The one and only DIDって知ってる?
別名 解離性同一性障害。
俗に多重人格とも呼ばれるそれを私達は、彼に付与した。
最初は戸惑ったと思うわ。
彼は、自由自在に意識を、人格を変えることができたの。
でもね、これだけは言わせて。
彼は、もう彼ではなくなってしまったの。
私が彼を作ったのか。
彼が私を選んだのかは、わからないけれど。
彼はもう彼じゃない。
いつもすくそばで彼を見てきた。
愛を込めて言うならば、微笑ましかった。
くだらなかった。
彼に災いが降り注いだ時、私は何もできなかった。
彼は言っていた。
「イヨミ、君に救われたんだ。僕は、君に救われたんだ。もし君があの時、『大丈夫よ』と言わなければ、僕は死んでいたかもしれない」
一瞬目を離した隙に、何時間も何日も時間が経過していたの。
私が急いで駆けつけた時には、彼は死に直面していて、彼はそこからおかしくなってしまった。
過度に死を恐れるようになったの。
死はそう簡単には、やってこないわ。
人間が死ぬ理由はいくつかあるけれど、どれも限界を超えた時。
体が悲鳴をあげるの。
黙ってみていることなんてできなかった。
彼は、その時死んだほうが幸せだったのか。
助けて正解だったのか。今でも考えてしまう。
そこで、私は考えたわ。
彼になりすませばいいと……
私は、彼になった。
解離性同一性障害は、作為的に起こせるのだけれど、人格や精神、彼はそれを精神と呼んでいたわ。
私達の時代で、体は必要とされなくなる。
所謂、情報体とでも言うのかしら。
精神を統合するの。
形を形成していくの。
そうやって、私は生まれた。
もう何も覚えていないけれど、彼のことだけは覚えている。
私は、世界大統領の彼に命令されたの。
私のスコアは、A+だった。
「俺を救ってこい」
私が適任者だった。
私なら救えると思っていた。
手遅れなんて言葉知らない。
私は、救いたいの。
ただ、それだけ。それだけのこと。
私が彼になって、感じたことは、世界大統領の彼の命令、指示は的確で、どれも的を得ていたわ。
まず、彼は2019年に死ぬはずだった。
死を回避する方法はないか。と、何度も考えたわ。
タイムマシンを使う?
細胞の成長を止める?
死そのものをなくしてしまう?
どれも、できかねたわ。
タイムマシンなんて、ないし、それこそ細胞の成長を止めるだなんて、神様じみたこと、あの人にしかできないわ。
でも、死そのものをなくすことは、可能かもしれない。
私達の時代では、死が存在しない。
人類が夢見てきた。
永遠の命。
リブ・フォーエバー
報告によれば、彼は二百歳まで生きているそうよ。
この目で確かめたことはないわ。
報告なんて、いくらでも偽造できる。
この世は嘘で塗れている。
嘘も偽りもなくなってしまえばいいのに。
いいのに……だなんて。
あなたの好きなAさんもきっとそう言うわ