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主人公と友達になろう!

――そして更に1週間後

 「お嬢様、馬車の準備が整いました」


執事の声に、私は深呼吸をひとつ。

魔法学園『アカデミア・グランヴェール』。

貴族子弟と特待生が通う王国随一の名門校。

そして、乙女ゲーム『薔薇と罪の舞踏会』のメイン舞台。


「……行ってきます」


私は完璧に巻かれた銀髪を揺らしながら、馬車に乗り込んだ。

破滅フラグを回避するための第一歩。

“悪役令嬢”としてではなく、“改革令嬢”としての登校。

 頭の腫れが無くなったので、今日から投稿することになった。

 ちなみにまだ『記憶混濁中』である。

 

学園の門をくぐると、周囲の視線が一斉に集まった。


 

「ローゼン家の令嬢が戻ってきた」



 「あの冷酷なヴァイオレットが……」


 

ざわめきが、まるでゲームのイベント開始の合図みたいだった。


でも、私は知っている。

このあと、主人公アメリア・ブランシュが登場する。

そして、ヴァイオレットが彼女に嫌味を言うことで、破滅フラグが立つ。


──だから、言わない。

むしろ、逆をやる。

破滅フラグ立ててたまるか!

 

「きゃっ……!」


廊下の角で、誰かがぶつかってきた。

書類が床に散らばり、少女が慌てて頭を下げる。


「す、すみません!私、急いでいて……!」


その顔。

栗色の髪に、澄んだ青い瞳。

ゲーム主人公、アメリア・ブランシュ。


「……大丈夫?」


私はしゃがんで、彼女の書類を拾い集めた。

周囲がざわめく。


 

「ヴァイオレット様が……庶民に……?」


 

でも、気にしない。破滅フラグより、推しに好かれる方が大事。


「あなた、特待生のアメリアさんよね?初めまして。ヴァイオレット・ド・ローゼンです」


「え……あ、はい!初めまして……!」


アメリアは驚いたように目を見開いた。

ゲームでは、ここでヴィオレッタが


 「庶民が学園に来るなんて」と嫌味を言う。


 

でも私は、微笑んで言った。


 

「あなたの努力、素晴らしいと思うわ。学園での生活素晴らしいと思うわ。良かったら、仲良くしてくださらない?」


 私はありったけの愛想を込めて微笑んだ。

アメリアの瞳が、ぱっと輝いた。

 私とアメリアは握手をかわし、ひとまず『友達』になった。

よし!破滅フラグ、回避成功。


 

「よし!第一関門突破。これで、ルシアンに“嫉妬する婚約者”って思われずに済む……はず!」


 

でも、廊下の奥でそのルシアン公爵がこちらを見ていた。

氷のような瞳が、ほんの少しだけ揺れていた。


 

「……君は、本当にヴァイオレットなのか?」


その視線に、私は背筋を伸ばした。

攻略サイトなしの世界で、私は自分の言葉と行動で、推しに好かれてみせる。


 

王立魔法学園『アカデミア・グランヴェール』。

春の光が差し込む講堂には、貴族令嬢と子弟たちが整列していた。

今日の授業は「魔法礼儀演習」。

魔法を用いた舞踏の所作を学ぶ、貴族教育の華とも言える科目。


しおり――いや、ヴァイオレット・ド・ローゼンとして生きる私は、緊張で指先が冷えていた。


「……ルシアン公爵と踊るイベント。これ、ゲームだと好感度+20のやつじゃん……!」


でも、今は攻略サイトもセーブもない。

彼に嫌われたら、破滅フラグ一直線。

しかも、ここでヘマする訳にはいかない!

 緊張で心は震えるが、流石お嬢様チート炸裂!

 鏡の前のわたしは、落ち着いて背をのばし優雅に立っている。


「……でも、やるしかない。推しに好かれるために、私は踊る」


講師がペアを指名する声が響く中、私は一歩前に出た。


「公爵様。もしよろしければ、私と踊っていただけますか?」


ざわめきが広がる。

ルシアン・ヴァルモンは、誰の誘いも断ることで有名だった。

でも彼は、静かに私を見つめた。


「……君が、そう言うとは思わなかった」


そして、手を差し出した。


その瞬間、心臓が跳ねた。

推しの手。推しの声。推しの瞳。

全部が現実になって、私の前にある。


「よろしくお願いいたします」


私は令嬢らしく微笑んで、スカートの端を摘み、優雅に一礼した。

でも、内心では語彙力が崩壊していた。


(無理無理無理、尊すぎる……!)


音楽が流れ始める。

氷属性の魔法が舞踏に合わせて空気を冷やし、白い霧が足元に広がる。

ルシアンの手は、思ったよりも温かかった。


「君の動き……以前とは違うな」


「ええ。少し、変わったかもしれません」


 訝しるルシアンの質問に笑顔でかわす。


「……君は、本当にヴァイオレットなのか?」


その言葉に、私は一瞬だけ足を止めそうになった。

でも、踏み出す。

 今の彼のつぶやきが届いていない様に。

 目覚めてから感じるのだが、ルシアンは私になにか疑いの眼差しを向けている。

 そして私も感じてた。なんか……乙女ゲーのルシアンと、ここにいるルシアンは感じが違う。

 しかし、考え込む暇は無い。

 今は好感度をあげて、破滅フラグ回避だ!

この世界で、私は“しおり”として生きている。

推しに好かれるためじゃない。

推しと、選び合うために。


「今の私は、あなたに好かれたい私です」


わたしの正直な言葉にルシアンの瞳が、ほんの少しだけ揺れた。

そして、彼は微笑んだ。


「……なら、踊ろう。」


氷の花が舞う中、私たちは踊り続けた。

講堂の空気が、静かに変わっていく。

ざわめきは尊敬に変わり、視線は憧れに変わる。


私は、悪役令嬢じゃない。

推しに好かれるために、世界を変える令嬢になる


 でも……

踊った。

推しと。

ルシアン・ヴァルモン公爵と。

この手で。この距離で。この空気で。


──無理。無理無理無理。尊すぎて無理。


彼の手が、思ったより温かくて、

彼の瞳が、思ったより深くて、

彼の声が、思ったより低くて柔らかくて、

もう、全部が“神楽坂蓮”だった。


(これ、現実?本当に現実?)


ゲームの中で何度も見た“好感度+20”の舞踏イベント。

でも、画面越しじゃ分からなかった。

彼の魔力が空気を冷やして、白い霧が足元に広がるなんて。

彼の手が、私の腰に添えられる瞬間、魔力がふわっと共鳴するなんて。


(ちょっと待って、魔力ってこんなに尊いの!?)


しかも、彼が言った。


「……君は、本当にヴァイオレットなのか?」


──え、ちょっと待って。推しが“違和感”感じてる!?

それって、私の中身が“しおり”だって、気づきかけてるってこと!?

それって、運命じゃない!?

それって、選び合うフラグじゃない!?


(いや、落ち着け私。今はまだ“好感度+20”の段階。

ここで暴走したら、逆に破滅フラグだぞ)


でも、無理。

推しが目の前で、私の変化に気づいてくれてる。

しかも、手を取ってくれてる。

しかも、踊ってくれてる。

しかも、魔力が共鳴してる。


(これ、実質プロポーズでは?)


講堂の空気が冷えていく中、私の心は逆に燃え上がっていた。

氷属性の舞踏なのに、心は火属性。

好感度は+20どころか、+200くらい跳ねてる気がする。


──でも、令嬢としては優雅に微笑む。

スカートの端を摘み、優雅に一礼する。

語彙力が死んでも、姿勢は崩さない。


(だって私は、推しに好かれる令嬢になるって決めたんだから)


「ヴァイオレット様、今日もご一緒しても?」


昼休みの中庭。アメリア・ブランシュが、少し遠慮がちに声をかけてくる。

栗色の髪を揺らしながら、彼女は手作りのサンドイッチを差し出した。


「もちろん。むしろ、私の方こそお願いしたいくらいよ」


わたしは笑顔で受け取りながら、心の中でガッツポーズを決めた。

 

破滅フラグ回避どころか、友情ルートに入ってる。

ゲームでは絶対に見られなかった、アメリアとの穏やかな昼下がり。


「ヴァイオレット様って、思ってたよりずっと優しいんですね」


「……そうかしら。昔の私は、少し意地悪だったかもしれませんわね」


「でも、今のあなたは……すごく、お優しくて素敵です!他の貴族の方とは随分違いますね」


アメリアの言葉に、私はは少しだけ目を伏せた。

推しに好かれるために始めた“改革令嬢”計画。

でも、こうして誰かに“素敵”と言われるのは、やっぱり嬉しい。


「ありがとう、アメリア。……あなたにそう言ってもらえると、少し救われる気がしますわ」


「えっ、救われるって……?」


「ふふ、なんでもありませんわ。ちょっと、昔の自分に呆れていただけですの」


アメリアは首をかしげながらも、にこっと笑った。


「でも、私、今のヴァイオレット様のこと、もっと知りたいです。……もっとヴァイオレットさんの事知りたいです!いいですか?」


その言葉に、私は一瞬、言葉を失った。

ゲームでは、絶対にありえなかった展開。

アメリアは、ヴァイオレットを“敵”としてしか見なかったはずなのに。


「……それは、私の方こそお願いしたいくらいですわ」


「わあっ、やった!」


アメリアが嬉しそうに笑う。

その笑顔は、まっすぐで、あたたかくて、

私の胸の奥に、じんわりと灯をともした。


「このお菓子、すごく美味しいですね!これ、ヴァイオレット様が選んだんですか?」


「ええ。ここのパティシエは、季節の果物を使うのが得意なの。今日は苺のタルトがあると聞いて、つい」


「苺……!私、大好きなんです!」


「ふふ、よかった。じゃあ、次はあなたのおすすめも教えてくださる?」


「もちろんです!庶民の味、侮れませんよ!」


アメリアが誇らしげに胸を張る。

その姿に、しおりは思わず笑ってしまった。


(ああ、こんな時間が、ずっと続けばいいのに)


 息苦しい貴族社会の真似事も疲れる。

 だって私庶民だもん!ゲームのお嬢様チートでどうにか回避してるけど……

 

(破滅フラグを回避するために始めた“改革”だった。

でも今は、それだけじゃない。

私は、誰かに好かれるために変わったんじゃない。

誰かと、ちゃんと向き合いたいから、変わったんだ)


この世界で、私は“悪役令嬢”じゃない。

誰かをいじめる役でも、推しに嫌われるための存在でもない。


私は、藤咲しおり。

そして今は、ヴィオレッタ・ド・ローゼンとして、

この世界で“選び合う”未来を探している。


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