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夕暮れに降りる守り手

四季はうずくまったまま、ただじっとその場にいた。


「……俺は、これからどうすればいい……優馬……」


目を閉じても、現実は変わらない。

思考がまとまらず、時間だけが過ぎていく。


ふと、静けさの中で何かが引っかかった。

差し込む光が、部屋の床をオレンジに染めていた。


夕暮れ。


その色だけは、現世と変わらない。

茜色に染まる空が、窓の外に広がっていた。


「柚希……心配してるんだろうな……」


自然と、妹の名前が口からこぼれた。


心が揺れかけたその時――


――ガシャーンッ!


突然、ガラスが砕け散るような音がリビングから響いた。


四季は顔を上げ、反射的に立ち上がる。


(今の音……誰か、いる!?)


リビングへ向かって走り込んだ先。

そこに――異形の男が立っていた。


黒い外套。長い黒髪。肌は土気色で、全身から異様な気配を放っている。


「やはり、貴様……戻っていたか」


その目には、疑念ではなく、明確な“敵意”と“殺意”があった。


「お前は……誰だ……?」


四季の声は、知らず震えていた。


男は鼻で笑い、名を告げる。


「我が名はリミナ。クロノ様に仕える、五刻の律者の一人……」


「五刻の、律者……?」


聞き覚えのない言葉。けれど、どこか馴染み深く感じてしまう自分がいた。


リミナは四季の反応をじっと見つめた後、冷たく吐き捨てる。


「やはり……記憶は戻っていないか。だが、貴様に構っている暇はない」


リミナの掌に、漆黒の炎が灯る。


見たことのない、禍々しい炎。


本能が告げる――これは、死の予兆だ。


「悪いが……ここは燃やさせてもらう」


「……ろ」


「ん?」


「やめろ!」


四季はリミナに向かって、叫びながら飛び出した。


「愚か者が」


黒いオーラが一閃。

四季の身体は宙を舞い、部屋の隅にある食器棚に叩きつけられる。


「ぐっ……はっ……」


床に崩れ落ちる。手も、足も、思うように動かない。


「さらばだ……英雄よ」


リミナが手を上げる。


漆黒の炎が、うねるように膨れ上がり、四季に向かって放たれた――


天井を突き破るようにして、天から水が降り注いだ。


轟音と共に生まれた水の奔流は、黒い炎を包み込んだ。

焼き尽くすはずだった漆黒の力は、激しく蒸気をあげて消え去っていく。


「なっ……!」


リミナが驚き、目を見開く。


四季の視線も、自然と天へと向かう。


そこにいた。


空を割って降りてくる、一人の女性の姿。


風に舞うような白銀の髪。

空色の瞳が、この世界のすべてを見透かしているかのように澄んでいた。


ゆっくりと――まるで羽根のように軽やかに――

彼女は水の柱の中を降下してきた。


足が床に着くと同時に、水はふわりと消え、静寂が戻る。


リミナが険しい声で叫ぶ。


「やはり、貴様か……セリス!」


それでも彼女――セリスは、何も答えなかった。

ただ静かに、優しく微笑む。


その姿はまるで、神話に出てくる水の女神のようだった。


(……知ってる。この人……)


四季の心に、言葉にできない感覚が芽生える。


懐かしさ、安心感、そして――

ずっと忘れていた、温かい記憶のようなものが胸を満たしていく。


気づけば、口が動いていた。


「……セリス……?」


その名を呼んだ瞬間、セリスは四季の方をゆっくりと振り返った。


その瞳は、どこまでも優しく。

それでいて、何か大きな哀しみを抱えているように揺れていた――

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