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好感度アップイベント!後夜祭のダンスパーティー

模擬店の終了を告げる鐘が鳴り、賑やかだった教室は次第に静けさを取り戻していった。

私は執事姿のまま、深く息を吐く。


 ――長い一日だった。


「さぁ、片付けを始めましょう!」


 

クラスメイトの声に応じて、皆が一斉に動き出す。

テーブルの上のティーカップや皿を集め、濡れた絨毯の周りには雑巾を持った生徒たちが集まっていた。

先ほどの騒動を思い出し、胸が再び滾る。だが、今は冷静に場を整えることが先だ。


 

「ヴァイオレット様、こちらは私たちがやりますので!」


 

慌ててクラスメイトが駆け寄り、私の手から皿を受け取る。

 

――そうだ。公爵令嬢に片付けをさせるわけにはいかない。

 

彼らの必死な様子に、私は優雅に微笑を浮かべて一歩下がった。


その時、奥からアメリアが制服姿で現れた。

肩にはまだ氷嚢を当てていたが、笑顔を浮かべている。

「私も手伝います!」

その健気な声に、クラスメイトたちは一瞬戸惑い、すぐに温かい笑みを返した。


 

「無理はしないでくださいな、アメリア」

 

私は彼女に歩み寄り、そっと肩に手を置く。


 

「今日は十分頑張ったのですから」


アメリアは少し頬を赤らめ、けれど強がるように笑った。


 

「でも……お友達ですから、最後まで一緒にいたいんです」

 


その言葉に胸が熱くなる。

私は心の中がジーンとした。


 

 (負傷してると言うのになんという健気さ!さすが主人公!)


 わたしが更にアメリアに好感を抱いて、見つめていると、片付けの喧騒の中、ふと視線を感じて振り返ると――。

扉の外からルシアン様が静かにこちらを見守っていた。

冷たい眼差しの奥に、わずかな光が宿っているように見えた。


私は彼に向かって、ほんの少しだけ庶民的な笑みをこぼした。

――氷の公爵と氷の微笑。

その間に、確かに新しい温度が生まれ始めていた。


さーて、文化祭も終わったことだし、ここでイベント分岐点が訪れる。

 後夜祭のダンスパーティだ。

ダンスパーティーの相手は自分で選択する。

この選択で、好感度アップが稼げる。


もちろん――神楽坂蓮が演じるルシアン様と行きたいところだ。

だが、私は迷っていた。


悪役令嬢をやめ、アメリアと懇意になってから、レオン様、ノエル様、ユリウス様……彼らの色んな一面を見つけてしまった。

正直、無節操だと思う。けれど、皆に好感を抱いてしまったのだ。


ゲームなら攻略サイトを見れば答えは出るだろう。

だが、この世界には攻略サイトなんてない。

自分の目で感じ、選択してきた。


破滅エンドはないと思う。

けれど、誰かひとりの好感度アップは抑えておいた方がいいだろう。


そう考えると、やっぱりルシアン様なのだ。

……ただ、最近のルシアン様が私を見る目付きが変わったのが分かってしまった。


冷たい氷の公爵の眼差し。

それが、まるで観察するように、ヴァイオレットの奥にある“しおり”を見抜こうとしている。


その視線に、胸がざわめく。

(……見られている。仮面の奥の私を)


選択の時は近い。

氷の公爵と、悪役令嬢の仮面を脱ぎ捨てた私。

その交差点に立ちながら、私は静かに息を整えた。


後夜祭のダンスパーティーを前に、貴族たちはそれぞれ自室へ戻り、支度を始めていた。

私もその流れに乗り、アメリアの手を取って自室へと招き入れる。


テーブルの上には二つのスタンド式の鏡。

その傍らにはメイドが二人、控えていた。


「え!? ヴァイオレット様、これは一体……」

驚くアメリアに、私はニッコリと微笑んで答える。


「アメリア、あなた後夜祭を出ないつもりでしたでしょう? そうは行きませんわ! 私の友人として出てもらいます」


そう言って彼女をベッド前へと連れていく。

そこには二着のドレスが用意されていた。


ひとつは夜空のように宝石が散りばめられた、紫がかったグレーのドレス。

これは私の瞳の色に合わせて仕立てたもの。


もうひとつはピンクの薔薇のようにフリルがあしらわれ、胸元に宝石がワンポイント輝くドレス。


「え……ヴァイオレット様、これって……」

戸惑うアメリアに、私は胸を張って宣言する。


「もちろん、あなたのドレスですわ! 私の親友ですもの。欠席なんて許しませんことよ」


驚くアメリアにウィンクを返し、メイドたちに手伝わせて着替えを始める。

並んで化粧を施し、最後にルシアン様が買ってくださった色違いのお揃いの髪飾りをつけた。


鏡に映る二人の姿は、まるで姉妹のよう。

現実世界の姉妹とはそこまで仲が良いわけではないけれど、ドレスを着て、メイクをして、色違いの髪飾りをつける――そんな時間は女子会のようで楽しかった。


「ヴァイオレット様……私、本当にいいんでしょうか」

最後まで恐縮するアメリアに、私は笑顔で答える。


「思い出に残るものですし、火傷が思い出の文化祭で終わらせたくありませんの。夜会を一緒に楽しみましょう!」


半ば強引に、けれど心からの想いを込めて。

私はアメリアを夜会へと連れていった。


煌びやかなシャンデリアが輝く後夜祭の会場。

音楽が流れ、貴族たちが優雅に舞う中、私とアメリアは並んで姿を現した。


紫がかったグレーのドレスに身を包んだ私は、氷の微笑を浮かべる。

隣には、薔薇のようなピンクのドレスを纏ったアメリア。

色違いのお揃いの髪飾りが、まるで姉妹のように私たちを結んでいた。


その瞬間――。

会場の視線が一斉に私たちへと集まる。

そして、ルシアン様の瞳が驚きに揺れた。


 

「……ヴァイオレット、そして……アメリア」


 

氷の公爵と呼ばれる彼が、ほんの一瞬言葉を失う。

冷たい眼差しの奥に、確かな動揺が見えた。


アメリアは戸惑いながらも微笑みを浮かべる。

その健気な笑顔に、周囲の令息たちが次々と歩み寄ってきた。


「アメリア嬢、ぜひ一曲を!」


 

「私と踊っていただけませんか!」


 

「そのドレスに合わせて、最高のステップをお見せします!」


次々と差し伸べられる手。

庶民である彼女に、貴族の令息たちからダンスの申し込みが殺到する。


「え、えっと……!」


 

アメリアは慌てて私を見上げる。

その姿がいじらしくて、私は思わず笑みをこぼした。


 

「アメリア、楽しんで。これはあなたが輝く夜なのだから」

 


ルシアン様は黙ってその光景を見つめていた。

彼の視線は、変わったアメリアの姿に驚き、そして私の隣に立つ彼女を認めるように揺れていた。

アメリアに群がる令息たち。

着飾った彼女はまるで薔薇の花のように輝き、次々と差し伸べられる手に戸惑いながらも、健気に微笑んでいた。


その姿を見て、私は胸の奥が温かくなる。

 

――よかった。火傷の記憶を夜会の思い出に塗り替えられた。

 

満足げに彼女を見守っていると、ふと背後から気配を感じた。


 

「……ヴァイオレット」


 

低く落ち着いた声。振り返ると、ルシアン様がそこにいた。


氷の公爵と呼ばれる彼が、私の隣に歩み寄ってくる。

冷たい眼差しの奥に、わずかな揺らぎが見えた。


 

「君は……満足そうだな」


 

彼の言葉に、私は氷の微笑を浮かべて答える。


 

「ええ。アメリアが輝いているでしょう? 友人として、これ以上の喜びはありませんわ」


 

ルシアン様はしばし沈黙し、群がる令息たちを見やった。


 

「庶民の娘が、これほど注目を集めるとは……想定外だ」


 

その声には驚きと、ほんの少しの感嘆が混じっていた。


私は彼を見返し、静かに言葉を重ねる。


 

「立場や家格に縛られず、彼女は自分の輝きを持っているのです。……羨ましいくらいに」


 

ルシアン様の瞳がわずかに細められる。


 

「君も……変わったな。昔のヴァイオレットなら、友人の輝きを誇ることなどなかった」


 

その言葉に胸がざわめく。


 そこにはかつて”氷の薔薇”と呼ばれたヴァイオレットの微笑みではなく、心の奥では確かにしおりとしての温かさが滲み出ていた。


「人は変わるものですわ。……私も、彼女のおかげで」


 

ルシアン様は視線を逸らし、静かに息を吐いた。


 

「……そうか。ならば、その変化を見届けよう」


 

後夜祭の音楽が流れる中、氷の公爵と氷の微笑。

二人の間に、確かに新しい温度が生まれ始めていた。


煌びやかな音楽が流れる舞踏会の中央。

群がる令息たちの輪を抜けて、ルシアン様が私の前に立った。


「ヴァイオレット……一曲、私と踊っていただけるだろうか」

 

ルシアンからダンスに誘うことは皆無に等しい。しかし氷の公爵と呼ばれる彼が、戸惑いを隠しきれない声で差し伸べた手。

その瞳には、冷徹さの奥に揺らぐ光が宿っていた。


私は一瞬だけ息を呑み、そして氷の微笑を浮かべてその手を取った。


 

「喜んで」


音楽に合わせてステップを踏む。

ルシアン様の手は硬く、けれど次第に柔らかさを帯びていく。

彼の視線が私を追い、まるで仮面の奥にある“しおり”を見抜こうとしているようだった。


「君は……変わったな」


 

低く呟くその声には、戸惑いと惹かれゆく心が混じっていた。

私は微笑みを返す。

「人は変わるものですわ。……私も、そうありたいのです」


その瞬間、彼の瞳に確かな熱が宿った。

氷の公爵が、氷の微笑に惹かれていく――そんな予感が胸を震わせる。


ダンスフロアの端で、その光景を見つめる三人の令息。


レオンは唇を噛み、拳を握りしめていた。


 

「……やっぱり、ルシアン様には敵わないのか」


 

試すように彼女を見てきた自分の立場が、今は悔しさに変わっていた。

 

ノエルは肩をすくめ、苦笑を浮かべる。


 

「面白いと思っていたのに……本気で持っていかれるとはね」


 

軽やかな調子の奥に、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。

ユリウスは静かに目を細め、深い溜息をついた。


 

「……昔のヴァイオレットとは違う。だが、それを見抜いたのはルシアンか」


 

疑わしげに見ていた彼の眼差しが、今は認めざるを得ないものへと変わっていた。



三人の令息がそれぞれの感情を抱えながら、中央で踊る二人を見つめていた。

その視線は嫉妬と諦め、そしてほんの少しの敬意を混じえた複雑なものだった。




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