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夢で。

夢の中に出てきた。

作者: 熊野夢春

夢の中にでてきた。


少しの街灯で照らされた夜道から換気扇とゴミ箱とが雑多に入り交じる路地裏に入った。辺りは蝉の鳴き声が少しだけ聞こえている。路地裏とはいえこちらも明かりが灯っており歩くのには充分だった。少し歩いて私はある店に入った。消えかかったネオン看板が掛かった古臭い店でもう何十年もここに建っていたことが見てわかった、中は狭いコンビニのような内装だった。色んなものがジャングルのように陳列され手書きのポップと色落ちしたポスターが貼られていた、まるで遺跡だ。私はアイスケースに辿り着いた。私は一つチョコのアイスを取り出した。木の棒に刺さった箱状のアイスだ、さっさと買って店の前で食べてしまいたい。そう思いそのアイスを持ってレジに向かおうとしたその時、あの子が目の前にいた。ラフな格好をしていた、ねずみ色の短パンと明るい色のシャツを着ていたと思う。あの時と同じの髪の長さ、顔、姿だった。二度と会えないと思っていた。二度とお話出来ないと思っていた。アイスケースを挟むように私は思わず声をかけた、

「久しぶり。」私は少し掠れた声でそう言う。様子を伺うと

「うん、久しぶり。」

彼女はこちらに見向きもせずそう言い放った。その声は少し機械的で受けた言葉に自動で返すようなそんな感じだった。彼女もアイスを選んでいたようだ。こちらに一瞥もくれずアイスを選んでいて悲しみがこみ上げてきた。彼女にとっては会いたくもない人にあったのだからそりゃそうだなと思いつつ、また声をかけようとした。その時、彼女はアイスも選ばずに足早に出口に向かった。私は追いかけて思わず手を握ってしまった。

「待って。」さっきよりもハッキリと伝える。

彼女はこちらを見て目を丸くしていた。その顔を見たら、色々なことを思い出してしまった。私は思わず手を離した。


「別れよっか。」「…うん。」

「ねえ、なんで私なの?」

あの芝生の公園がフラッシュバックする。


彼女は何も言わず振り返って店から出ていった。カランとドアベルが鳴る。私はすぐに追いかけて店の扉を突き飛ばすように開けて出るとすぐに追いかけたはずなのに何故か彼女は遠くにいた。私は俯いて何も言えなかった。何を伝えたらいいのか。色々な事が思いついていたが、全て口から出る前に胸から溶けて出ていった。

私がもう一度彼女を見たら、彼女は一緒に居た時みたいに、ゆっくりこちらに振り返って優しく微笑んだ。何か言っていた気がした。口が動いていた気がした。私の願いなのかもしれない。夢だからって。けど確かにしばらくの間、見たくても見れなかった過去のあの子に会って、彼女の笑顔を見た。あの芝生の公園、一緒に散っていた桜を見ていたね。

彼女は遠く遠く離れていった。あの時みたいに。私は繰り返す様に見送った。

後ろ姿が見えなくなってから私は店に戻った。店員に謝罪をしてアイスをレジに通し、忘れていた暑さを思い出した。吹き出ていた汗を拭った。

アイスはドロドロに溶けていた。私の心も。


ふと思った。

彼女は何のアイスを選ぼうとしてたんだろう。

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