動く僕の手を引いて、セデュは朗らかに笑う。
足が縺れて倒れ込む僕を、優しく受け止める。
「ゆっくりでいい、急がなくていい。お前はまた元通りになれるさ、また、みんなのところに帰ろう」
「――」
際限なく、僕に甘くて、どこまでも優しいセデュはそう言って、僕を抱きしめる。
病室には、ダイアナやマチウ、バロット、チャーリーやアジャーニから届いた花で溢れかえっている。
ひとりで楽になるのもまた罪なのかもしれないなんて、どうしようもない僕はまた自分を騙して、セデュに縋りつく。…。




