対象キャラ全員の心を掌握したい!
王立魔法学園『アカデミア・グランヴェール』。 年に一度の魔術合同大会が、ついに幕を開けた。
貴族子弟と騎士候補生が混成チームを組み、 魔法と戦術を競い合うこの大会は、名誉と未来を懸けた舞台。
そして、今年の注目チームは──
第七演習班 ・ヴァイオレット・ド・ローゼン(闇魔法) ・ルシアン・ヴァルモン(氷魔法) ・レオン・クロード(炎魔法+剣) ・ノエル・アルベリッヒ(雷魔法) ・ユリウス・ローゼン(風魔法)
属性も立場も異なる五人。 だが、今はひとつの陣営として、戦う。 敵は、魔力を喰らう幻獣『グリム・ヴォイド』 通常魔法が通じず、連携と属性操作が鍵となる。
「闇で視界を遮断します。ルシアン様、氷で足止めをお願いしますわ」
「了解。氷壁、展開」
ヴァイオレットの闇が敵の目を奪い、 ルシアンの氷が足元を封じる。
「よっしゃ、燃やすぞ!炎剣、起動!」
レオンが前衛で斬り込み、 ノエルの雷が敵の神経を麻痺させる。
「雷撃、左斜線。ユリウス、風で誘導を」
「風圧、展開。ヴァイオレット、今だ」
「闇魔弾、発射――!」
五属性が交差し、敵が崩れる。 観客席がどよめく中、彼らは静かに立ち尽くす。
「……君の指示、的確だった。 以前の君なら、こんな連携はできなかったはずだ」
(きた……!氷の公爵様が、成長を認めてくれた……!)
「ありがとう、ルシアン様。あなたの氷が、私の闇を導いてくれたんですわ」
ヴァイオレットの言葉に、ルシアン・ヴァルモンはわずかに瞳を細めた。
それは、彼にしては珍しい“微笑み”に近いものだった。
氷の公爵が、誰かに心を開く瞬間――
――そんなふたりの間に割って入ってきたのはレオンだった。
「お前、やっぱり戦えるじゃん!俺、ちょっと見直したぞ!」
豪快な声とともに、レオン・クロードがガバリとヴァイオレットの肩を抱いた。
炎属性らしい距離感ゼロのスキンシップ。
その瞬間、空気が変わった。
「ふふっ……あなたの炎が頼もしかったからですわ。」
その言葉に、レオンが照れたように笑う。
「そっか。じゃあ、次も頼ってくれよな!」
照れくさそうに笑うレオンに、ヴァイオレットが頼もしそうに見上げる。
そんなふたりのやり取りを見て、3人の攻略男性の空気が凍りついた。
ルシアンは、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。
そして、再びヴァイオレットを見つめる。
その瞳は、先ほどの微笑みとは違う、冷たい光を宿していた。
その瞳は、炎の騎士に肩を抱かれて笑うヴァイオレットを、静かに見つめていた。
(俺の氷に微笑んだあの顔と、同じだ)
焦燥。
嫉妬。
そして、理解不能な“痛み”。
彼は、魔力波動の乱れに気づいていた。
氷属性の魔力は、感情に左右されにくい。
それなのに、今──
(彼女の言葉ひとつで、俺の魔力が揺れる)
その事実が、彼の心を凍らせた。
そして、同時に──溶かし始めていた。
(これはただの“全体好感度アップイベント”のはずだ。
なのに、なにを俺は彼女にがっかりしてる)
その瞬間、神楽坂蓮の声が、彼の内面を代弁するように響いた。
「……君は、誰にでもそう言うのか?」
低く、静かで、鋭い。
けれど、その声には、わずかな震えがあった。
それは、演技ではない。
“感情”が、声に滲んだ瞬間だった。
──しおりは、その声に心臓を撃ち抜かれた。
(ちょ、ちょっと待って……今のセリフ、神楽坂蓮ボイスで!?
しかも、微かに震えてた……!?)
神楽坂蓮。
氷属性キャラを演じさせたら右に出る者はいない、演技の氷帝。
冷静沈着、完璧な抑揚、そして──
感情が揺れたときの“声の震え”が、ファンの心を焼き尽くす。
(今の「誰にでもそう言うのか?」、完全に“嫉妬の氷”だった……!
語彙力、死んだ。尊死。氷属性なのに、心が燃えた)
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
スカートの裾を整え、姿勢は保つ。
「いえ。あなたの氷は、特別ですわ」
その言葉に、ルシアンは何も言わなかった。
ただ、視線を逸らし、静かに息を吐いた。
(……馬鹿げている。俺は、感情に振り回されるような人間ではない)
けれど、彼の魔力は揺れていた。
氷の波動が、彼女の言葉に反応していた。
(俺は……彼女に、影響されている)
それは、攻略対象としての“イベント”ではない。
それは、彼自身の“感情”だった。
魔術合同大会の演習が終わった後、
ヴァイオレットはレオンの炎の腕に支えられたまま、笑っていた。
──そのやりとりを、ノエル・アルベリッヒは黙って見ていた。
手には、魔力波動の記録用の水晶板。
だが、視線はそこにはなかった。
「……君の魔力波動、以前より安定している。
特に、闇の収束率が顕著に向上している」
独り言のようにいつもの癖で記録を読み上げるノエルの水晶版を横から覗き込む脳にしてヴァイオレットが、彼のすぐ横に立っていた。
「まぁ……それは、あなたの雷が支えてくれたおかげですわ」
「……そうか。なら、次回の観察では“単独干渉”ではなく、
“混合属性下での反応”も記録してみよう」
「混合属性……?」
「君が、誰と組んだときに最も魔力が安定するか。
……それを、検証する価値がある」
ノエルの声は、いつも通り静かだった。
だが、その瞳の奥に、わずかな“苛立ち”が見えた。
「……ただし、条件がある」
「条件?」
「次の演習では、レオン・クロードとは組まないこと。
彼の魔力は、君の波動に過剰な刺激を与える。
……観察に支障が出る」
(え、え、え!?それって、嫉妬!?)
「……それは、研究上の判断ですか?」
「……ああ。もちろん、そうだ」
ノエルは目を逸らさずに言った。
だが、その頬がわずかに紅潮しているのを、私は見逃さなかった。
(いやいやいや、絶対“研究”だけじゃないでしょ!?
今の言い方、完全に“俺の前で他の男に懐くな”ってやつじゃん!?)
──雷の観察者。
冷静沈着で、感情に流されないはずの彼が、
今、確かに“嫉妬”している。
(好感度、跳ねた……!)
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
スカートの裾を整え、姿勢は保つ。
「……では、次の観察、楽しみにしておりますわ。
“混合属性下の反応”、きっと面白い結果が出ますわね」
「……ああ。君が協力してくれるなら、な」
その言葉は、雷のように静かで、
けれど確かに、心に火花を散らした。
講堂の空気は、レオンとヴァイオレットの気安い笑い声で柔らかく満ちていた。肩を寄せ合うような距離感に、ユリウスの風は揺れる。
(……尚早だ。あの頃のヴァイオレットと、俺を思い出させる。だが、違う。あれは俺のものではない。嫉妬か……)
ノエルがヴァイオレットに何か囁き、彼女が楽しげに笑う。その瞬間、ユリウスは我慢できず、柱の陰から姿を現した。
「……ヴァイオレット。よくやっているな。さすがはローゼンの名を背負う者だ」
柔らかな声。優しい従兄弟の仮面を被った微笑み。だが、その視線はノエルに向けられ、風の冷たさを帯びていた。
ノエルは一瞬、目を細める。
「……従兄弟殿。褒めていただけるのは光栄ですが、彼女は私の隣にいるのですよ」
牽制に牽制を返すような言葉。空気が張り詰める。
ヴァイオレットは、胸の奥でキャピキャピと弾む感情を抑えきれなかった。
(ユリウスが褒めてくれた……! でも、ノエルも優しい……どうしよう、二人とも格好いい……!)
頬が熱を帯び、心臓が跳ねる。だが同時に、二人の間に漂う険悪さに焦りが走る。
(やめて、喧嘩しないで……! 私のせいで空気が悪くなるなんて嫌……!)
ユリウスは風を纏い、ノエルは炎のような視線を返す。
ヴァイオレットはその狭間で、嬉しさと不安を同時に抱え、笑顔を保とうと必死だった。
講堂の空気は、ユリウスとノエルの視線の交錯で張り詰めていた。
風と炎がぶつかり合うような、見えない緊張。ヴァイオレットはその空気を敏感に感じ取る。
(……やだ、空気がピリピリしてる。私のせいで険悪になるなんて嫌!)
彼女はぱっと両手を合わせて、にっこり笑った。
「う、うふふ……二人とも、ありがとう存じますわ! 私、すごく嬉しいですのよ」
その声は軽やかで、まるで鈴の音のように場を和ませる。
ユリウスの風がふっと柔らかくなり、ノエルの炎も少し落ち着いた。
二人は同時に、彼女の笑顔に心を揺らされる。
彼女の笑顔を見てユリウスは、冷静な仮面の下で、胸の奥のラブメーターが急上昇。
(……やはり、俺の風はこの笑顔を守るためにある)
ノエルは牽制の言葉を飲み込み、彼女の無邪気さに心を奪われる。
(……こんな風に笑う彼女を、俺が隣で支えたい)
そんな二人を見てしおりは、胸がキャピキャピと弾む。
(……どうしよう、二人とも優しくて格好いい……!)
張り詰めていた空気は、彼女の一言で一気に緩み、代わりに三人のラブメーターが同時に跳ね上がった。
風と炎の狭間で、彼女の笑顔が小さな奇跡を起こしたのだった。




