夢への誘い
いつもなら優馬と一緒に帰るはずだったが、その日は予定があるらしく、四季は一人で校門を出た。
久々に一人で歩く帰り道。
静かに降る雨の音が、妙に耳に残る。
折りたたみ傘をさして、ゆっくりと歩く四季。
ふと、昼間の屋上での優馬との会話が蘇る。
(……夢。あれは一体、何だったんだろう)
その時――
「……キ。シキ……まって……て……」
頭の奥で、何かが響いた。
ノイズ混じりの呼びかけ。けれど、はっきりと自分の名前を呼ぶ声だった。
「っ……!」
驚きに手元が狂い、傘を落としてしまう。
通りは騒がしいはずなのに、なぜかその声だけが鮮明だった。
誰も、呼んでなんかいない。
それでも、確かに聞こえた。
空を見上げると、灰色の雲から雨が優しく降り続けていた。
⸻
玄関を開けた瞬間、柚希の声が飛んできた。
「お兄ちゃん!? なにそのびしょ濡れ! 傘は!? 風邪引くよ!」
返事が遅れた四季を見て、柚希は慌ててタオルを取りに走っていった。
(……今の、何だったんだ)
頭の中には、あの声が残っている。
⸻
夕食後、ぼんやりとベッドに横たわる。
考えたくないのに、思考はあの声へと引き戻されてしまう。
(……あの声。懐かしいような、誰かを待たせていたような)
目を閉じた瞬間――
また、夢が始まる。
水辺。霧のような空間。霞む景色のなかで、誰かと話している。
何かを伝えようとしているのに、言葉が霧のようにこぼれていく。
――“待ってる”
その言葉だけが、耳に残った。
⸻
翌朝。目覚ましより少し早く目を覚ました四季。
「……あれ、もう朝か」
普段より頭が冴えている気がする。
ドアの外から柚希のノック。
「お兄ちゃん、起きてるの?……って、起きてる!? どうしたの!?」
「……おはよう。なんか、自然と起きた」
「へ、へぇ……そっか。じゃあ、下で待ってるね」
いつもと違う四季の様子に、柚希は少し驚いたように階段を下りていく。
⸻
並んで歩く二人。
空は曇っているが、雨はまだ降っていない。
「お兄ちゃん……最近ちょっと変だよ? 考えごと多いっていうか」
「そうかな。……大丈夫だよ」
「そ? ……まぁ、無理しないでね。私がついてるし」
言ったあと、柚希はふいに顔を背ける。
「……べ、別に心配してるとかじゃないからね」
「はいはい。ありがと」
笑いながら歩いていると、また柚希の友達が前方に見え、彼女は「またあとでね」と言って走っていく。
その後優馬に声を掛けられる。
「四季ー」
「おはよ」
二人は肩を並べて歩き始める。
他愛の無い話をしながら。
学校に着き、クラスに向かう2人。
クラスに向かう廊下の途中で
優馬が前を向きながら
「四季、なんかあったか?」
と言う。
四季は優馬を見るがすぐ前を向いて
「…放課後話すよ」
「了解!放課後な!」
言葉を交わし、先に教室に入る優馬
別のグループの輪に入る
四季は足を止めて決意する。
信じてもらわなくても、話す。
優馬との関係を失いたくないから。