揺れる日常
いつもの平凡な日々
当たり前の平和
ずっと続くと思っていたのに
ある日突然崩れていった──
「…ふぁ~」
朝から大きなあくびをする。
鳥はさえずり、日は煌々と照りつける。この時期の日乃昇は良い感じの気温で過ごしやすいんだよね~
窓から外を見ればお父さんが手から風を出し車の水滴を払っている。何でも数百年前から人類は魔法が使えるようになったんだって。今じゃ当たり前だけど…
「フンフ~ン♪」
「陽炎!早くしないと遅刻よ!!」
鼻唄を歌いながら準備をしていると下から親が急かしてくる。
どうせ五分の道程なんだからゆっくりしても良いと思うんだけどな…
そう思いながら私は制服に着替え部屋を飛び出す。
「今日の朝ご飯なに?」
「ハムエッグよ、お皿出しなさい」
お母さんはそっけなく答える。
まぁ魔法を使っているから集中しないといけないのかな?私は火の適正があるかわからないからなんとも言えないや…
棚の扉を開きお皿を並べる。こういうときに風魔法が使えたらヒョイっと運べるのかな…
「はい、これ醤油ね」
「ありがと~…いただきま~す」
「今日はすぐ帰ってくるのよね?」
「う~ん…たぶん?」
少し急ぎ目に朝食を食べ進める。
こういう家族の会話って…なんか気まずいんだよね…なんでだろ?
「ご馳走さま!」
朝食を食べて居間のソファに向かう。
テレビをつけると朝から魔法を使った仕事の特集が流れている。私はあんまり良いとは思えないな~…
あ、そうだった。私は陽炎、呉束陽炎!普通の女子高校生だよ。一応適正魔法は雷とかだったかな?使うとお腹すくし。
「ッ~!また漏れちゃった…」
こんな風に気を抜くと、意図せず雷が出ちゃうからなんだけど…
「…ってこんな時間!?行ってきま~す!」
そんなことを考えながらテレビを見ていると気付けば遅刻ギリギリだ。
急いで行かないと遅刻してしまう!鞄持って!ハンカチポッケ入れて!スマホ持って!水筒しまって!
…笑顔もよしっ!
「行ってらっしゃい陽炎」
「行ってきます!───
「──ヤバいヤバい~!」
私は急いで廊下を走る。
頭上では鐘の音が耳に入り込んでくる。息も絶え絶えになりつつも教室の扉に手を掛けた。
「滑り込みセーッフ!」
「今日はギリギリだね陽炎ちゃん…」
「あはは~…」
チャイムの終わりと共にクラスの扉を開けると、榛名ちゃんが出迎えてくれた。
榛名ちゃんは私と仲の良い幼馴染み!何やかんやで10年以上の付き合いかも?
私のクラスの担任はめちゃくちゃ緩い、元が男子校だったのもあるかもだけど…今もHR開始のチャイムがなったのにクラスはおろか、廊下にも姿が見えない。
私としては遅刻の猶予が増えるから嬉しいんだけどね──
「──でさ~買ったの!」
「え~!超かわいい!!」
「おら~、お前ら座れ~…HR始めるぞ~」
榛名ちゃんと話していると担任の先生の声が教室に響いた。
チャイムから五分くらい経っているけど…なんで怒られないんだろうこの先生…
「あ~…なに言うんだっけ?あ、もうすぐ服装チェックあるからな~?」
先生の言葉で皆が「え~…」や「ブ~ブ~!」と文句を言う。
チェックするのは担任の先生なのだが…この先生、服装に対して「別にどうでもいいけどな」とか…髪とかに対して「なんで黒限定なんだろうな」とか…全体的に立場だからって感じで注意してる。
「──…あ、はい授業の準備してどうぞ~」
先生の一声で皆が席を立つ。
今日はなんと短縮授業!お昼を食べたら下校、早く帰れる!訳ではなく、部活をやってからなんだよね…
しかし今から始まるのはすぐに授業が終わるウイニングランだ!
「──であるからして、この式は~」
「フムフム…」
「──呉束!そっちボール行ったよ!」
「アイアイサー!…っと!」
「──9年に魔械が発明され~…呉束寝るなよ~」
「んがッ…!?」
「───あぁ~!疲れだー…」
「お疲れ様…」
授業も全て終わり、机を寄せて榛名ちゃんとお昼を食べる。
何やかんやで終わったけど…体育の後の社会科とか寝るに決まってるじゃん?
「陽炎ちゃん~スマホ充電して~…」
「また忘れたの?仕方ないな~…」
私は指先からバチバチと電流を流す。
コードを咥える方法もあるんだけど…ばっちぃし…他人のだしね。
そうそう、榛名ちゃんが私にお願いしてるのは榛名ちゃんは撃の魔法しか使えないからなんだ~。
基本的に一人一属性だけなんだけど…
「…ねぇ陽炎ちゃん、あれなに?」
「え?」
榛名ちゃんの指差す方向を見ると、遠くの方に大きな赤い光がこちらへ向いていた。
普段見えるはずの青い空は緑の巨体に遮られ、血のような赤が教室へ向け差している。
「なに…あれ…?」
「ッ!陽炎ちゃん伏せて!!」
「え?うわっ!」
榛名ちゃんが私を押し倒す。
その直後、爆発音と共にガラスや机が吹き飛んでいった。
「キャー!!」
「うわぁー!!」
クラスメイトの悲鳴が頭に響く。
まるで戦場のような轟音が辺りを包んでいった…
「…なにが…あったの?」
少しして顔を上げると教室は黒煙が天井を覆っていた。
窓があった壁が消えている。風が部屋に入り込み髪を揺らす。ガラスは床に散らばり、何人かのクラスメイトが倒れているのが嫌でも視界に入り込んだ。
「陽炎ちゃん!」
「…榛名ちゃん?」
声のする方を見ると頭から血を流した榛名ちゃんが、廊下からこちらへ手を伸ばしていた。
外に視線を向けると先程の赤い光がこちらへ近づいてきていた。
恐怖で体が動かない…でも逃げなきゃ…!!
「急がなきゃ…?!」
逃げようと足に力を入れるとガクッと全身が床へ近づく。
視線を下げれば赤い水溜まりができていた。
先程までなかった痛みが全身に走る。赤い、熱い、痛い!
スカートを捲り、傷を探す。少し足をなぞれば簡単に分かった。
大きなガラス片が突き刺さっている。これじゃ足は使い物にならない…なら這ってでも行くしかない。
そう思い、私は震える手で地面を這いつくばって扉へ向かう。
「陽炎ちゃん!!」
「は…はるなちゃん!」
扉の近くを見るとまだ榛名ちゃんがいた。
早く行かなきゃ!でも…体に力が入らない…このままじゃ榛名ちゃんも…!
でも悩んでる暇はない。この瞬間もあの光はこっちへ近づいてきてる…
「榛名ちゃんは先行って!!後で追い付くから!」
「え…でも陽炎ちゃんは!?」
「いいから!!」
私が大きな声で言う。
しばしの葛藤の後、榛名ちゃんは逃げてくれた。
あぁ…たぶんもう会えないかな。お母さんのご飯……もっと食べたかったな──
私は死を覚悟して思い出に浸る。
もうだめかと思った瞬間、大きな衝突音と共に緑の巨体が視界から消えた。
一瞬、白い何かが突進しているように見えたけど…そんなこと言ってる場合じゃない!今は逃げないと!!
「ッ…!えっと…裏門はあっちだ…」
片足を引きずりながら廊下に出る。
教室が三階、いつもは綺麗な景色が見れていいなって思ってたけど、今はスゴい妬ましい。
「うわっ!…また爆発」
一つの部屋を過ぎるごとに爆発が起きる。
焦げ臭い匂いと誰かの悲鳴、そして大きな揺れが私に恐怖を覚えさせる。
何度も諦めたくなる、こんなに頑張っても助からないんじゃって思う、けど進まなきゃいけない。諦めたら死ぬよりひどいことになる。
私は何度も前へ進んだ。
「──後…ちょっとで…外だ…!」
あれから5分くらい、一人で砂煙が舞う廊下を進む。
外はあれから何度も大きな音が響いている。まるでいつもの日乃昇じゃないみたいな音…
さっきまでの明るいお昼は影もなくなった…耳を凝らせば悲鳴も聞こえてくる…日常が…壊れる音。
「陽炎ちゃん!?」
「ごめん…肩…かして…?」
「うん!」
裏門から外に出ると榛名ちゃんが肩を貸してくれた。
校舎を挟んだ向こうではまだ轟音が響いている。
「一体…何が起きてるの!?」
そう叫ぶと向こう側から白い巨人がこちらへ飛んでくる。
「あれって…魔械!?」
榛名ちゃんが叫ぶ。
魔械とやらは私たちの頭上を、弧を描くように進んでいく。そうして少し離れた広場に大きな砂ぼこりを作り上げた。
あの白い方…さっき緑の方と戦ってた…もしかして味方なのかも!
「榛名ちゃん!あっち行こう!」
「え?行くってどこに!?」
「決まってるでしょ!あの白い巨人が落ちた方向に行くの!」
榛名ちゃんの肩を借りつつ、白い巨人の方へ向かった──
──各部間接二ダメージヲ確認…】
「それがどうした…早く動け!」
明かりが消えていく。
コックピットで一人、画面に表示される声と会話する。
このままだと任務が…そう思い一か八か、魔械に魔法を流し込む。
【…】
【……】
【………】
しかし無情にも、魔械が動く気配は微塵も感じられない。
どうやら落下の衝撃でバッテリーがイカれたようだ…雷魔法が使えればどうにかなるかもだが…俺の適正は火属性。火力発電ならば話は別だったな…
『──から!きっと味方よ!』
『でも敵だったら…?』
『その時はその時よ!』
半ば諦めかけた頃、集音機器から二人の女の声が聞こえる。
軍人としてははっきり言って最低な行為だが…ここは彼女たち市民の手を借りるしかない。
そう思い通信の設定を拡張機に変更し声をかける。
「そこの二人、この声が聞こえているな!?単刀直入に聞く雷属性は使えるか!?」
『雷属性…確か陽炎ちゃん使えたよね?』
『うん…私が使えるわ!それがどうしたの!』
使えると言う声に安堵する。
今は利用するようで悪いが、ここはその力を使わせてもらおう。
「この魔械の指先に魔法を撃て!理由は後だ!」
『え…わ、分かったわ!…ここね!』
彼女の声の後、電流が機体全体を巡っていく。
そしてコックピットは明るさを取り戻していく。
【電力67%……型式番号H-108起動シマス】
「緊急時ならば及第点だ…彼女には後で勲章でも送らなくてはな…!」
システム音と共に、正面には外の景色が映し出される。
そしてその中央には先程の緑の魔械が映っていた。
「助かった、後は俺に任せて避難しろ!」
『え?でもさっきやられちゃったじゃん!』
『陽炎ちゃん!あの人軍人だよ!言うこと聞こう!?』
「これは軍事命令だ!市民は従ってもらう!」
少し怒鳴るように言うと、二人は魔械から離れていった。
しかし今の一瞬でこのパーセンテージ…まさかあの娘が任務の…いや、今は目の前の敵だ!
「数は二機…いつの間に増えたんだか…」
[─び!──こび!聞こえルカ?運!]
「艦長…こちら杏乃運、敵魔械と接敵しました…これより戦闘を開始します!」
[こっちも見えタゾ!グライド国の擊魔械[フィフスト]と斬魔械[サイベル]ダナ。火器の使用を許可すルゾ]
その言葉を聞き、俺は手のひらに魔力を込める。
それに答えるように、魔械の出力はどんどんと上がっていく。しかし敵も黙ってみている訳じゃない。
「やはり殴ってくるか…!」
大きな衝撃が魔械越しに伝わる。
赤い火花を散らしながら。
何度も殴ってくる。
ならば…反撃と行こうか!
「脚部ブースター点火!」
【…脚部ブースター起動準備…完了シマシタ】
次の瞬間、一筋の彗星が走る。
目の前のフィフストの上半身が宙に舞った。
その場に残された下半身は重力に従い、地面に倒れ伏す。
「一機撃破、腕部ブースター起動準備…」
【…腕部ブースター起動準備…開始シマス】
白い機体の腕はじわじわと、過負荷で赤く染まっていく。
それに恐れを覚えたのか、サイベルはこちらに背を向け逃げていく。だがここで逃がすほど戦場は甘くない…
【…腕部ブースター起動準備…完了シマシタ】
「ぶっ飛べ…!」
──二度目の白い彗星が目の前を走った。
それはきっと…誰が見てもそう言う。
暗くなってきたはずなのに明るくなった。
そう思っていたら、緑の魔械に大きな穴が空いていた。
それを認識すれば、緑の魔械は轟音と赤い光を出し消え去った。
「…やっつけちゃったの?」
「多分そうだよ」
榛名ちゃんと二人で呆然とする。
確かに緑の魔械はいなくなった。
だけど…
さっきまでいた学校は…
笑っていたクラスメイトは…
もう、思い出になった。
「…さっきの白い魔械、近付いてくるよ」
「敵…なのかな」
白い魔械は目の前でこちらを覗くように屈んだ。
周りの大人もどよめいている。
皆が警戒していると胸元辺りから白い煙が吹き出す。
「陽炎ちゃんは下がって」
「う、うん」
榛名ちゃんが庇うように私の前に出た。
煙の中には一つの人影が見える。
同年代…もしくは少し若いくらいの背丈だ。
「…お前が呉束陽炎だな?」
長い静寂、それを切り裂いたのは魔械の中から出てきた人だ。
出てきた人は私の名前を呼ぶ。重々しい声。体が震える。
なぜ知っているのだろう?
なぜ助けてくれたのだろう?
疑問は止まることなく、私に頭を支配する。
「…確かにこの子は呉束陽炎です、何が目的ですか?」
榛名ちゃんが強気に質問する。
「俺は杏乃運少佐だ。単刀直入に言おう呉束陽炎。俺に同行してもらう」
彼の言葉は、今までの疑問をすべて白紙に変えた
前書きを漫画の裏表紙見たいにしてみました
多分以降の作品もこれです




