早仕込みの酒
集落を出たのは、朝だった。
空気が冷たく、
吐く息が白い。
スライムは、
いつもより少しだけ動きが鈍い。
「寒いの、苦手か」
声をかけると、
ぷるっと一度だけ揺れた。
道を半日ほど進むと、
空気が変わった。
風がぬるく、
土が柔らかい。
歩いていて、
靴の裏の感触が違う。
昼過ぎ、
道沿いに小さな酒屋があった。
酒場というより、
作って、そのまま出す店だ。
「やってます?」
声をかけると、
中から若い男が出てきた。
「水なら」
「酒もあれば」
「あるよ」
出てきたのは、
透明な酒だった。
麦酒ほど軽くなく、
葡萄酒ほど重くない。
一口。
……早い。
味が立つのが早く、
喉を通るのも速い。
「……勢いがありますね」
「急いでるからな」
男は、当たり前のように言った。
「この辺りは暖かい。
放っておくと、
酒が先に出来ちまう」
「それで、この味ですか」
「待たせると、荒れる。
だから、先に出す」
集落の女主人の言葉を思い出す。
――無理させると、酒が拗ねる。
「土地で、全然違うんですね」
「そりゃそうだ」
男は笑った。
「水も、空気も、
急かすからな」
スライムが、
足元で小さく揺れた。
床に落ちた一滴に、
反応している。
「……こっちは、好きか」
色が、少しだけ明るくなる。
「飲ませるのか?」
「少しだけ」
「変わった連れだな」
「俺も、そう思います」
酒を飲み干す。
嫌いじゃない。
だが、落ち着いて飲む酒じゃない。
「長居すると、
酔いが追い越すぞ」
それも、分かりやすい。
外に出ると、
日差しが強くなっていた。
「次は、もう少し
ゆっくりした酒がいいな」
独り言だった。
スライムは、
変わらず横で揺れている。
土地が変われば、
酒も変わる。
それだけは、
だいぶ分かってきた。




