庶民感覚を取り戻そう!
ルシアン様から贈られたネックレスと、アメリアとお揃いの髪飾りを手に取ったとき、私はふと胸がちくりと痛んだ。
――こんな高価な宝石をふんだんに使った髪飾りや、一粒の小ぶりな宝石があしらわれた上品なネックレス。
普通に「しおり」のお小遣いじゃ、とても手が出ない。
(……私、すっかりお嬢様気分で浮かれぽんちになっていたわ。庶民感覚から完全にズレてる……)
反省の思いが胸に広がると、あるアイディアが浮かんだ。
それは、アメリアの家にお邪魔して、彼女の生活や価値観を知ること。友情を深めるために、互いの世界を共有すること。
私は思い切って口にした。
「アメリア……もしよければ、あなたのお宅へお邪魔させていただけないかしら?」
アメリアは目を丸くした。
「え?ヴァイオレットさまが、私の家に……ですか?」
困惑する彼女に、私はにっこりと微笑みかける。
「おじゃまになるかもしれませんが、交互の生活や価値観を共有することは、友情において大切なことだと思いますの。どうかしら?」
アメリアはしばし言葉を失い、やがて頬を赤らめて小さく笑った。
「……ヴァイオレットさまがそうおっしゃるなら。私の家なんて質素ですけれど、それでもよければ」
その返事に、胸が温かくなる。
豪華な屋敷も、煌びやかな宝石も素敵だけれど――友情は、互いの世界を知り合うことで育まれるのだと、私は改めて感じていた。
数日後のある日、私はアメリアの実家へと馬車を走らせた。 アメリアの家は下町の郊外にある小さな平屋の一軒家だった。 これは… ローゼン家に馴染んでしまった私は思わず呟いてしまった。 広さはローゼン家の物置小屋位。 でも、しおり的感覚では、平屋の一軒家で、この広さは結構な広さだ。
(庭も広いしな)
馬車を降りるとアメリアがすぐでむかえてくれた。 荷物を御者に持たせ、庭を見渡すと、家庭菜園や花壇があった。
結構広いな。
しおり的感覚で眺めた感想は これよ!これー! ファンタジーゲームに出てくる主人之の最初の家みたーい! と内心はしゃぐ私だが、あたしがあまりにもあちこち見たせいか、アメリアはしゅんとして
ガッカリしたんじゃないですか? その…ヴァイオレット様のお屋敷と違いすぎて…
と、恐縮してしまった。
そんなアメリアの手を取って
そんなことありませんわ!
私はこの家が気に入った。 田舎の祖父母の家にそっくりだからだ。
私が、目をキラキラさせて、アメリアの手を取ると彼女はびっくりした表情で、私をみつめた。
アメリアの家に泊まったその日、私は初めて庶民の食卓に座った。
木の机に並んだのは、家庭菜園で採れた野菜をふんだんに使った料理。煮物、焼き魚、素朴なスープ。
一口食べた瞬間、思わず目を見開いた。
「……おいしい! 素材の味が生きていて、こんなに心が温かくなる料理は初めてですわ!」
アメリアは照れ笑いを浮かべ
「そんなに喜んでもらえるなんて」
と頬を赤らめた。
私は感動のあまり、次の日には家庭菜園を手伝わせてもらうことにした。
土に触れ、苗を植え、水をやる。
(ああ、これよ! ファンタジーゲームの主人公が最初にやる農作業イベントみたい!)
昔、祖父に鍛えられた鍬使いを披露する私に、アメリアは驚きつつも楽しそうに笑っていた。
さらに私は、お嬢様チートを発揮した。庭の花を摘み、色合いを考えながら花瓶や棚に飾り付ける。
「まぁ……! まるで貴族の館みたい!」
とアメリアのお母さんがが目を輝かせる。
私は得意げに微笑み
「花は人の心を癒すものですわ」
と言いながら、アメリアの家を見事に華やかに彩った。
そして午後には川へ。
アメリアが「釣りなんてできますか?」と心配そうに尋ねたが、私はにっこり笑った。
「ええ、もちろんですわ」
餌のミミズを手に取ると、ためらいもなく釣り針に刺す。手馴れた動作にアメリアは目を丸くした。
「ヴァイオレット様、慣れてますね……!」
「祖父母の家でよくやっていましたの。こういうのは慣れですわ」
思わず口を滑らせた瞬間、アメリアが首を傾げた。
「祖父の家?公爵家でも釣りをなさるんですか?」
しまった――!完全に庶民感覚に戻ってしまった、と心の中で叫ぶ。
慌てて背筋を伸ばし、笑みを取り繕う。
「ほほほほ……祖父の邸宅の近くに川があって、使用人に教わりましたの」
その時、背後から低い声が響いた。
「そんなこと、僕に隠れてやってたのかい?」
振り返ると、ユリウスが腕を組み、風のように静かな眼差しでこちらを見ていた。
気づけば、後ろにはルシアン、レオン、ノエルも立っていた。
四人の視線が一斉に私へと注がれる。
ルシアンは柔らかな笑みを浮かべながらも、声には棘があった。
「ヴァイオレット、君がそんな庶民的なことを楽しんでいたなんて……僕には教えてくれなかったね」
レオンは肩をすくめ、挑発的に笑う。
「俺なら、川釣りくらい普通だ。けど、君がそれを隠してたってことは……俺にだけは知られたくなかったのか?」
ノエルは軽口を叩きながらも、目は真剣だ。
「へえ、面白いね。ヴァイオレットが釣りをするなんて。僕にも教えてくれればよかったのに。……まさか、誰か特別な人にだけ見せてたんじゃないだろうね?」
ユリウスは腕を組んだまま、風を纏うように静かに言葉を投げる。
「……軽率だな。庶民感覚を隠す必要はない。だが、誰に見せるかは選ぶべきだ」
四人の言葉が交錯し、空気が張り詰める。
互いに牽制し合いながらも、視線は私に集中している。
私は思わず頬を赤らめ、胸がキャピキャピと弾んだ。
(え、え、え……! なんでみんなそんなに詰め寄ってくるの!? まるでゲームのハーレムイベントみたい!)
庶民感覚をうっかり漏らしただけなのに、彼らの間には火花が散っていた。
風と炎、柔らかな笑みと挑発的な言葉――。
そのすべてが私を中心に渦巻き、川辺は一瞬で恋の戦場へと変わった。
川辺に漂う空気は、4人の視線が交錯するたびにピリピリと張り詰めていた。
ユリウスの冷静な言葉、ルシアンの柔らかな棘、レオンの挑発的な笑み、ノエルの軽口――。
そのすべてが私を中心に渦巻き、胸はキャピキャピと弾みながらも、焦りでいっぱいだった。
(やだ……! 私のせいでみんなが険悪になってる!どうにかしないと!)
その時、アメリアが一歩前に出て、にっこりと微笑んだ。
「みなさんも試してみませんか? 釣りって、意外と楽しいですよ」
一瞬、断られるかと思った。だが――。
「……悪くないな」ユリウスが腕を組み直し、竿を手に取る。
「庶民の遊びも、たまにはいいかもな」
レオンが肩をすくめて笑う。
「面白そうだ。僕が一番釣ってみせるよ」
ノエルが軽快に竿を構える。
「ヴァイオレットが楽しんでいるなら、僕も挑戦しよう」
ルシアンが穏やかに頷いた。
こうして、4人は次々と川へ糸を垂らした。
最初は互いに牽制し合い、
「ほら、僕の方が先に釣れた」
「いや、サイズなら俺の方が上だ」
「数で勝負だろう」
「……軽率だな、釣果は質で見るべきだ」
と、言葉の火花を散らしていた。
私はハラハラしながら見守っていたが、次第に彼らの表情が変わっていった。
竿がしなるたびに真剣な眼差しになり、魚が跳ねるたびに歓声が上がる。
競い合うはずの彼らが、いつの間にか釣りそのものに夢中になっていたのだ。
「見ろ、また釣れた!」
「くっ、逃げられた……次こそ!」
「ほら、網を持ってこい!」
「……風向きが変わった。今が好機だ」
すったもんだの末、六人の釣果は大漁となった。
川辺には魚が並び、笑い声が響く。
私は胸を撫で下ろしながら、頬を赤らめた。
(よかった……! みんな笑ってる。キャピキャピしすぎて心臓がもたないけど、これなら大丈夫!)
こうして、釣り竿を通じて火花は消え、場は和み、友情と恋の空気が入り混じる夏の川辺となった。
承知しました!ここでは「魚を持ち帰った6人がアメリアの家で庶民料理を楽しみ、ヴァイオレットの慣れた手さばきと庶民的な行動が皆の心を揺らす」場面を物語として描きますね。
川で釣った魚を抱えて、6人はアメリアの家へと戻った。
「思ったより釣れたな」「これだけあれば宴ができる」――男性陣はそれぞれ感想を述べながら、庶民の家の戸をくぐる。
そこで私は、慣れた手つきで暖炉から炭を取り出し、網を組み立てて魚を並べた。
「ヴァイオレット様……すごいです。手慣れていらっしゃるんですね」
アメリアが目を丸くして感心する。
炭火の香ばしい匂いが広がり、焼き上がった魚を串に刺して差し出すと、アメリアも男性陣も一瞬たじろいだ。
「串に刺したまま……食べるのですか?」
ルシアンが戸惑い、レオンは眉をひそめ、ユリウスは黙って観察し、ノエルは半ば冗談めかして笑う。
私は何も気にせず、ぱくりと串焼きを口に運んだ。
「こうして食べるのが一番美味しいんですのよ」
その姿に影響され、彼らも次々と真似をして食べてみる。
「……これは、驚いた。香ばしくて旨い」
ルシアンが目を見開く。
「庶民の知恵ってやつだな」
レオンが感心したように笑う。
「……悪くない」
ユリウスが短く呟く。
「うん、これは興味深い!新鮮なうちに料理するとこういう食べ方ができるなんて!」
ノエルが水晶版に串焼きの絵や、味を詳細に書き出した。
アメリアも初めての串焼きに感動し、頬を赤らめて笑った。
だが、私のあまりにも庶民的な振る舞いに、男性陣の視線が揃って鋭くなる。
「ヴァイオレット……ずいぶん慣れているね」
「公爵令嬢がこんなことを?」
「……花嫁修業、ということか?」
私は慌てて笑みを作り、苦しい言い訳を口にした。
「ええ、これは花嫁修業ですわ! 将来のために、庶民の暮らしも学んでおかねばと思いまして」
しかし、彼らの目には疑惑が浮かんでいた。
庶民的な行動を隠そうとする私の言葉に、彼らはそれぞれの思惑を胸に秘めながら、炭火の魚を味わっていた。
炭の香りと笑い声が混じり合う中、友情と恋の火花は、静かに燃え続けていた。




