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Forever apart いつから自分について考えてた?




 まれに、自分について考えることがあるの。


 彼は、私を求めなかった。


 一緒に寝ても、体を触ってはこなかった。


 男性経験は豊富だと思うけれど、彼は最高だった。


 本当にいい男だったわ。


 そんな時、なんで私なんだろうと、考えることがあるのよね。


 私じゃなくてもいいんじゃない?


 女の子なんて、いっぱいいるんだから、他の子でもいいでしょ?


 と、彼に言ったわ。


 すると……


 彼は言ったわ。


「僕は、君のことを知らないけれど、君の声を聞いていると心が落ち着くんだ」


 もちろん、嬉しかったわ。


 私は、彼に体を預けたわ。


 彼は何もしなかったけれど、彼も、私に体を預けたわ。


 人間って、進化していないじゃない?


 だから、欲は必ず存在するの。


 発散しないと爆発するし。


 いつかね、欲がなくなるの。


 何もしなくなる。


 呆然と冷蔵庫を見つめていたら、1日が過ぎてたわ。


 私は、なんで生きているの?


 彼を救うため?


 じゃあ、彼はなんで生きているの?


 彼が死んだら、私が生きる意味は(つい)えてしまうの?


 女たらしでもいいから、浮気してもいいから、死なないで、私が生きる意味は彼にあるのよ。



「ねえ、今何してるの?」


「言えない。言ったらきっと君が悲しむから。言えない」


「小説はもう書かないの?」


「今、忙しいんだ」


「そう」



 でも、彼が芥川賞作家になるのは、必然。


 彼に全てを教えることはできないけれど、備忘録としてここに記しておくわ。



「ねえ、あなた。何が飲みたい?」


「スターバックスのドリップコーヒーがいいな」


「買いに行ってくるわ」


「それは悪い。最寄りの近くの店で買う」


「そう」



 あれから、五十年。


 ずっと待っているけれど、いまだに会えない。


 リブ・フォーエバー?


 フォーエバー・アパートの間違いよ。



――杉咲の場合――

 


「杉咲さんはじめまして」 


「前に会った気がするよ」



 私は、鼻を掻いて、目をパチクリさせる。


 それは、もどかしくて、〇〇さんの顔をまともに見ていられなかった。



「なんてお呼びすれば?」


「名前で呼んで?」



 〇〇さんは、私の名札を見て、視線を再び私に戻した。


 私は、彼のことを知っていたけれど、どうにも恥ずかしいので、白い机に目線を向けて、視界の隅で彼を捉えた。


 彼の茶色い瞳が、陽射しを反射して、一層魅力的に感じた。


 今でも覚えている。


 これが、私、杉咲ヒマリの始まり。


 

「名前ですか? 杉咲さん、お名前は?」



 3年前、過去の彼に会った時、彼は私に名づけてくれた。



――3年前――



 目を覚ますと、彼のすぐそばにいた。


 〇〇君は、優しくて、私のことを気に入ってくれた。



――覚えてるかな?



 私は尋ねた。



「なんて呼べばいい?」


「〇〇だよ。〇〇って呼んでほしいな」


「わかったよ」


「君のことは? 君のことは、なんて呼べばいいかな?」


「・・・」


「ちょっとまってね」


「これなんて、どうかな?」


「なんて読むの?○○君」



 なんだろう。この感覚。名前を呼んだだけなのに。体が幸せで満ちていく。



「ヒマリって読むんだ。『太陽のように明るくて、向日葵のようにまっすぐと』どうも素敵じゃないかな? やだなあ、我ながら恥ずかしいじゃないか」



 これが、私ヒマリと〇〇さんとの出会い。


 忘れられない思い出。


 大切な思い出。


 なぜなら、私ヒマリは、〇〇さんのために生まれてきた。


 親と愛を育むのは、禁断だけれど、〇〇さんは、名付け親だから、許される。




バステッド……今日からは私は杉咲だよ

・補足


○○さんは、好きなように解釈してください。


男性の場合、苗字でも名前を入れても、小説の中に登場人物として加わることができます。


女性の場合、主人公の記憶を追体験できます。

おそらく、読者の皆様は、イヨミでも、杉咲でもないと思われますが、共感できる部分があれば、幸いです。

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