光の先へ
一人、闇の中を歩き出す四季。
足音だけが、虚空に響く。
己に対する疑心。
優馬を探す覚悟。
この世界に呼ばれた理由への戸惑い。
さまざまな感情が、胸の奥で渦巻いていた。
(この先には、一体何があるんだ……)
その時だった。
上空から――眩い光が差し込む。
あまりの明るさに、思わず足を止める。
だが、その光は温かく、どこか懐かしい。
導かれるように、四季はゆっくりとその光へ足を向けた。
―――
光を抜けた先。
目を開けると、そこはまるで絵本の中のような風景だった。
濃い緑の森と、穏やかに揺れる湖。
空は透き通るような青さで、鳥の鳴き声がどこか遠くで聞こえる。
「この湖……どこかで……」
その瞬間、四季の中に――記憶の断片が走った。
「っ……!」
水辺で笑う自分。そして隣には、顔の霞んだ女性。
「シキ……あなたとなら……」
誰なのかは思い出せない。けれど、確かに笑い合っていた。
その温かさだけは、記憶が教えてくれる。
「……あれは、俺の記憶……?」
呟きながらも、まだ答えは出ない。
空を見上げ、ひとつ息を吐く。
「……とにかく。優馬を探そう」
四季は再び歩き出した。
―――
すると、森の中に、場違いなほど大きな屋敷が見えてきた。
重厚な石造りの壁、ツタが絡まる時計塔。
周囲の自然とは明らかに調和していない。
「……あれは?」
慎重に近づいてみるが、人の気配はない。
家の周囲を一周してみても、誰の姿も見当たらない。
四季は意を決して、扉の前に立つ。
(今の自分にできるのは、前に進むことだけだ)
ノックしようと手を上げたその瞬間――
「……!」
ギィィィィ――
重くきしむ音を立てて、扉が勝手に開いた。
「……え?」
思わず息を呑む。
「……すいませーん?」
誰も応えない。
もう一度、少し声を張って呼びかける。
「すいませーん!」
それでも、返事はなかった。
沈黙が、屋敷の奥から染み出すように広がっている。
――怖気づくな。前に進め。
自分に言い聞かせながら、四季はゆっくりと屋敷の中へと足を踏み入れた。