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マユちゃんシリーズ

「仕事と私、どっちが大事なのって言っちゃダメですよね?」と無敵の後輩マユちゃんは今日も私に訊いてきますが、婚約破棄をされた私には返す言葉がありません。

作者: 来留美
掲載日:2026/02/26

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

 私ことマユは今日も、私と同じ名前で後輩のマユちゃん観察に大忙しです。

 何故かというと、マユちゃんは見ていて飽きないからです。


 毎日、何かに悩んでいるマユちゃんは、私に答えを求めてきます。

 可愛い私の後輩だけど、マユちゃんは無敵です。


 私の答えなんて必要ないはずなのに、私を慕ってくれるマユちゃんに、私は甘いのかもしれません。


「マユ先輩。聞いてくださいよ」

「何? 今日も何かあったの? お昼休憩で聞くから今は、このデータをまとめてくれる?」

「は~い」


 マユちゃんは、仕事ができる。

 マユちゃんに任せれば心配無用です。


 見た目は今時の若い女の子で、ネイルはギラギラしていて、髪もゆるふわウェーブのロングに、みんな同じ制服なのにマユちゃんが着ると、オシャレに見えてしまう。


 マユちゃんの容姿は完璧で、男性社員にも大人気。

 一つだけマユちゃんの悪いところを言うとすれば、恋人ができると恋人に合わせてしまうところです。


 今もネイルはギラギラだし、ゆるふわウェーブのロングは、マユちゃんらしくないのです。


 マユちゃんは、ギャルのように見えて、しっかりした女の子なのです。

 早く恋人が変わればいいと思っている私です。


「それで? お悩みは何なの?」


 私はお昼休憩になり、隣でお弁当を美味しそうに食べているマユちゃんに言います。


「それが、彼に言われたんです」

「何を?」

「仕事と私の、どっちが大事なのか僕に訊いてこないの? って」

「えっ、そんなこと言う人っているのね?」

「そうですよね? 彼が、仕事と私の、どっちが大事なのか訊かない理由を教えてって言うんですよ」

「ちなみに、彼ってそんなに仕事が忙しい人なの?」


「う~ん。バイトだから忙しい感じはしないですね」


 マユちゃんは少し考えて言った。


「バイト? 彼って大学生なの?」

「えっ、フリーターです」

「フリーター? いくつなの?」

「三十五歳です」

「えっ、私より十歳くらいは年上じゃない? マユちゃんからしたら、もっと年上でしょう?」

「そうですが、年齢は関係ありません」


 年齢は関係なくても、三十五歳でフリーターって将来、結婚をするとなったら大丈夫なのでしょうか?


「年齢だけじゃないでしょう? 将来のこととかさ」

「でも将来が安泰な人でも、何があるか分からないことはマユ先輩が一番、分かっていますよね?」

「なっ、それは、、、」


 マユちゃんに言われて私は返す言葉がありません。

 だってマユちゃんが言った言葉の意味が私には分かるからです。



 私は課長と婚約をしていました。

 しかし、その婚約を破棄されました。

 その理由は分かりませんでした。


 私は課長には何も訊けず、一人で悩んでいました。

 そんな私をマユちゃんは心配そうに見ていました。

 傷付いていた私は、その感情を隠すことができませんでした。


 ある日、課長が机の引き出しを開け、真っ青な顔になる時がありました。

 私は課長を心配してしまいました。


 そんな時、隣の席のマユちゃんはクスクスと笑っていました。

 何か企んでいる顔でした。


「マユちゃん?」

「マユ先輩。私、マユ先輩を傷つける人には靴の底についたガムで机の引き出しの中を、いっぱいにするって言ったので」

「何? どういうこと?」

「マユ先輩は、なんにも悪くないですよ」


 マユちゃんの優しさ溢れる言葉が私の傷付いた心を温めてくれました。

 マユちゃん。

 私には、あなたが必要です。

 どうか、ずっと傍にいてください。


「私は、マユ先輩のおかげで無敵になれます」


 泣きそうになる私に、マユちゃんはニッコリと笑って力こぶを作る仕草をします。

 私の隣の席にいるのは頼りになるマユちゃんです。


 その日の夜、課長から連絡がありました。

 大事な話があると言っていました。

 私は明日の退勤後に聞くと伝えたのですが、課長は今すぐ話をしたいと言い、私の家へ来ると言いました。


 それから課長が家へ来て、大事な話をするために向かい合って座ります。


「僕は君が好きだよ」

「えっ、でも、婚約を破棄したでしょう?」

「それは、君のためだったんだよ」

「私のため?」

「僕は転勤になったんだよ」

「転勤?」

「僕は小さな支店へ一年ほど行かなければならないんだ。君とは遠距離になってしまうんだ」

「だから?」

「遠距離なんて無理だろう? 前に遠距離でダメになった元カレの話をしていたし」


 課長は私のためと言いましたが、課長は自分のために婚約破棄をしたのだと気付かないのでしょうか?


 自分が傷付かないためだと。


「それは私のためではないわ」

「うん。彼女にも言われたよ」


 思ってもいなかった言葉が返ってきて驚く私です。

 彼女とは?


「もしかして、、、」

「うん。マユちゃんだよ」

「やっぱり。マユちゃんは気付いていたんだね」


 なんだか嬉しくて笑ってしまいました。


「そんな顔、久し振りに見たよ」


 課長は私の顔を見て、なんだか照れながら言いました。


「無敵なマユちゃんが大好きだからだよ」

「マユちゃんに嫉妬しそうだよ」

「ふふっ、マユちゃんには勝てないわ」

「そうだね。マユちゃんがいれば君も寂しくないかな?」

「えっ?」

「僕は、君が傍にいないと寂しいし、君もそうだと思ったから、君と別れることを選択したんだ」

「勝手ね」

「でも、マユちゃんがいれば大丈夫なんだって思えた」

「だから?」

「やっぱり、君と離れたくないんだ。だから、、、」


 向かい合って座っていた課長が、私の横に来て片膝をつけ、白い四角の箱をポケットから出してきました。


「僕と結婚してください」


 二度目のプロポーズに私は驚きました。

 そして二つ目の婚約指輪です。


「待ってよ! 婚約指輪は持ってるわ。肌身離さず持ってたわ」


 私はポケットから指輪を出し、掌の上に乗せて見せます。

 未練があるなんて知られたくなかったけど、課長には知っていてほしかった。

 この婚約指輪がどれだけ私の心の支えになっていたのかを。


「僕のプロポーズの答えは?」

「えっ、でも、私、婚約破棄をされたのよ? 二度目のプロポーズは嬉しいけど許せないわ」


 本当は嬉しい。

 でも、ここで課長を許してしまったら、この先も今回のようなことがあれば同じことが起きそうで怖いのです。


「マユちゃんの話をしようか?」

「どうしてマユちゃんなの?」

「マユちゃんが、その話を聞けば君は納得するって言ってたからさ」

「分かったわ。聞かせてよ」


 それから課長と私はソファに座ります。

 なんだか二人の間に少しだけ距離があります。


~マユちゃんと課長との会話~


「課長、机の中身は受け取ってもらえました?」

「やっぱりマユちゃんだったんだね? マユさんのためだよね?」

「気付いてくれたんですね? 気付かなかったらマユ先輩は渡さないって言おうとしたんですよ?」

「こんなことをするのはマユちゃんしかいないと思ったからさ。それに以前、靴の底についたガムを取ってあげた時に言ったよね?」

「マユ先輩を傷付けたら、靴の底についたガムで机の引き出しの中を、いっぱいにしますからね」





 「そう言って、マユちゃんは不適な笑みを浮かべたよ」


 課長は少し怯えた顔で言いました。


「えっ、もしかして、その会話って今日の出来事?」

「うん。出勤してから引き出しを開けて驚いたよ」

「ガムが?」

「それが、ガムじゃなくて、いろんな種類のゴミだったよ」

「ガムじゃなくてゴミ?」

「最近は、ガムを踏むことがほとんどなくて、それならゴミを拾って環境にも良いし、そのゴミを使えば僕にも罰が与えられるしで一石二鳥だって笑って言ってたよ」


「やっぱり、マユちゃんらしいわ」


 また、私は笑ってしまいました。

 マユちゃんは、私を笑顔にさせる天才です。


「その顔。本当に可愛いんだ」


 課長は真剣な眼差しで私の顔を見ます。

 その顔にドキドキしてしまう私です。


「マユちゃんのおかげよ」

「違うよ。君が僕の前では心から嬉しそうに笑うからだよ」

「課長のバカ。私が、どれだけ傷付いたのか分かってるの?」

「うん。マユちゃんに凄く説教されたよ。年下の女の子に言われてもマユちゃんの言葉は正論だったから、何も言い返せなかったよ」

「だって、課長が悪いんですよ? 無敵のマユちゃんを怒らせるからね」

「本当にごめん」


 課長は私に頭を下げて謝ります。

 課長はマユちゃんにも謝ったんでしょうね。


 私は、二人の間に少しだけあった距離を埋めるように、課長の肩に頭を預けます。

 課長は、そんな私の頭を優しく撫でてくれました。


◇◇


「でも、私、彼とは別れようと思うんです」


 マユちゃんは、無表情で言います。


「えっ、どうして?」

「だって、彼と私は価値観が違うみたいなので」

「価値観?」

「はい。仕事と私のどっちが大事なのって言わせる(かた)って、相手への思いやりが足りないからなんです」


 マユちゃんの言いたいことは分かります。


「でも、それは不安だから言ってしまうのよね?」

「不安にさせるのは相手への思いやりが足りないからで、そんな人とは一緒にいられません。ましてや結婚なんてできません」

「マユちゃん、(いさぎよ)いのね?」

「えっ、だって、相手への思いやりが足りないってことは、相手への気持ちが冷めてきているってことですよね?」

「そうだけど、でもマユちゃんの彼は言わせる(ほう)でも言う(ほう)でもないんじゃないの?」


 私は不思議に思ってマユちゃんに訊きます。


「いいえ、彼は不安になり、遠回しに私にどっちが大事か訊いてきたんですよ。だから私は彼に言わせてしまったんです」

「そうかもね。じゃあマユちゃんが、彼への想いが冷めちゃったの?」

「まあ、そうかもしれないです。彼が浮気したのも、彼がお金を私から借りるのも、彼が私の部屋に住み着くのも許したんですけどね」


 マユちゃん。

 それは別れて正解かもです。

 だって彼はヒモ男なのではないでしょうか?


 やはり、マユちゃんは無敵ですね。


 ヒモ男も予想外の展開だと思っているでしょうね。

 だって、なんでも許してくれたマユちゃんが、ちょっとした一言で離れていくのですから。


「あっ、マユ先輩」

「何?」

「私はマユ先輩から離れませんからね」

「うん。私もマユちゃんから離れたくないわ」


 私の傍にはマユちゃんがいます。

 課長と遠距離恋愛になっても大丈夫です。

 この二つの婚約指輪とマユちゃんがいれば一年なんて、あっという間だと思います。


「あっ、マユさん。休憩中にごめんね。ちょっといいかな? さっき受け取った資料のことなんだけど」


 課長から仕事以外の、お呼びだしです。

 だって、資料なんて渡していないのですから。


 課長ったら、なんだか焦っているようです。

 私と課長は近くの会議室に二人で入り、課長が鍵をかけます。


「課長? なぜ鍵をかけるのですか?」

「マユ」

「課長、呼び捨てはダメですよ」

「いいんだよ。それに今は、そんなことよりも大事な話があるんだ」

「大事な話ですか? もしかして、また婚約破棄をするつもりですか?」

「違うんだよ。婚約破棄はしないけど近々、結婚はするよ」

「えっ」


 待ってください。

 私達の結婚は一年後になったはずです。

 課長が転勤から帰ってきてからと決めたはずでは?


「僕の転勤先は、この本社から車で三十分離れた場所なんだよ。だから遠距離恋愛なんかじゃないんだよ」

「えっ、嘘」

「マユちゃんは知っていたのかもしれないね」

「どうしてですか?」

「君から離れないって言っていたからね」


 そういえば、私にも言っていました。

 マユちゃんは、分かっていたのでしょうか?


 やっぱりマユちゃんは無敵です。


「マユ、僕と近々、結婚してくれますか?」

「はい。よろこんで」


 会議室で課長は私を抱き締めました。

 少しだけ、ここで課長の温もりを感じさせてほしいのです。


「マユ先輩!」


 会議室の外からマユちゃんがドアを叩きます。

 良いところだったのにマユちゃんが、お邪魔虫になりました。


「マユちゃん? どうしたの?」


 私は、課長から離れてドア越しにマユちゃんに訊きます。


「言うの忘れてたんです」

「何を?」

「私の大切なマユ先輩を傷付けることをした人には、口の中に虫をたくさん入れてあげますから、だからマユ先輩は、すぐに言ってくださいね」

「あっ、うん。ありがとう?」


 そしてマユちゃんは去っていきました。

 私と課長は苦笑いをしています。


「課長。マユちゃんを怒らせたら怖いですよ」

「大丈夫。僕はマユを傷付けたりしないから」


 課長は、そう言うと私の唇に触れるだけのキスをしました。

 不意打ちのキスに私の顔は真っ赤になります。

 そんな私を見て、課長は照れながら言います。


「今夜、マユの家に行ってもいいかな?」

「えっ」

「マユのカップを、先に僕の家に置いておきたいから、一つだけ持って帰ってもいいかな?」

「あっ、はい」

「マユのカップが人質だよ」

「人質?」

「人質がいるから婚約破棄はできないよ」

「絶対に、しません!」


 私は彼に抱き付きました。

 彼は、そんな私をギュッと抱き締めてくれました。


 お昼休憩が終わり、自分の席へ戻ります。


「あれ? マユ先輩から課長と同じ香りがします」

「えっ、そっ、そう?」

「課長と同じ柔軟剤でも使っているんですか?」

「えっ、そうなのかな? 課長の柔軟剤を知らないから同じかどうかは分からないわ」

「同じですよ。、、、これからは」


 マユちゃんは、ウインクをして言います。

 可愛いお顔のマユちゃんのウインクは可愛さ倍増です。


 マユちゃんが大切なことを最後に言ったようですが、柔軟剤の香りが同じになる日は、すぐそこまでやってきています。

 ですが今は、課長の残り香と温もりを感じながら幸せを噛み締めさせていただきます。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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