Cross paths again 今日は何が食べたいの?
私は、遥か彼方から来た未来人である。私の目的は、この地球でとある人物の成長。
彼の名前は――
彼は何も知らない。彼はまだ、彼ではない。
私の名前は、イヨミ=クラスト。
これは、彼が偉人になるまでの物語である。
私と彼の最初の邂逅は、とある出来事によるものだった。
彼は、タイムマシンの開発者であり、世界大統領であり、歴史に名を残すはずだった。
私が目にした彼は、まだ幼く大学生だった。
彼は、勤勉であり、読書を好んでいた。
私達は、彼の未来の姿を知っている。
そこで、彼の脳内に潜入し、洗脳を試みる。
不思議に思ったかもしれない。
彼は未来で偉人になるが、なぜ洗脳する必要があるのか。
私だけが知っている。
彼には、いくつもの変異体がいるのだ。
天才科学者のマッドサイエンティスト。
悪名高きサイボーグ。
芥川賞作家。
本当ならば、彼はハーバードに行くはずだった。
だが、私達が来たことにより、時間軸が変更される。
これにより、またしても変異体が増えてしまった。
Fランから、ハーバードに行った狂気の天才。
その変異体の名は確か、くs……どうやら、忘れてしまったようだ。
彼は、現在の大学を辞めて、ハーバードに行くはずだった。
何の手違いか、彼は辞めなかった。
私達は、どこにもぶつけられないその感情をひたすらに押し殺した。
彼を責めることはできない。
未来を知らない彼に罪はない。
それから、しばらくして、彼を洗脳することを決意する。
未来では、彼は、エイリアン。火星人。人間じゃない。と、一種差別的な比喩をされるが、それは間違いではなく、実に正しい。
タイムマシンの開発は、人類にとって、歴史的快挙であり、彼の銅像が、未来では、建てられている。
私の名前について、紹介しておきたい。
私は、いつもイヨミさんと呼ばれることが多い。
私のことは、イヨミさんと呼んでいただきたい。
あなた「イヨミさん」
こんにちは、お呼びですか?
アイスブレイクはこの辺にして、本題である私の名前について、記しておくとする。
実は、私の名前の名付け親は、他の誰でもなく彼であり、イヨミとは、異様や、伊予など実在する言葉から取ったものであり、私は、彼からすれば、異様なのであろう。
それをもじったがために、イヨミとなった。私の美しさは、彼も忘れられないだろう。
つまり、ミは、美しいのミ?未来人のミ?未知のミ?
それとも醜いのミ?
ふふ……
正直なところ私の名前に、私はあまり興味がない。
あなた「じゃあ、クラストは?」
ここで答えないのは、私の癪に障るので、この時代における解釈について、触れておく。
「クラスト」
一般的な意味は地殻
だが、私の解釈として知覚と捉えてもよし。
パンの耳とも言ったりする。
ある時、私がパンの耳でラスクを拵えてやった。
すると、彼が「おいしいねクラスト」と言ったのが、始まりである。
その言葉が、私の心に響いた。
クラスト……なんて、いい響きなんだろう。
だから、私の名前は、イヨミ=クラスト
私「あなた、お疲れ様。今日は何が食べたい?」
彼「夜だけど、パンがいいな」
私は彼に背を向けると、戸棚を開けた。パンは、今日の朝でなくなってしまった。
どうしたものか。
冷蔵庫を開けると、そこには、昨日作った、彼の好きなクラストラスクがあった。
私は、それを左手で持ち、右手で冷蔵庫の扉を閉めると、私から見て、キッチンの出口である、左側から、器用にスリッパを履きながら、彼の元へと、向かった。
私は、彼の肩を叩くと、彼は、私の頬に口づけをした。
私は、片方クラストを齧ると彼が口を開けたので、ポッキーゲームならぬ、クラストゲームをした。
彼が赤面したので、思わず謝ると……
「いいんだ。酔っていたら、ただじゃすまないだろう」
その彼の微笑みが今になっても、忘れられない。
あなたが好きなイヨミより