ドワーフと火酒
酒場は、いつもより騒がしかった。
木の床が、微かに震えている。
原因は簡単だ。
奥の卓に、ドワーフが三人座っていた。
全員、赤い顔。
全員、声がでかい。
「だからよォ! あれは俺が止めたんだ!」
「嘘つけ! 一番最初に斧振り上げたのはお前だろ!」
「まあまあまあ!」
その「まあまあ」が、一番でかい。
俺はカウンターで、見慣れない酒を前にしていた。
透明な瓶。
中身は赤黒い。
見ただけで、喉が少し熱くなる。
「それ、火酒だ」
店主が言った。
「ドワーフ用だぞ」
「……人間が飲んでいいやつですか」
「よくはない」
即答だった。
嫌な予感しかしない。
「一杯だけにしとけ」
一杯だけ。
そう思って、グラスを口に運んだ。
――熱い。
喉から胃まで、一直線に火が走る。
反射的に咳き込んだ。
「おいおい! 人間が飲むもんじゃねえぞ、それ!」
ドワーフの一人が笑った。
胸まで伸びた髭が、揺れる。
「……いえ、大丈夫です」
その時点では、本気でそう思っていた。
二口目。
視界が、少しだけ揺れた。
三口目。
言葉を選ぶのが、急に面倒になる。
「お前、変な顔してるぞ」
「元からです」
自分でも、何を言っているのか分からなかった。
ドワーフが、豪快に笑う。
「気に入った! 一緒に飲め!」
断る暇もなかった。
気づいた時には、奥の卓に引きずられていた。
火酒が、次々と注がれる。
何杯飲んだかは、覚えていない。
ただ、途中から――
判断が雑になり、
笑う基準が下がり、
同じ話に、何度も相槌を打ち、
どうでもいいことを、口にしていた。
「……前の世界じゃ、俺、こんなに喋らなかったんですよ」
「ほう?」
「仕事して、飲んで、寝て。
それだけで、人生終わる予定でした」
ドワーフたちは、黙って聞いていた。
「でもまあ……今の方が、マシかもしれません」
そこまで言ったところで、視界が暗くなった。
次に覚えているのは、床の冷たさだった。
「……やりすぎたな」
店主の声。
頭は重い。
体もだるい。
(ああ、完全に潰れたな……)
そう思いながら、目を閉じた。
――翌朝。
信じられないくらい、頭が冴えていた。
「……やっぱり、この能力だけは本物だな」
誰もいない酒場で、
俺は一人、そう呟いた。




