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プロローグ  ローエン23才 修理工房店員


「よし、完成だ」


最後の一筆を確認し、ぼくは息を吐いた。

絵の中のりんごはつやつやと赤く、見るからに甘酸っぱく瑞々しい。


「うん、我ながらよく描けた!」


自画自賛は惜しまない。

そりゃあ、ホントは誰かに褒めてもらいたいけど、趣味レベルじゃね。

写真機が発明される前なら、肖像画が掛ければ食べていけたらしいけど、今は厳しい。


ぼくはモデルになってくれたりんごをシャツで拭いて、齧った。

しなびてちょっと柔らかくなっている。

酸味が強い。

パイやジャムにする種類の小さいりんごだ。


小さくてすっぱいりんごを食べ、汲み置きの水で歯を磨く。

宿泊客の気配がないのを確かめ、屋根裏部屋から降りる。

格安で広い部屋を使わせてもらっているのだ、出勤前に水汲みぐらい手伝わないとね。




「おはよう!水がめはいっぱいにしてあるよ!」

「おはよう、ローエン。いつもありがとうね。朝ごはんは?」

「ごめん、もう行かないと。晩御飯楽しみ!」


おかみさんに声をかけて、裏から出る。

夏の朝の日差しはもう高い。

トンボがスイスイと泳ぐようにぼくを追い越していった。


仕事はいろんな道具の修理工房の店員。

趣味は絵を描くこと。

夢は『ほどほどに働いて、好きな絵を描く』だ。

ラッキーなことにほぼかなっている。

もちろん、贅沢を言えばきりはないけど。



「おはよう!モス爺!」


「おはよう、ローエン。走ってきたのか?こっちはいいから、水を飲め」


工房の親方はモス爺。

雇い主で、なによりぼくの絵のファンだ!


家を出てもう八回目の夏がくる。

ぼくは二十三歳になっていた。


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