空き巣事件の結末とモンブラン
チリンチリン
「いらっしゃいませ。おや、先日の刑事さん。」
和栗が喫茶モンブランの扉を開けると、今日もカウンターで白いカップを布で拭いているマスターが声を発する。
「どうも。」
和栗は笑みを見せながら軽く会釈する。今日は前回と違いカウンターの中に若い女性が立っている。
(高校生くらいの女の子?バイト、いやこの前話していた妹さんかな?)
和栗はその女の子にも軽く会釈しながら、カウンターの席に向かう。
「お、和栗さん。その後どうだった?」
カウンターには今日も茂さんが座っており、和栗が近づくと話しかける。
「はい、本日はその報告も兼ねて伺いました。」
茂さんの一つ隣の席に座ると、早速メモ帳を取り出し、今回の事件の顛末を説明する。
「単刀直入に申しますと、犯人はマスターの予想通り、生島さんのバイト先の△□大学の学生でした。動機もマスターの予想通りでした。就活とバイトのしすぎで本来の学業をおろそかにしてしまったため生島さんに助けを求めたところ、すげなくあしらわれてしまったため今回の犯行を決行したそうです。生島さんがミニマリストだということは知らなかったそうで、部屋に侵入した時は驚いたそうですが、逆に好都合と考え、家にある物を盗むわけではないのでバレることはないと思っていたそうです。」
「やっぱり、マスターの推理が当たっていたんだな。それにしても、犯罪までするとは大胆な犯人だったな。」
茂さんは感心したように頷いている。
「お兄ちゃん、その人がこの前話していた刑事さん?」
カウンターの女の子がマスターに問いかけている。
「ああ、こちら刑事の和栗さん。」
マスターが紹介すると、その女の子は軽く会釈する。
「こちらは、妹の香織です。本日は例のものを食べにいらっしゃったんですよね?用意してありますよ。」
マスターはその女の子の名前を紹介しながら、笑顔で和栗に語りかける。例のものとは言うまでもなくモンブランである。
「はい、楽しみにしてました。コーヒーは合わせるならスイーツブレンドですか?」
「そうですね。それがおすすめですよ。」
「じゃあそれでお願いします。」
「かしこまりました。」
短い会話を済ませると、マスターはミルを取り出し豆を挽き始める。
「私の手作りなのでお口に合うかどうかわからないんですけど。」
香織が少し緊張した表情で和栗に話しかける。
(可愛らしい子だなあ)
その様子に少し表情を緩ませながら和栗が答える。
「いえいえ、楽しみにしてます。ところで、香織さんは学生さんなんですか?」
「はい、高校2年生です。平日は高校があるので週末だけお店を手伝っているんです。」
「それでケーキを作っているんですね。ケーキを手作りできるなんてすごいですね。」
「亡くなった母のノートを見ながら、作っているだけです。母がお菓子作りが好きな人だったので。」
「そうなんですね。」
(先代マスターのお父様だけではなく、お母様も亡くなられていたのか)
香織が少し悲しそうな表情を見せたことで和栗も少し無言になる。
「香織ちゃんのケーキは美味しいよ〜。私は毎週食べてるんだから。どんどん美味しくなっていってるよ。」
空気を察してなのか茂さんが陽気な声で香織を煽てる。
香織は少しはずかしそうにしながら俯く。
「ますます楽しみですね。」
和栗が笑顔を向けると、香織にも笑顔が戻り笑みを浮かべる。
「お待たせしました。」
図っていたかのようなタイミングでマスターがコーヒーとモンブランを和栗に提供する。
そのモンブランはTheモンブランといったような渦巻き状のモンブランクリームのてっぺんに栗の甘煮が乗っかっているもので、シンプルながら実に整った美しい見た目である。
(かわいい!)
その見た目に和栗は目を輝かせる。
「スイーツブレンドは、コーヒーの味を際立たせ、またケーキの甘みを引き出すために少し苦めの濃い味にブレンドしております。茶道のようにまずは、モンブランからお召し上がりください。そうするとよりコーヒーの旨味が引き出されますよ。」
マスターが笑顔で和栗に説明する。
「いただきます。」
和栗はフォークを持ちながら胸の前で手を合わせる。香織は緊張した不安な様子で和栗がモンブランを食べるところを見ている。
和栗はクリームの部分にフォークを入れると一口サイズにとり、それを口に運ぶ。
「ん〜!!」
声にならない声が和栗から発せられる。
和栗の顔は幸福に満ちているという表情をしており、その様子を見て香織も笑顔を見せる。
(美味しい〜!!!モンブランクリームはしっかりと栗の甘味と旨味を引き出しながら中の生クリームが甘すぎないおかげでバランスが取れている。しかも、下の生地がサクサクだから滑らかな口当たりのクリームとのアクセントが良い!!)
「美味しいです!」
和栗はマスターと香織を交互に見ながら感想を伝える。
そしてそのまま、コーヒーを一口。
深煎りならではのしっかりとした苦味が舌先に伝わりながらも、嫌な雑味や舌先に残るものはなく、モンブランの後味がコーヒーの香りと共に鼻から突き抜けていくような繊細なバランスを感じる。また、モンブランを食べると、モンブランの栗の風味が損なわれるどころか更にその栗ならではの味わいをより感じられる。
和栗は終始笑顔で食べ進める。その様子を茂さんも笑顔で眺めながら、コーヒーを飲んでいる。香織も嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「ごちそうさまでした。」
モンブランをペロリと平らげると、満足そうな表情を見せる。
「ありがとうございました。マスター、コーヒー美味しかったです。香織ちゃんもモンブラン最高でした!また来ます!」
「もう帰るのかい?」
茂さんが和栗に問いかける。
「実はまた次の仕事が入ったんですよ。モンブランだけはどうしても食べたかったので合間にちょっと抜け出してきちゃったんです。また落ち着いたらすぐ来ます!」
和栗はマスターたちに一礼するとお会計を済ませ、足早に退店する。
店の外に出ると、春から夏に変わろうとしている暖かい風が吹き抜ける。
「よし!」
和栗は気合いを入れ直し、次の事件の解決のために歩き始める。
空は気持ちのいいほどに晴れ渡っている。