月下の邂逅
「セリス……?」
四季は、その名を自分が呼んだことに戸惑っていた。
口にした瞬間、胸の奥がふるえるような感覚が走る。
「シキ……ようやく会えた……」
セリスは今にも涙をこぼしそうな顔で、優しく微笑んだ。
「君は、一体……」
四季が言葉を続けようとしたとき――
「セリス! 貴様、ずっと姿を見せていなかったが……今さら何の用だ!」
リミナが怒号をあげ、杖を構える。
セリスは静かにリミナを見つめ、凛とした声で言う。
「あなたには関係のないことよ。――申し訳ないけれど、ここからは退いてもらうわ」
そう言うと、セリスは左手に持っていた杖をすっとリミナに向けた。
一瞬、空気が張りつめる。
リミナは唇を歪め、舌打ちするように言った。
「お前がここに現れるとは……想定外だ。クロノ様に報告せねばな」
そう言ってリミナは、手を伸ばし、宙に漆黒のゲートを出現させる。
「……命拾いしたな、元英雄よ」
不気味に笑うと、闇の中へと姿を消した。
――静寂。
四季は荒く息を吐きながら、セリスに向き直る。
「どういうことなんだよ……! なんなんだよ、これ全部!」
セリスに詰め寄る。
「お前、知ってるんだろ!? 俺のことも、優馬のことも! 夢で聞こえてた声……お前だったんだろ!?」
怒りと混乱をぶつける四季。
セリスは一切怒らず、その瞳でじっと四季を見つめていた。
まるで、すべてを受け止めるように。
「……答えてくれよ……」
力なく膝をつく四季。
そんな四季の横に、セリスがそっと膝をついて座る。
「シキ……今は、すべてを語ることはできない。けれど、信じて。私はあなたの敵ではない。そして、この世界にあなたを呼んだのは……私よ」
セリスの声は、悲しみと覚悟がにじんでいた。
四季は顔を伏せたまま、ぽつりと呟く。
「何が起こってるんだよ……」
少しずつ落ち着きを取り戻すその声に、セリスが静かに語りかける。
「あなたは、元々この世界の人間……そして、私の大切な仲間だったの」
「仲間……?」
顔を上げる四季。その表情に、微かに光が戻り始める。
「ええ。この世界は、かつて“クロノ”によって滅びかけたわ。私たちは、その脅威に立ち向かった六人の創造者だった」
「クロノ……」
その名前を聞いた瞬間、四季の脳内にノイズのような記憶が溢れ出す。
――白いフードを被った自分。
――隣に立つ五人の仲間。
――眼前に立ちはだかる、闇に染まった男。
――その背後に控える、異形の幹部たち。
「ッ……!?」
四季は頭を押さえて、その場にうずくまる。
「今の……何だったんだ……?」
セリスが静かに言う。
「……やっぱり、記憶がないのね」
四季はうなだれながらも、まっすぐにセリスを見つめ返す。
「教えてくれ。俺は……一体、誰なんだ? 優馬は、どこにいるんだ……?」
セリスは目を伏せ、しばし沈黙する。
やがて静かに立ち上がり、夜空を仰ぎ見る。
窓の外では、優しい月光が森を照らしていた。
「……私が知っている限りのことを、すべて話すわ」
四季は黙って頷いた。
やがて物語の“核心”が、少しずつ紐解かれていく――