Coffee break 今何飲んでるの?
――東風の場合――
「ねえねえ」
「どうしたの?」
「覚えてる?」
「もちろん」
正直、未来人なんて実感わかないけど、未来人なんだ。
じゃあ、〇〇君は、過去の人?
現在の人?
私が誰かわからないと思うから、説明します。
私は、東風葵。
私には、双子の姉妹がいて、その子は茜ちゃん。
でも、親が変わってしまったから、姓は違う。
確か、さ……あれ?なんだっけ?
忘れちゃった。
私には、舌を出す癖があって、笑うのが好きなんです。
笑う時、いつも唇を噛んだような口をして、舌をぺろりと出すんです。
かわいいね。って言われたら、〇〇君に、同じくらいかっこいいって言いたい。
好きって言われたら、〇〇君に同じくらい好きって言いたい。
「〇〇君ブラック飲めるの?」
「元々は、フラペチーノが好きだったんだ」
「フラペチーノおいしいよね」
「僕もそう思うよ。せっかくスタバに来たんだしさ、何か頼みなよ。奢るからさ」
「じゃあ、私がおごる」
「悪いよ。聞きたかったんだけど、店員やってたって本当なの?」
「本当だよ。この店じゃないけどね」
東風はいつも元気です。
めちゃくちゃ元気です。
それに加えて、超ポジティブです。
「なあ、東風別れないか?」
「ん?」
勘違いをしていました。〇〇君は、東風のコーヒーを運んでくれて、席を一緒にしたくないんだと思いました。
東風は、意味がわかりませんでした。
自分の席で待っても、〇〇君は、来ませんでした。
東風は、音楽が好きなので、〇〇君と音楽を共有したいと思っていました。
残念ながら、その想いは、伝わりませんでした。
東風は、一人寂しく帰りました。
東風はモテないので、ナンパもされません。
終電でも安心して帰れます。
〇〇君のことを考えては、告白の練習をします。
コーヒーは苦いです。
東風の気分もほろ苦いです。
これは、恋のメイラード反応なんです。
東風は、いつもそうなんです。
振られるたびに香ばしくなります。
ある時は、パンみたいに。
ある時は、ハンバーグみたいに。
そして、今は、コーヒーの焙煎みたいに。
香ばしくなります。
東風は、いつだって、〇〇君のことを考えています。
コーヒーが一瞬の苦味なら、失恋の味は、なぜ、一瞬じゃないのでしょう。
東風は、いつも不思議に思います。
辛い思いを引き摺りたくありません。
嗚呼、神様、私の恋に砂糖を加えてください。
マイルドなミルクも加えてください。
贅沢は言いません。
角砂糖1個と30ccのミルクをお願いします。
コーヒーの色が変わるくらいで構いません。
そうすれば、私の青い恋も紅くなるかな?
ブラックのコーヒーが飲めるようになりたい
東風より




