交差する母艦
ユーテリスに近づく不穏な影。
傲慢と呟く謎の軍人。
自らの意思を貫く守り人。
空に轟く雷鳴は、いったい誰がならすのか──?
「ユーテリスより魔力体確認、数二つ!」
「魔械部隊を出せ…目的以外は殺して構わん」
通信士に指示を出せばもたつきながら発艦指示を送る。
この手際…本当に帽子着きか?
「私も出よう…魔械の準備をさせておけ」
「え、艦長殿が出るのですか!?」
私が席を立つと、一人の兵士が止めに入る。
顔を見れば少し震えているのがわかる。
「なにか…問題か?」
少し睨んでみれば兵士はすぐに口を閉じる。
…しかし、恐れつつも私に口出しとはな。傲慢だな、こいつは大物になる…
「貴様、名前と階級は?」
「え…ログルスです!ログルス・ベリール少尉であります!」
「ログルス少尉…か、覚えておこう」
私は私の艦の格納庫へ向かう。
錆び付いた通路、掃除の行き届いていない空き部屋…
「掃除当番は除隊だな…」
そのような通路を進めば格納庫の扉へ着く。
……魔械へ向かう足取りがなぜか軽い、自身が思っている以上に上機嫌なのか…?
まぁ無理もない、やっとの思いで魔女どもを見つけたのだ。
「艦長殿、出撃準備完了しています」
「今すぐ出せ。私も続く」
「了解!」
私の魔械…セヴスギルィと呼ばれていたか?誰が言い出したか…実に傲慢な名だな。
「七つの…大罪か」
そう呟くと、魔械のコックピットが音をたて開く。
早く乗れと私を急かすように。
「私に似たのか…?」
コックピットに入れば高所からの景色が私を迎える。
新兵ならば泣いて喜ぶだろうが。もうなんとも思わん、見慣れた景色だ。
格納庫の大扉が轟音を立てながら開く。外から強風が入り込み、整備士たちは立っていられず吹き飛ばされている。大扉に近付き、前から魔械の体を出す。忌々しいW.I.T.C.H.の艦がこちらに魔械を近付かせている。戦闘をお望みのようだ。
「大人しく女を渡せば見逃すと言うのに…やはり魔女は傲慢だ」
『発艦よし!艦速三五、誤差修正プラス七!繰り返す、発艦よし!』
「…オーネスト・ルフェル!セヴスギルィPRIDE、出るぞ!!」
扉から空へ機体を落とすように出撃する。
機体が激しく揺れ、視界も雲で安定しない。この風圧…武器を持てばすぐに手放してしまうだろうな…どうするか。
「…ん、あれは…先に出た味方か。ちょうどいい」
機体をできる限り細くし、味方の背後に急接近する。
どうせ帽子着きではない…ただの駒だ。
「貴様、背中をもらうぞ」
『艦長殿!?それはどういう…うわッ!』
セヴスギルィの足を目の前の味方の背に乗せる。
まるでサーフィンだな…ちっ、ガタガタ動きおって…
「動くな、貴様は私の足場だ」
『艦長殿!?やめ…──
背面に備えた大型の刃を取り出し、真下のコックピットに突き立てる。
火花が散り、機体の手足が動かなくなった。これでようやく静かに動ける。
「さぁ、魔女狩りの時間だ」
『なぁ運…俺疲れてんのか?』
「残念だが、俺も疲れているようだ…」
ボロフからの接触通信が、俺を現実に引き戻す。
少し遠くに見える敵の魔械が、味方に対し攻撃をしている。
なぜだ?自ら数的有利を失くすなんて…
「ボロフ、俺が先行する。援護を」
『はぁ!?敵は五~…今は四機だけど…!仕方ねぇな』
雲を突き抜け、機体を接近させる。
見たところサーフィンをしている機体は飛行能力を持たんようだな。ならば俺の機体に分がある。
「手段は理解できんが…目的は呉束だろう!」
ブランリートの拳が敵機をとらえる。
反動がびりびりと手のひらに伝わるのがわかる。敵は少しよろめいたがすぐに反撃に移ろうとしている。
「やはり武装が少ないな…!」
敵の剣を腕で防ぐ。
火花が目の前で激しく散り、時間に似合わぬ星空を作る。
まったく…ブランリートに盾が無いこと、今は恨むぞクレナイ!
「見てくれは違うが…これはブレストの武装だな!」
『それぐらいは分かるか…ゲリラ!』
接触回線が繋がり、敵の声がコックピットに響く。
声を聞けば、副長と同じほどの歳の男のようだ。仲間を攻撃するとは…副長とは雲泥の差があるがな。
「貴様は…部隊長だな?」
『部隊長?そんなに私が下に見えるか!!』
剣を大きく振り俺を吹き飛ばす。機体と共に体が前後に振られる。
鍔迫り合いが出来ていたが…手加減されていたようだな。ボロフの援護が重要だな、合わせてくれよ…?
『運!少し右に逸れろ!』
ボロフの声に、体が先に反応する。
ドナッシュラグと敵機の直線を作るように、ブランリートが体を捻る。
その瞬間、目の前を雷鳴が駆け抜けた。
「やるじゃないか…!」
『あたぼうよ!だが…この感じは……』
煙が晴れた先に見えたのは、信じられない光景だった。
「…まさか……盾にまでするとはな」
胴体部に大きなへこみができたブレストと、その頭を掴む敵エースの姿。
味方は道具ってか……敵ながら…信じられんな。この調子なら、ボロフの援護は外せないか。
『ん…?…運!ちょっとだけ時間寄越せ!』
「時間?…分かった、信じるぞ!」
噂をすればと、通信が入る。
時間寄越せと簡単に言うが…四対一、ブランリート…行けるのか?
いや…
「行ける行けないじゃない、行くしかない!」
ユーテリスを背にとらえ、敵を睨む。
ボロフの機体は気付けば姿を消していた。雲に紛れているのか、レーダーにも映らない。逃げ…るような男じゃないか、今は信じるしかない!
「ブランリート……加速しろ!!」
魔法を流し込めば、出力が跳ね上がったのがモニターに映る。
ほぼ限界値まで上がった出力に警報音が赤い光と共にコックピットを包む。
Gが体全体にのし掛かる。まるで象にでも踏まれたような重たさが俺を襲った。
「ぐッ…!耐えてやるよ…このぐらいの負荷!!」
「…無鉄砲に突っ込んでくるか」
白銀の敵が突っ込んでくる。
やはりゲリラ…W.I.T.C.H.は戦術なんぞ知らぬ愚か者ばかりだな。
「私が行こう…他のものは消えたもう一機を追え」
『はっ…ですが艦長殿は…?』
「私があのようなゲリラに負けるとでも?」
私の声を聞けば、皆黙って行動に移る。
ふん…どうせ黙るならば口なぞ出すな、傲慢だ。汚らわしい。
「…さぁこい。魔女のゲリラ!」
『うぉぉ!!』
剣の面で進路を塞ぐように受け止める。
先程とは違い、魔力反応が大きい…
「小細工をしたか…ゲリラ!!」
『小細工…?』
「先程とは機体が変わったような衝撃…」
今思えばこの色……噂の新型か…?
対象を拐うために送ったフィフストを、二機破壊したと言っていたが……誤報ではなく事実のようだな…?
「魔力頼りの新型がぁ!!」
『叩き折ってやる!!』
白銀の新型が乱雑に剣に拳を叩き込む。
殴るタイミングでブーストを吹かせ威力を…なるほどな…
「これ以上は耐えられんな」
『ぐッ…下がった?!』
支えが無くなった剣と共に、倒れ混むように進ませる。
あの大剣…まぁいい、所詮消耗品の武器だ。
「貴様…ただのゲリラじゃないな、名前は?」
『誰が言うか…!?』
「私はオーネスト・ルフェル」
心臓の鼓動が早くなる。
私は……この白銀の新型との戦いを望んでいる!!
「さぁ!こい新型!!」
『言われなくても…行ってやるよ!』
白銀の新型が馬鹿正直に向かってくる。
その手には、私が捨てた大剣が握られていた。おそらく…この機体の武装がたった一本の大剣と思ったな!?
「セヴスギルィ…七の名は武器にある!!」
「七つの…武器!?」
『大剣が貴様の手に渡ろうとも…所詮七つのうちのひとつ!』
オーネストと名乗った敵は、二本の刀を構える。
日乃登刀……?なぜビアスガリアの機体が…
『日乃登刀…見せてやろう。このオーネストの使う流儀を…!』
「七刀流とでも言い出すか…?」
煽るような言葉とは裏腹に、操縦桿を握る力が強くなる。
指が白くなっている……そこまで恐怖しているのか…この敵に!
その時、大剣を分析した結果がモニターに赤く表示される。
[名称…プライド1…認証…無シ]
「この大剣、認証がないのか!?だったら…!」
好都合だ…これならブランリートでも扱える!!
機体認証を着けなかった自軍を恨むんだな!
「叩っ切ってやる!!」
『そうくると思っていたよ!W.I.T.C.H.!!』
大剣と二本の刀が激しく火花を散らす。
つばぜり合い…!こちらの出力が圧倒しているはずなのに!?
『所詮貴様ら魔女どもは!あのガキの力すらわかっちゃいないんだよぉ!』
「ガキ…呉束のことか!」
『あのガキの力は我等、ビアスガリアの平穏の為に利用する』
力?平穏?何をわけのわからないことを…
「…だが、呉束が目的と言うことはわかった…!!」
『ぐおっ!…また小細工か!』
敵の言葉に、血が上る。
無意識的に魔法が強くなり、警告が鳴り響く。
[警告…メーター上限…魔法停止ヲ推奨…]
「だからなんだ!!」
操縦桿を握る手がさらに白くなっているのに気付く。
そこまで俺は…
『ふっ…貴様がその大剣に与えたダメージ…利用させてもらうぞ!』
「なにを言って…?!」
二本の刀が大剣を挟み込むように受け止める。
目の前で大剣が二つに割れる。
まさか…あの時俺が殴った場所を狙って受け止めたのか!?
「くッ…!」
だが…割れても質量で叩ける!!
ブランリートの出力を合わせれば!狙うなら…腕!
「うぉぉ!!」
『へし折ってやる…心ごとなぁ!!』
二つの刃が交差し、双方の腕を貫く。
赤い文字で警告が出続ける。嫌な警報音が耳を震わせた。
[左腕部大破…警告…コレ以上ノ戦闘ハ危険デス]
「危険ですだ?下がったら死ぬんだよ!!」
『だったらおとなしく下がれ!魔女!!』
声に気付き、目の前の視界を見れば、一面に刃が映っていた。
この速度は……避けられない…?!
『パイルアンカー!!てぇ!!』
眼前に迫った刃がどこかからか飛んできた錨によって砕かれる。
それと同時に耳に入り込む幼い声があった。
「ッ!この錨は!!」
『主役は遅れてなンとやら…だゾ!』
背後から伸びる、天にも届きそうなほど長い鎖の先には、見慣れた艦があった。
主役か…確かに、今ばかりは艦長が主役だな。
息が荒くなる…魔法を意識せずに使いすぎたな……体が重い…
さぁ……敵はどう動く?これで三本…敵の言葉を信じるなら残り四本か。武器の量が不安なのか、敵は母艦との距離を縮めていく。
『運、今のパイルアンカーは応急措置と思ってほしいゾ』
「応急措置?」
おおよそ援護行動に似合わない言葉が耳に入る。
応急措置…つまりこれ以上の援護は無いということか?
『これ以上民間人に戦争行為はやらせたくないンだが』
「民間人…まさかミスリル艦長…あなたは!?」
『運さん聞こえる?!』
モニターに映し出された顔は、刹那の硬直を引き起こした。
一番あってはならない状況。守られるべき者が引き金を持ち、敵を穿ったという事実が脳を震わせる。呉束陽炎が…!?なぜそこに…いや、それよりもなぜ…
『なぜドナッシュラグの席に乗っている!!呉束陽炎!!』
機体越しに聞こえる「なぜ」という運さんの声、それには怒りと焦りが混じっているように聞こえた。
その声が耳に入りつつも、私は機体の引き金を引く。その度に、大きな倦怠感が襲ってくる。
なぜなんて…簡単だ。急に連れてこられて、ほとんど説明も無しにほっぽりだして。守ってるようになんて見えないから…それなら──
「自分で自分を守ってやる…!」
轟く雷鳴、守るべき者が矛を持つ。
ありえない戦場は、使命と自我がぶつかり合う。
守り人は震える引き金でなにを穿つのか?
次回マギア=マキナ
「震える引き金」
呉束陽炎、己が引き金の震えは止まるのか…?




