<異世界短編> 魔法使い(万能系)が雇われて
ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。
私はパナセーア。数少ない魔法使いの中の、更に希少な『特級』の魔法使いである。特級とは実績もろもろ含め、特に優れた魔法使いに与えられる称号である。
この称号を手に入れる為に、一体どれほどの賄賂を払って・・・、いや、どれほどの修行を積んだことか。落差200mの滝に打たれたり、剣先の上を裸足で歩いたり、ペンキを塗ったりワックスをふき取ったりなど、今思い出しても鳥肌が立つ修行ばかりであった。
そのお陰か、私はどんな系統の魔法でも多彩に使いこなすことが出来る。火、水、風、土、身体強化、聖に闇、そしてちょっとエッチな魔法もだ。さあ、こんな私にふさわしい依頼はあるかな、と掲示板を探していると目についた貼り紙があった。
『急募:どんな魔法でも多彩に使える魔法使い募集。体力に自信があれば尚良し』
依頼元はテクノーラ社と記載がある。魔道具を扱っているらしいが、私は聞いたことがなかった。
『体力に自信があれば』という文言が多少引っかかったが、それは身体強化の魔法で何とかなるだろう。そう考えた私はこの貼り紙を手に取り、受付へ向かった。
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『マドコップ ―新作魔道具展覧会―』
そう書かれた大きな看板が掲げられた会場が、仕事の指定場所であった。中に入ると会場はとても広く、そこかしこに会社の紹介板と新作魔道具と思われる展示品が飾られている。
人混みの中を縫うように歩いていると、やっとのことで依頼先である『テクノーラ社』のブースを見つけた。ブースの中では、若い男と壮年の男性が話し込んでいた。
「・・・うまくいきますかね、センパイ?」
「それは依頼を受けた人次第だな。うまくいかなかったら・・・ 転職先を探すしかないだろうな」
「そんなあ~、僕この間、子供が産まれたばかりなんですよ。路頭に迷うことになったら、どうすればいいのか・・・」
「だったら気合を入れるんだ! この案が上手くいけば、きっと大成功する!」
取り込み中のようだが、私は声をかける。
「あの・・・」
しかし、なかなか気づいてもらえない。そこで私は、小さな爆発魔法を放った。
パァン!
「う、うわっ!」
「な、なんだなんだ!?」
ここで二人はようやく私に気付いたようだった。
「ギルドの依頼を受けたものだが?」
私がそう言うと、若い男の方が近寄ってきた。
「あ、そ、そうだったんですね。これは、失礼しました! ・・・あの、さっきの音はあなたが?」
「ああ、そうだ」
私は答えると同時に、さっきと同じ魔法を放つ。
「す、すごい・・・。 あ、私はテクノーラ社のカインと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
カインと名乗った若い男は、丁寧なお辞儀をした。すると、今度はもう一人の壮年の男性が近づいてきた。
「あんた、あんな魔法を使うなんてなかなかの腕前みたいだな。他にはどんな魔法が使えるんだ?」
「・・・・・・」
私は問いには答えずに、『特級』の証である翡翠のペンダントを二人に見えるよう目の高さに掲げた。
「あ! こ・・・ これは、特級魔法使いの証!」
「え! こ、これが!? 僕、初めて見ました!」
二人は私が特級魔法使いと知って、大いに驚き口調も丁寧なものへと変わった。これこれ、この反応がたまらなく気持ちよく、特級になって良かったと私は暫し感慨に浸る。
「特級の人がやってくれるのなら・・・ セ、センパイ!」
「ああ! この人なら、きっとイケるぞ!」
二人の異様な喜びようの理由がわからなかったが、私はとりあえず依頼内容を尋ねた。
「して、今回の依頼内容というのは?」
「はい、依頼というのはですねえ。・・・ちょっと、こちらへ来て頂けますか?」
そうして私は二人に付き従い、ブース内のテントへと入っていったのだった。
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「・・・これを?」
「はい、そうです! パナセーア様!」
私が指差した先には、鉄で出来た甲冑のような物体があった。
「これを着て、一体どうしろと?」
依頼なので断るつもりはなかったが、せめて理由は知りたい。すると、壮年のセシルと名乗った男性が説明を始めた。
「実はですね、我が社では今回の展示会に間に合わせるべく『魔道ロボット』というものを開発中でした。ところが、色々とありまして展示会に間に合わなくなってしまいまして。・・・そこで、考え出したのが」
「誰かにロボットの振りをしてもらう、と?」
「その通りです」
私はふうっと大きなため息をつく。まさか、特級魔法使いの私がロボットの中身の役をやらされることになろうとは。
それに『魔道ロボット』と言えば、数ある魔道具の中でも特に難しい分野であり、国家レベルでの研究がなされていると聞く。そんなものを、こんな名前も聞いたことがない弱小メーカーが作れるはずなどない、と私は思った。
「「それで・・・その・・・、やって、いただけます、か?」」
二人は私が考え込んでいる様子を見て迷っている、と感じたようだ。
「まあ、いいでしょう。展示会の期間中だけですよね?」
「「・・・は、はい! ぜひとも、よろしくお願いします!」」
私が承諾すると、二人は土下座でもせんばかりの勢いでお辞儀を何度も繰り返したのだった。こうして私は開発中のロボットの仕様を教わり、魔道ロボットになり切ることにしたのだが・・・
「そう言えば、このロボットの名前は何と言うのです? まさか、私の名前を呼ぶわけにもいかんでしょう」
「はい。名前は開発コードから取りまして、その名も『出来るんデス』です!」
カインが力強く答えた。
「そう、ですか・・・」
(名前のセンスが・・・(汗) きっと開発中のロボットも大したものではないのだろう)
適当に相槌をうってはいたが、心の中では毒づいていた。
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そうして私のロボバイトがスタートする。
「さ~、皆さん、寄ってらしゃい、見てらっしゃい。我が社が開発した魔道ロボット『出来るんデス』君の性能をとくとご覧あれぃ!」
二人が呼び込みを開始すると、『魔道ロボット』の言葉に惹かれたのか、人が続々と集まってくる。
「さあ、出来るんデス! 君の性能を見せてやるんだ!」
そこそこ集まったところで、セシルが指示を出す。
「わかり、マシタ、マスター」
ロボット口調で答えると、大きな火炎魔法を繰り出し目の前にあった肉をこんがりと焼いてみせた。
「おおっ! すごい!」
「ちゃんと、受け答えしたぞ!」
客は一様に驚く。この反応からすると、今私がやった動きは世の中のレベルよりも相当に進んだ性能のようだ。これで気を良くしたのかセシルとカインは私に次々と指示を出し、私はそれに応えた。
その結果、客が客を呼ぶ形で人がどんどん集まってくる。そうした中、一人の女性が私に話かけてきた。
「すごいですね。あなた、お名前は?」
その女性はブロンドヘアーに青い瞳をした、かなりの美女であった。
「私の名はパナセーアです。素敵なお嬢さん」
私はつい自分の名前を流暢に答えてしまう。するとセシルが私の頭をスカン!とはたき、テントの中へと引っ張っていく。
「困りますよ、パナセーアさ~~ん。ロボットが流暢に、しかも自分の名前を答えたらダメでしょ~?」
「す、すまん。美人だったので、つい」
私は素直に謝り、自分がロボット(の中身)であることを再度認識する。
その後会場に戻ると、お次は荷物をある場所から別の場所へと移動させる指令を出された。
「わかり、マシタ。マスター」
今度はロボット口調できちんと応答し、荷物を持ってスタスタと歩く。
「おお、すごい!」
「動きが人間みたいだ!」
観衆が驚く中、今度はカインが甲冑の隙間から棒をお尻に突き刺した。
「(うんげぇ!)」
悶絶する私を、カインはテントの中へと連れ去っていく。
「ダメですよ、パナセーアさん! ロボットがあんな動きしたらダメでしょう!? もっとこう、油が切れた動き感を出さないと~~!」
「わ・・・ わかった」
雇われた身である以上、私は素直に謝った。だが、内心では腹立たしさが渦巻いていた。
(よくも特級魔法使いである私をはたいたり、尻に棒を突き刺したな~(怒)。 油が切れた動き感? なんだそりゃ! そもそも、お前らの失敗を、私が尻ぬぐいしてやってるんだぞ!)
そう思ったが、この展示会限りだと自分に言い聞かせて落ち着いてから、会場へと戻った。
「よ~し、もう一度だ! 出来るんデス!」
「ハイ、マスター」
再度の指令に対し、今度は、
「ウイン、ウイン」
と口ずさみながら、油の切れた動き感を見事に表現し、会場を大いに沸かせたのだった。
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そうして展示会の最終日がやってくる。
私の活躍のお陰で、テクノーラ社のブースは連日人だかりが出来ていた。そのせいもあり、私は重い甲冑を着て暑い中を休み無しに動き回る羽目になっている。
(これ、普通の魔法使いだったら死んでるぞ!?)
私は身体強化と冷却の魔法を自分にかけてなんとかやり過ごしているが、それでもきつい。そうまでして頑張っているというのに、この二人ときたら、
「さあ、次はあれとこれとそれを同時にこなすんだ! 出来るんデス!」
「なに、疲れただ? 我が社の魔道ロボットは連続三日稼働が出来る仕様だぞ! さぼろうとするんじゃない! んデス!」
連日超満員で注目を浴びたせいか、どんどん調子に乗ってきている。特にカインは略称で呼んでいる。
(特級魔法使いを顎で使いおって~。 それと、仕様を超えた指令を出すんじゃない!)
私のフラストレーションは限界に近づいていく。
すると突然、会場の一画でざわめきが発生する。
「う、うわ~~~!!」
続いて観客の叫び声が響く。なんだなんだとざわめきがあちこちへ広がり、大きくなっている。
「ま、魔物が~!!」
「檻から逃げたんだ! 危な~い!」
ちらほら耳に入る叫び声から、どうやら展示会に連れてきていた魔物が檻から逃げ出したようだった。
(なぜ、魔物を連れて? デモンストレーションのためか?)
そんなことを考えていると、叫び声が徐々にこちらに近づいくるのがわかった。
「せ、センパイ。ど、どうしましょう?」
「だ、大丈夫さ。ここまでは来ないだろう」
カインとセシルは明らかに怖気づいていた。
「きゃ~~~!!」
そんな中、突然女性の叫び声が一際高くあがる。声の主を見ると、先日見かけたあのブロンドヘアーの美女であった。
「あ、危ない!」
考えるより早く私の体が動く。魔物が女性に襲いかかる瞬間、私は彼女の目の前に立つと同時に風魔法で魔物を見事に切り裂いた。
「「おお! すごい!」」
「「あれはなんだ!?」」
「ロボット?」
当然ながら、皆私に注目する。ここで私にある閃きが浮かんだ。ポーズを取り、大声で叫ぶ。
「私はテクノーラ社が開発した魔道ロボット・出来るんデス、デス! 家事から魔物退治まで何でもこなす優れものデス! 只今、先行予約受付中で、展示会中にご予約頂いたお客様は三割引きデス!!」
最後には決めポーズも取った。すると、周囲にいた見物客が次々とテクノーラ社のブースに押し寄せた。
「お、俺は予約するぞ!」
「うちもだ!」
「私は三体買うぞ!」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます! ・・・センパイ、これで我が社も大丈夫ですね!」
「あ、ああ・・・」
殺到する予約にカインは素直に喜んでいたが、セシルの方は浮かない顔をしていた。そして、私はそんな彼の表情を見て確信した。
テクノーラ社には魔道ロボットを作れる技術など無い、ということを。だから、こうして魔法使いを呼んでロボットの真似ごとをさせたのだ。
だが客の予約を受け付けてしまった以上、何らかの対応を取る必要があるだろう。その時どうするのか、見物である。
「良かった、デスね。マスター」
私は彼らには見えないであろう満面の笑みを浮かべ、ロボット口調で話しかけるのであった。
おわり




