神楽坂蓮と『氷の薔薇』
事件の後、私はすぐに医務室へ向かった。
「アメリア!足は大丈夫?」
ベッドのカーテンからひょこっと顔を覗かせたアメリアは、私の顔を見るなり破顔した。
「ヴァイオレット様!はい!先生の回復魔法で足の方は治りました!でも……髪飾りが……」
しゅんと肩を落とす彼女の手には、私たちお揃いだった髪飾りが真っ二つに割れていた。
私はそれを見て、自分の髪飾りを外すと、躊躇なく真ん中から折った。
「ヴァイオレット様!?」
「ヴァイオレット!!」
驚くアメリアの声が響く。
と同時に男性陣の声?
その時、気づけば医務室にはレオン様、ノエル様、ユリウス様、そして私を追ってきたルシアン様まで全員集合していた。
「あら、皆様方お揃いで……」
勢いに気圧され、私の笑いはしりすぼみに消える。
――好感度とか、もう分からない。なるようになれ!破滅以外ならどんな結末も受け入れるさ!
「しかし、なぜ君まで髪飾りを?」
送り主のルシアン様が問いかける。自分の贈り物を故意に壊されていい気はしないだろう。
「こうすれば修理した時に同じような方法になりますから、また同じような髪飾りになると思いましたの」
私はにっこりと微笑んだ。
その案にアメリアを除く四人は大爆笑。
「同じように折れば、同じように治るって……!」
レオン様はお腹を抱え、ノエル様は水晶版に書き込み、あのルシアン様ですら涙を滲ませて笑っていた。
――これって全体イベントスチル発生じゃない!?と思うほどの素敵な絵面だった。
「買った以上、俺が責任を持とう」
ルシアン様は髪飾りを受け取り、「うちで修理させるよ。直ったら二人に届けよう」と引き受けてくれた。
「しかし話には聞いたが、お前マーゴット男爵令嬢を停学に追い込んだってな?やるな!」
レオン様が前のめりに賞賛し、ノエル様は「『氷の薔薇再臨』っと、ひとつの物語が書けそうですね!」とメモを取りながらはしゃいでいた。
ただ一人、冷静だったのはユリウス様。
「事の顛末は聞いたが……お前、あの後自分の足を傷つけたんだろ?叔父様になんと言ったらいいんだ?」
彼が頭を抱えた瞬間――
「――痛っ!」
突如、足首に激痛が走り、私はその場に座り込んだ。
すぐさまルシアン様が私を抱き上げ、空いているベッドに座らせる。
ドレスから足を引き出すと、彼は氷魔法で冷やし始めた。
本来なら淑女の足に触れることは許されない。だが、私たちは便宜上婚約者。許される行為ではあるが、突然のことで頬が赤らむ。
「やっぱり……」
「お、おい!公然で何をするルシアン公!」
ユリウス様が肩を掴むが、構わず彼は私の足首に氷魔法をかける。
「風の刃の傷をそのままにして、高いヒールで駆け回るから悪化したんだ!気づかなかった俺も悪いが……」
腫れ上がった足首は折れているのではと思うほどパンパンに膨れていた。
「先生を呼んでくる!」
アメリアは悲鳴を上げ、ユリウス様は医務魔法の先生を呼びに走る。
他の男性たちは礼儀に従い、私の足から視線を逸らした。
――痛いけれど、この絵面だけでご飯三倍はいけます!
ルシアン様が冷やす私の足首、その場に集う令息たち。
医務室は、事件の余韻と新たな絆の予感で満ちていた。
「先生を呼んできました!」
ユリウス様が戻ってきた瞬間、医務室の扉が開き、白衣をまとった先生が姿を現した。
「さて……どれほどの怪我か見せていただこう」
先生は私の足首を見て、眉をひそめた。
「これは……酷い腫れだ。風の刃を受けた痕跡が残っている。
こんな状態で舞踏会を続けるなど、正気の沙汰ではない!
放置すれば歩行障害になっていたかもしれないのだぞ!」
厳しい声が医務室に響き渡り、私は思わず肩をすくめた。
「……申し訳ございませんわ」
令嬢の微笑みを浮かべながらも、心の奥では冷や汗が流れていた。
先生は回復魔法を施しながら、さらに言葉を重ねる。
「君はローゼン家の令嬢だろう?その責務を忘れてはならない。
己を犠牲にしてまで誇りを守るのは愚かだ」
その言葉に、医務室の空気が重く沈む。
――だが、その沈黙を破ったのはルシアン様だった。
「先生。彼女は愚かではない」
氷の公爵の声は低く、しかし確信に満ちていた。
彼は私の足首を冷やしながら、じっと私を見つめる。
「私は理解した。舞踏会で彼女がなぜ、『氷の薔薇』と呼ばれるのかを。
彼女は普通の令嬢じゃない。友の為に怒り、仲間のために身を傷つける……彼女の奥に潜む、別の存在の意思だ」
その言葉に、心臓が跳ねる。
――しおり。私の中に潜むもう一人の私。
「ヴァイオレット嬢……いや、君の奥にいる誰か。
それが君を動かしているのだろう?」
ルシアン様の瞳は鋭く、氷の仮面の奥に熱を宿していた。
私は氷の微笑を浮かべながらも、心の中ではキャピキャピと動揺していた。
――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん!
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先生の回復魔法が足首を包み、痛みが和らいでいく。
だが、心の奥の緊張は増すばかりだった。
「……ルシアン様。あなたは何を仰っているのかしら?」
私は微笑を深め、言葉を濁す。
だが、彼の瞳は揺るがない。
「私は確信している。君はただのヴァイオレットではない。
その奥に潜む“だれか”を、私は見ている」
医務室の空気は、治療の静けさと、正体に迫る緊張で張り詰めていた。
「おいおい……何を訳の分からないことを言ってるんだ、公爵様。
ヴァイオレットはヴァイオレットだろ?」
ルシアン様の肩に軽く手を置き、レオン様が苦笑混じりに言った。
その言葉に、場の空気が少し和らぐ。
「ヴァイオレット嬢の中に別の人格が存在する?……これは面白い仮説だ」
ノエル様は目を輝かせ、水晶版に必死でメモを取り始める。
彼の筆は止まらず、まるで新しい物語の断片を記録するかのようだった。
「まぁ、ギャップは倒れてから多々見られるが……怒ったヴァイオレットはあんな感じだぞ。
むしろ、前より穏やかになったくらいだ」
ユリウス様は診療を見ながら、ポンと私の頭に手を置いた。
その手の温もりに、少しだけ心が落ち着く。
――だが。
「違う」
ルシアン様の声が低く響いた。
氷の公爵の瞳は鋭く、私を逃さない。
「君の中には、確かに別の存在がいる。
氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった。
その奥に潜む“だれか”を、私は見ている」
その言葉に、心臓が跳ねる。
――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん!
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「公爵様、そんなこと……」
私はいつものヴァイオレットになって微笑を浮かべ、言葉を濁す。
だが、ルシアン様は一歩近づき、さらに追い込む。
「君は誤魔化せると思っているのか?
だが、私は確信している。
ヴァイオレット嬢の奥に潜む“だれか”を、私は必ず引きずり出す」
医務室の空気は張り詰め、他の令息たちも息を呑んだ。
レオン様は困惑し、ノエル様は興奮し、ユリウス様は冷静に私を庇おうとする。
だが、ルシアン様の瞳は揺るがない。
氷の公爵の視線は、私の仮面を剥ぎ取ろうとするかのように鋭かった。
氷の公爵ルシアン様の瞳が、鋭く私を射抜いていた。
「君の中には、別の存在がいる。氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった」
心臓が跳ねる。
――やばい、これ完全に正体バレイベントじゃん!
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「おいおい……何を訳の分からないことを言ってるんだ、公爵様。
ヴァイオレットはヴァイオレットだろ?」
ルシアン様の肩に軽く手を置き、レオン様が苦笑混じりに言った。
その言葉に、場の空気が少し和らぐ。
「ヴァイオレット嬢の中に別の人格が存在する?……これは面白い仮説だ」
ノエル様は目を輝かせ、水晶版に必死でメモを取り始める。
彼の筆は止まらず、まるで新しい物語の断片を記録するかのようだった。
「まぁ、たしかに変わったな。昔のヴァイオレットだったら怒らせたら10倍返し。今日なんてその半分程度だ。疑うなら、少しお転婆が改善されたところか?」
ユリウス様は診療を見ながら、ポンと私の頭に手を置いた。
その手の温もりに、少しだけ心が落ち着く。
――だが。
「違う」
ルシアン様の声が低く響いた。
氷の公爵の瞳は鋭く、私を逃さない。
「君の中には、確かに別の存在がいる。
氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった。
その奥に潜む“誰か”を、私は見ている」
その言葉に、心臓が跳ねる。
――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん!
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「公爵様、そんなこと……」
私は氷の微笑を浮かべ、言葉を濁す。
だが、ルシアン様は一歩近づき、さらに追い込む。
「君は誤魔化せると思っているのか?
だが、私は確信している。
ヴァイオレット嬢の奥に潜む“君”を、私は必ず引きずり出す」
医務室の空気は張り詰め、他の令息たちも息を呑んだ。
レオン様は困惑し、ノエル様は興奮し、ユリウス様は冷静に私を庇おうとする。
だが、ルシアン様の瞳は揺るがない。
氷の公爵の視線は、私の仮面を剥ぎ取ろうとするかのように鋭かった。
医務室の空気は張り詰めていた。
ルシアン様の瞳は鋭く、私の奥に潜む“しおり”を見抜こうとする。
「君はただのヴァイオレットではない。氷の薔薇を咲かせた時、別の存在が顔を覗かせていた」
その言葉に、心臓が跳ねる。
だが、私は令嬢らしい微笑を浮かべ、ゆっくりと彼に近づいた。
医務室の空気は張り詰めていた。
ルシアン様の瞳は鋭く、私の奥に潜む“しおり”を見抜こうとする。
だが、私は氷の微笑を浮かべ、ゆっくりと彼に近づいた。
「まぁ……公爵様は随分と幻想的なことを仰いますのね。
でも、もしわたくしの中に“誰か”がいるとしたら……それは、あなたが見たい夢の中の幻影でしょう」
ルシアン様の瞳が揺れる。
私はさらに一歩踏み込み、彼の耳元に囁いた。
「それとも……公爵様が私を特別に見すぎて、幻を見てしまったのかしら?」
その瞬間、彼の肩が僅かに強張った。
氷の公爵と呼ばれる男が、私の言葉に動揺している。
「……君は、ずるい」
低い声が漏れる。
私は氷の微笑を深め、軽やかに身を引いた。
「ずるい?まぁ、女性はいつだって少しずるいものですわ。
それを見抜けない公爵様こそ、まだまだですわね」
レオン様が吹き出し、ノエル様は水晶版に「翻弄イベント発生!」と書き込み、ユリウス様は呆れたようにため息をついた。
ルシアン様はしばし黙し、瞳を細める。
「……君は私を試しているのか?」
私は氷の微笑をさらに深め、静かに答えた。
「試しているのではなく、楽しんでいるのですわ。
公爵様を翻弄するのは、思った以上に愉快ですもの」
その言葉に、氷の公爵の瞳が僅かに揺らぎ、医務室の空気は一瞬で変わった。
追い詰められるはずだった私が、逆に彼を翻弄していた。




