香織と紗奈
5月も後半に差しかかり、空が梅雨の空気を帯びてきた頃
外はポツポツと小雨が降り、通りを歩く人たちは急な雨に小走りになったり、カバンから傘を出したりなどしている。
喫茶モンブランでは、今日もいつも通り茂さんがカウンターでマスターと話をしながらコーヒーを口に運んでいる。店内には茂さん以外のお客さんはおらず、2人のゆったりとした時間が過ぎている。それでも店内にはコーヒーの香りとゆったりとしたピアノの音色が満ちている。
チリンチリン
扉の開く音とともに、二人組の女の子が喫茶モンブランへと入店する。1人はマスターの妹、香織。そして、
「いらっしゃい、紗奈ちゃん。」
肩先を少し濡らした女の子にマスターが挨拶する。
「こんにちはです。マスターさん。茂さんもこんにちは。」
その女の子は、少し濡れた前髪を整えながら、少し緊張したように2人へ頭を下げる。
その隣では香織が折り畳み傘についた水滴を拭き取りながら、きれいに折り畳んでいる。2人とも急いできたのだろうか、少し息を切らしている様子である。
紗奈は、香織の友達で同じ部活動に所属している仲間でもある。長い黒髪の色白な美少女で身長も高校生女子の身長よりも高く、すらりとした体型の女の子である。纏う雰囲気は穏やかな優しそうなものであり、校内の男子たちからも高い人気を誇っている。
「急に雨に降られちゃったのかい?」
茂さんが、少し雨に濡れてしまったのであろう2人の方を向き、話しかける。
「そうなんです。急にポツポツ降ってきて。紗奈が傘持ってないって言うので2人で傘に入って、ここで雨宿りしようって。」
香織が答えると隣で紗奈が小さく頷く。
2人は濡れた制服を軽くタオルで拭き、そのままカウンターまで進むと茂さんの横に2人並んで座る。香織は手鏡を取り出し再度前髪を整えている。なぜか少し緊張した表情を見せて、席にちょこんと座っている。
「何か飲むかい?」
マスターが2人に問いかけると、紗奈が口を開く。
「マスター。今日はお悩みブレンドを注文したいんですけど。」
少し申し訳なさそうにしながら、マスターへと話すその姿は愛らしさを感じる。その紗奈の表情を見て香織は少し頬を緩めている。
「珍しいね。紗奈ちゃんがお悩みブレンドを注文するなんて。」
マスターも少し驚いた表情を見せる。
「ここ一ヶ月ほど学校で不思議なことが起こっていて、香織ちゃんと2人で考えていたんですけど全然わからなくて。マスターなら解けるんじゃないかなって。」
紗奈と香織はお互いに顔を見合わせる。その後、香織はマスターを見ながらうんうんと頷く。
「学校で不思議なことねえ。何があったんだい?」
茂さんが紗奈と香織に質問する。すると、紗奈が一息ついてから、茂さんに答える。
「はい、チョークが消えるんです。」




