光なき目覚め
――何も見えない。
意識を取り戻した瞬間、四季は真っ暗な空間に立っていた。
感覚はある。自分の身体も、足元も確かに感じられる。だが、どこを見ても漆黒の闇が広がっている。
「……優馬?」
思わず呼びかける。だが、返事はない。
「優馬! どこだ!!」
再び、今度は大声で叫ぶ。
それでも返答はない。ただ、四季の声が闇に吸い込まれるように、虚しく消えていくだけだった。
「……っ」
焦りと不安が胸を締めつける。確かに一緒に闇に触れたはずだ。あの時、優馬は隣にいた。それなのに、今はどこにもいない。
その時だった。
――「シキ……」
声が、響いた。
女の声だった。優しく、どこか哀しげで、それでいて懐かしさを含んだ声音。
「誰だ……!? どこにいる!!」
四季は声のする方向に顔を向けるが、相変わらず何も見えない。姿はない。ただ、声だけが確かにそこにあった。
――「ごめんね……本当に、ごめんなさい……」
「なぜ謝る!? 優馬はどこだ! あいつに何をした!!」
――「私は……あなたを、この世界に呼ばなければならなかったの。……それが、あなたの役目だから」
「意味がわからない……俺はただの高校生だ。こっちの世界って、どういうことだよ……」
――「……思い出せないのね。今は、それでいい。けれど――」
その瞬間、四季の頭に激しいノイズが走った。
「……っ!?」
頭を抱える。視界が一瞬白く染まり、次の瞬間、断片的な映像が流れ込んでくる。
――大地に立ち、何かを創っている自分。
――仲間たちと語り合い、空を見上げる。
――その手のひらに、輝く何かを宿している。
(なんだ……これは……)
現実感が薄れ、脳が軋むような感覚に襲われる。
「……これ、俺……なのか?」
視線を上げても、やはり闇しか見えない。
けれど、その漆黒の世界の中で、かすかに小さな光が瞬いた。
――「あなたは、この世界の人間。ずっと前から……」
「……だったら、なぜ今なんだ。なぜ俺を呼んだ……?」
――「……ごめん。今は、それだけしか言えないの」
その言葉を最後に、声はふっと消えた。
四季は闇の中に取り残される。
言葉の意味はわからなかった。
だが、何か大きなものが動き出した感覚だけが、確かにあった。
やがて、闇の中にぼんやりと扉のような光が浮かび上がる。
四季はゆっくりと足を踏み出す。
――ここはどこなのか。
――何が自分に求められているのか。
まだ答えはない。
けれど、心にひとつだけ確かなものがあった。
優馬を、探さなくてはならない。
闇の奥に向かって、四季は静かに歩き出した。