スライムと麦酒
街を出てしばらく歩くと、道は緩やかな坂になった。
馬車が通るほど広くはないが、
人の足跡は多い。
放っておけば、迷うことはなさそうだ。
昼前、喉が渇いた。
道端の石に腰を下ろし、
袋から麦酒を取り出す。
この辺りの酒場で分けてもらった、
薄めのやつだ。
一口飲む。
冷たくはないが、
悪くない。
そのとき、足元で何かが動いた。
半透明の、丸い塊。
ぷるっと揺れて、
また動きを止める。
「……スライムか」
教科書的な見た目だった。
攻撃してくる様子はない。
逃げる気配もない。
ただ、じっとこちらを見ている。
試しに、
麦酒の入った袋を少し傾けた。
数滴、地面に落ちる。
スライムが、
ゆっくりと近づいてきた。
ぴと、と触れる。
次の瞬間、
色がほんのり変わった。
「……反応するんだな」
鳴き声はない。
だが、動きが少しだけ軽くなった。
もう一滴、落とす。
また、色が変わる。
「酔っては……ないか」
たぶん、違う。
ただ、
気に入っただけだろう。
「全部はやらないぞ」
誰に向けたわけでもなく言う。
スライムは、
その場で丸くなった。
満足したらしい。
俺は、残りの麦酒を飲み干す。
喉は潤った。
頭も、問題ない。
歩き出すと、
後ろで、ぷるっと音がした。
振り返る。
さっきのスライムが、
少し遅れてついてきている。
「……来るのか」
返事はない。
追い払う理由も、
特に思いつかなかった。
「勝手に付いてくる分には、
知らないからな」
言ってみる。
スライムは、
距離を保ったまま、
ついてくる。
昼を過ぎても、
それは変わらなかった。
途中の小川で水を飲ませると、
また少し色が変わった。
「酒だけじゃないんだな」
それが分かっただけでも、
収穫だ。
夕方、
道の先に小さな集落が見えた。
「今日は、あそこで休むか」
独り言だった。
スライムは、
何も言わず、
横で揺れている。
名前は、まだ要らない。
少なくとも今は、
そう思った。




