嫉妬イベント発生!
煌めく音楽の中、私はルシアン様と舞踏を続けていた。
氷の公爵の瞳が、確信を宿したまま私を見つめる。
その視線に胸がざわめく。
――その時。
「ヴァイオレット!」
鋭い声が響き、振り返るとレオン様が立っていた。
彼の瞳は怒りと焦りに燃えている。
「どうして……ルシアン様なんかと踊っているんだ! 君は俺と一緒にいるべきだろう!」
拳を握りしめ、悔しさを隠しきれない。
その姿は、まさに嫉妬に駆られた令息のイベントそのものだった。
私は令嬢らしく微笑を浮かべ、静かに声をかける。
「レオン様……お気持ちは嬉しいですわ。ですが、今は後夜祭。争う場ではありません」
彼は唇を噛み、視線を逸らす。
「……分かってる。でも、君がルシアン様に取られるのは耐えられない」
その言葉に胸が痛む。
私はそっと彼の手に触れ、宥めるように微笑んだ。
「レオン様。あなたは大切な方です。だからこそ、嫉妬で心を曇らせないでくださいませ」
レオン様の瞳が揺れ、やがて拳を緩めた。
「……君はずるいな。そんな風に言われたら、怒れなくなる」
ここで、レオン様はすぐ引き下がってくれた。
”しおり”的私としては大興奮イベントだったが、
今は公爵令嬢”氷の薔薇”ヴァイオレット・ド・ローゼン。
ここは、冷静に冷静に……。
次なる騒ぎはすぐに起こった。
私とルシアン様が曲が変わっても踊っていると、
不意に後ろから声がした。
「ヴァイオレット嬢、随分楽しそうじゃないか」
軽やかな声が響き、振り返るとノエル様が立っていた。
いつもの飄々とした笑みは消え、瞳には嫉妬の色が宿っている。
「僕は君の笑顔を引き出せると思っていたのに……氷の公爵に先を越されるなんてね」
肩をすくめながらも、その声には苦々しさが滲んでいた。
私は令嬢チートを発動させて、彼を宥めるように微笑を浮かべ、静かに答える。
「ノエル様……あなたのおかげで笑ったことも、たくさんありますわ。だから、そんな風に思わないでくださいませ」
ノエル様は苦笑を深め、視線を逸らす。
「……君はずるいな。そう言われると、嫉妬している自分が馬鹿みたいに思えてしまう」
私はそっと彼の手に触れ、宥めるように微笑んだ。
「ノエル様。あなたも大切な方です。だからこそ、心を曇らせないでくださいませ」
彼は小さく息を吐き、やがて肩の力を抜いた。
「……分かったよ。けれど、僕は諦めない。君の笑顔を奪い返すためにね」
――第2弾の「キャー!」である。
ノエル様も嫉妬してくれてる!
二人のそれぞれ違うタイプのイケボと、スチル発動イベントにキュン死しそう……。
しかもレオン様・ノエル様に対する心のミーハーを押さえつけて、わたしは優雅に微笑み続けた。
ダンスが休憩に入り、私はルシアン様と並んで飲み物を手にしていた。
氷の公爵と呼ばれる彼が、珍しく柔らかな口調で話しかけてくれる。
「……君は、以前よりもずっと楽しそうだな」
その言葉に、私は優雅な微笑を浮かべながらも心の奥で温かさを感じていた。
――そんな二人を割くように、会場で声が上がった。
「ヴァイオレット!」
鋭い声が響き、ユリウス様が近づいてきた。
嫉妬に燃える瞳が、私とルシアン様の距離を許さないと訴えている。
「君がルシアン様と談笑するなど……認められない!」
彼は真っ直ぐに私を見つめ、怒りを露わにした。
しかし、今度はルシアン様が真っ向から応じた。
「ユリウス。これは彼女が選んだことだ。君の嫉妬で乱すべきではない」
冷徹な声に、確かな熱が宿っていた。
二人の視線がぶつかり、火花が散るような空気が広がる。
私は氷の微笑を保ちながらも、心の中では――
――ちょ、待って!三度目の修羅場イベント!?
休憩中に飲み物を飲んで談笑してるところに、ユリウス様が嫉妬で割り込んでくるとか、攻略サイトなら「隠しイベント発生!」って赤字で出るやつ!
しかもルシアン様が真っ向からユリウス様に立ち向かうとか、そんな展開なかったはず!
「君の嫉妬で乱すべきではない」
とか、冷徹なのに熱いセリフ、破壊力ありすぎ!
いやいや、現実で言われると困るんだけど、乙女ゲー脳の私は「キャー!」って叫びたい。
これ、完全にイベントスチル入った!選択肢出るやつ!
「ルシアンを信じる」「ユリウスを宥める」「両方を笑顔で受け止める」って出るやつ!
表情は令嬢の微笑で冷静に振る舞いながらも、心の中ではキャピキャピ。
「これ、隠しルート突入じゃん!」
「ユリウスとルシアンが火花散らすとか最高!」
ルシアンの胸の内
ユリウスを真っ向から退けた後、ルシアン様はふと黙り込んだ。
氷の公爵の瞳に、疑問符が浮かぶ。
――なぜ、自分はここまで彼女を守ろうとするのか。
――なぜ、冷徹さの奥に熱が宿るのか。
「……何かが違う」
彼は心の中で呟いた。
氷の仮面の奥で、確かに揺らぎが始まっていた。
後夜祭の舞踏会。
ルシアン様とユリウス様が火花を散らし、私をめぐって視線をぶつけ合っていた。
氷の公爵の冷徹な瞳と、従兄の嫉妬に燃える瞳。
その間に立たされ、私は息を呑む。
――ここは!?どれが正解!?
脳内で好感度ゲージが浮かび上がる。
「ルシアン様を信じる」か、「ユリウス様を宥める」か、あるいは「黙ってこの場を見守る」か。
問題は、黙って見守ること。
両方にいい顔をすれば、大抵両方の好感度が下がる。
どちらかを選ばないといけない。だが、選ばれなかった相手の好感度はダダ落ちする。
「うーん……推しを推すならルシアン様だけど……従兄の嫉妬はレベル高いぞ!」
心の中でキャピキャピしながらも、必死に脳内をフル稼働させていた。
二人の間で時間は過ぎてゆく。
選択肢が消える前に決断しなければならない。
だが、心臓の鼓動が早まり、頭の中では「好感度管理」「イベント分岐」「隠しルート」の文字がぐるぐると回っていた。
わたしは、微笑を浮かべながらも、内心は完全に乙女ゲー脳。
「これ、攻略サイトなら赤字で『重要選択肢』って書かれるやつ!」
「どっち選んでもドラマチックすぎて心臓がもたない!」
私は必死に笑みを保ち、二人の視線を受け止める。
――この場面は、確かに物語の分岐点だった。




